最後のお茶会
ハンスのお母さんが焼いたクッキーとお紅茶で三人は楽しい午後を過ごした。温かい家庭。ハンスは妹を思いやり、同じようにシャルルにも親切だった。そして、マルタにも実に紳士的に接し、お茶が終わる頃にはハンスを警戒していたマルタもすっかり打ち解けていた。ハンスは二人に星の話から、学校の話、町で流行っている事、最新のファッション、ありとあらゆる面白い話をして聞かせ、おかしな洒落なども披露した。そんな話を聞いてマルタが笑うと、シャルルも自分が褒められたかのように嬉しくなり、つられてきらきら笑った。一方オリビアはシャルルに会えなくていかに寂しかったを切々と話し、お母さんに作って貰ったという緑のドレスを着た、お人形のシャルルをマルタに披露した。それは量産型だったが、確かにどことなくシャルルに似たお人形であった。
もう帰ろうという時に、突然マルタが切り出した。
「ハンス、オリビア、聞いてくれる?私たち、次の満月には森を出なければならないの…。」
ハンス、オリビア、そしてシャルルまでもの表情が固まった。
「私とシャルルの本当のお家はブルエの国にあるの。今は家の事情でバネッサ様の所に居候しているけれど、両親がとうとう私たちを迎えにくるのよ。だから…」
マルタは続けた。
「折角仲良くなれたけれど、もしかしたらもう…」
その先は続かなかった。辺りはしんと静まり返った。しばらくしてぽつりとハンスが口を開いた。
「それは、本当なの?シャルル…?」
青い目が、泣きそうな青い目がシャルルを見つめる。
「うん…。」
これ以上そんな瞳を見つめていられなくて、シャルルはうつむいた。オリビアは良く状況が読み込めていないのか、ぽかんと立ち尽くしている。
「帰ろう、マルタ。お婆ちゃんが待ってる。」
シャルルはマルタの手を取ると、森への帰り道を歩き出した。