或る兄妹の会話 * お婆さんの魔法
或る兄妹の会話、追加しました*
あの人を連れて行くのはどの悪魔だ。
優しくて聡明なこの国に必要不可欠なその人を。
ちぎっては捨てちぎっては捨ての花びらのように
悪魔は命を弄ぶ。
さあ、泣かないで、妹よ。
顔をあげて。
僕はずっと側にいる。
星になって見守るよ。
君は沢山の人達と、その愛に囲まれて暮らすんだ。
そうしたら、僕も戦う意味があるってものさ。
そうだ、君にプレゼントをあげよう。
100年後に届くプレゼントさ。
だからもう、泣かないで、ね?
………
月は再び森に現れ、徐々にその形を太らせていった。再び半月がやってきた。二人の献身的な看病のかいもあり、お婆さんはもとの元気なお婆さんに戻っていた。
「今夜は星が良く見えるね。きっと明日は良い天気になるよ。」
マルタの作ったシチューとパンを頬張りながら、お婆さんは言った。お婆さんの体調が良くなったこともあり、マルタとシャルルの殺伐とした空気も、今夜は和らいでいた。どちらも、お互いに仲直りのタイミングを見計らっていた。やっぱり、喧嘩は嫌なもんだ。
「明日、二人に町までお使いに行ってもらうよ。いいね?」
シャルルの顔がぱっと輝いた。しかし、その表情は次の瞬間陰りを見せた。マルタに言われた事を思い出したのだ。実際、シャルルがお婆さんの看病に勤しんでいる間も、何通かハンスから伝書鳩で手紙が届き、一緒に遊ぼうというお誘いがあった。しかし、その一件やお婆さんの具合が良くない事もあって、シャルルは断りのお返事をその都度出していた。マルタはそのシャルルの一瞬の表情の変化を見逃さなかった。マルタは何かを決心した。
お婆さんの天気予報は良く当たる。こんなに気持ち良く晴れ渡った冬の朝は久しぶりだった。いつものように、お婆さんは二人の少女に身支度をしてやり、お買い物のメモを渡した。木いちごにクルミ、小麦粉にミルク、バターに卵、お買い物リストを見ているとうきうき楽しくなってくる。お婆さんはきっとケーキを焼くつもりだ。二人の大好きな甘い甘いケーキ。お婆さんの焼くケーキは誰にも叶わない。だって、魔法の隠し味が入っているから。
「いってきまぁす!」
「気をつけて行くんだよ、二人とも。」
「はい、日が暮れるまでには戻りますわ。」
二人は見送るお婆さんに手を振りながら、町へと続く道を歩き出した。洋館の隣に広がる湖は氷が張っていて、それが日の光を反射している。霜の上を二人が歩くと、驚いた小鳥が冬のご馳走、熟した果実をくわえて飛び去った。マルタの左手がシャルルの右手に触れた。二人は、どちらからともなく手をつなぐと、そのまま無言で歩き続けた。小川の橋に差し掛かる頃には、二人は喧嘩していたことなどすっかり忘れていた。二人の大好きな歌「森の熊さん」を合唱し、シャルルが替え歌を作っては大笑いしていた。お婆さんの小さな仲直りの魔法は大成功。やっぱり、二人は仲良しじゃないとね。