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doll story  作者: 千裕
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愛のお人形

二人は黙々とお婆さんの看病を続けた。お婆さんはシャルルの姿を認めると、「おかえり。」と言って、安心したように眠りについた。スースーと安らかな寝息を聞きながら、シャルルは唇を噛み締めた。お婆さんを愛していないわけがなかった。


マルタはせっせとお婆さんのおでこの冷タオルを取り替えるシャルルを見ながら、考えた。ちょっと、言い過ぎたかしら…。冷静になって考えてみれば、シャルルは心配かけようと思ってやっているわけではない。無邪気なシャルルの性格を考えれば、「お婆ちゃんも好き!ハンスも好き!」なのだろう。きっと、シャルルは「マルタも好き!」と言ってくれる。そもそも、シャルルは愛玩用のお人形なのだ。愛し、愛される、そんな素晴らしさをシャルルを作った人形師は伝えたかったのかもしれない。又、シャルルを求めたお婆さんは、その様な「愛」を手にしたかったのかもしれない。もしそうだとしたなら、シャルルは十分役割を果たしたのではないだろうか。シャルルが屋敷にいれば、辺りは柔らかな空気が流れたし、シャルルに「大好き」と言われると、マルタの心もふわふわあったかくなった。


それに対して、とマルタは思った。自分は何をしているのだろう?焦る余りにシャルルまで傷つけて、薬も出来なくて。自分の方が、役目をまっとう出来ていないではないか。お婆さんの魔力はもうほとんど残っていない。もし、次があるとしても、きっと目覚められるのは一体だけだ。きっとお婆さんが最期の日に一緒にいたいと思うのは、愛に満ちた可愛いシャルルだろう。そう考えれば、薬はどうしても次の満月の前には完成させなければならない。お父さんが望んだ、不老不死の薬。老いや病、悲しみや苦しみ、そして…死、全ての負のものから身を守ってくれるこの世のタブーとも言える薬。それを、お父さんはバネッサ婆さんに贈りたかったのだ。愛する人に最高のプレゼントを、最高の幸せを、そう思って不本意に天に召されていったのだ。その想いの為に作られた自分に期待されること。それは、時を越えてお父さんの愛をバネッサ婆さんに届けること。二人の愛を永久不滅に繋ぐ事。それが達成できなければ、自分など存在した理由がない。マルタはお婆さんの寝室を出た。胸がカラカラと乾き、血の通わない人形の部分が体を徐々に浸食していく気がした。

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