満月の夜
ついに終盤です…!
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます;;
ラストまで、もう一息、頑張ります!
もう、月はほとんど満月に近くなっていた。そして、おそらくこれが二人の少女が人間でいられる最後の日であった。三人は実に普通に、何でも無い様な平和な一日を過ごした。別れなど全く忘れているかのような穏やかな一日であった。夕食は三人で野菜をむき、肉を炒め、パンを焼き、サワークリームをたっぷり使ったビーフストロガノフを作って食べた。いつもよりうんと美味しく出来て大成功だった。いつもとちょっと違うのは、お婆さんが地下室からワインを持ち出したこと。お婆さんが生まれた歳にできたといわれるかなりの年代ものだ。もちろん、シャルルもマルタもワインは初めてだったが、さすがはもとお人形。飲んでもケロリとしていた。
「うん…渋くて酸っぱい…不思議な味だ。」
「あら、私は好きだわ。チーズなんかが合いそうね。」
「ほっほっほっ、二人とも、もっと近くにおいで。」
二人の少女はお婆さんの左右に寄り添った。
「ちょっとだけのお別れだよ。お前達はすぐにまた呼び戻してやるからね。なんたって、私の一番のお気に入り達なんだから。」
ああ、お婆さんに何度こうして髪を撫でて貰っただろう。その優しい声、お人形達を見つめる瞳の輝き、そこには深い愛がいつもあった。可愛いお人形達への愛、そしてもはや誰も知る由もないが、そのお人形達を託していったお婆さんの大切だった人達への愛。お婆さんの深いしわの一つ一つには全て長くて深い物語があり、それが魅力をなしていた。いつの間にか年代物のワインは三人をまどろみの中へ誘った。




