特別な約束
「ハンスっ!」
息を切らせたシャルルがハンスの胸に飛び込む。
「来てくれたんだね…もう、会えないと思ってたよ…」
「僕も、どうしてもあんな別れ方が嫌で…迷惑かもしれないけれど会いに来た…」
小さな二人はお互いにきつく抱きしめあった。
「ねぇ、星を見に行こう?私、もう一回あそこに行きたい!」
「いいよ!行こう!」
二人はさっそうと山犬に乗り込むと、星の見える例の山を目指した。山犬はいつものように全速力て北風を切って走ったが、今は二人とも胸の温かさでちっとも寒さなど感じなかった。
山に着いた。二人は手を繋いだまま、星空を仰いだ。大きな大きな満月が浮かんでいた。手を伸ばせば、届きそうな、息を吸い込めば月の香りが嗅げそうな、そんな場所だった。
「シャルル、もうアルイディには戻って来ないの?」
「…いつか、お許しが出たら、ハンスに会いに戻るよ。」
「僕も、大人になったら、ブルエまで君に会いに行く。もし、僕にまた会いたくなったら、星を見て。その時はきっと僕もシャルルに会いたくて同じ星を見ているから。」
「うん、多分毎晩見てるよ。オリオン座におおいぬ座、子犬座。絶対忘れない。約束!」
シャルルは笑いながら、小指を出した。ハンスは微笑みながらそれをそっと両手で包み込むと、シャルルの小さな赤い唇に、そっと、口づけた。
「…なあに?」
驚いたシャルルはきょとんと目を丸くしている。
「これは、大切な人とする特別の約束のおまじない。」
心なしか、ハンスの頬はさっきより赤い気がする。
「そっか…」
今度はシャルルが目をつむって、ハンスに口づけた。そして、瞼を開くと「約束。」と言って微笑んだ。