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doll story  作者: 千裕
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古い洋館とお婆さん

夕日が山の端に沈み、空が次第に群青味を帯びてくると、一人の老女は煤けたアルコールランプに火を灯した。暖かなオレンジ色の光が質素なだだっ広い部屋を包み込む。部屋には三つの燭台、昔ながらの長い蝋燭にお婆さんは順に火を灯した。冬が迫っていた。古びて薄っぺらくなったビロードの絨毯は広すぎる部屋の暖を守ってはくれず、扉からも背筋をぞくっとさせるすきま風がひっきりなしに吹き込んだ。お婆さんはガウンの襟元をきゅっと閉めると、地下室へランプを持ったまま降りていった。今夜は暖炉に火をくべないと、眠れそうになかった。


漸く部屋も暖まり、お婆さんのいつも楽しみにしている「世界のオーケストラ」というTV番組も終わってしまい、司会者が「チャンネルはこのまま!」と言うのを聞き遂げると、お婆さんはふっと思い出したかのように揺り椅子から立ち上がった。


洋館には沢山部屋があったが、お婆さんはそのうちの三部屋しか使っていなかった。一つ目は大きなダイニングルーム。大抵はお婆さんはこの部屋でTVを見たり、編み物をしたり、本を読んだりして過ごしていた。大きなテーブルがあり、食事もこの部屋で済ませた。昔はお客様も沢山見えたのだろうか、食器棚には品の良いティーセットが並び、テーブルには揃いの6脚の椅子が、天井には豪華なシャンデリアが掛かっていた。しかしそれらはここ何年も使われた様な形跡は見られず埃を被っていた。キッチンはこざっぱりと整頓されており、鍋はよく磨かれていた。棚には自家製のジャムやピクルスが並び、変わったハーブ類も並んでいる。魔法の薬にでも使われそうな葉っぱだ。このダイニングルームに隣接しているのが、お婆さんの寝室で、二つ目の部屋。そして、三つ目が色々物置となっている先ほどの地下室だ。

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