人形師
マルタのターンです!個人的にはマルタが好き。
パーティの日から何となく上の空のシャルル、そして冬の寒さが堪えたのか鼻水で鼻が真っ赤のお婆さん。そんな二人を心配しながらマルタは朝食の片付けをテキパキと終えた。分厚い本をめくりながら、キッチンの棚から何種類かの薬草を取り出し煎じ、それをおばあさんに手渡した。
「レシピにあった鼻水のお薬です、バネッサ様。今日は温かくしてゆったりしていらしてね。」
「ありがとう、マルタ。お前は本当にいつも気が利くねぇ。」
「そんなこと…私はバネッサ様にこうして仕えることが幸せなんです。」
端正な顔立ちが笑うと少しだけ幼くなる。本当に綺麗なお人形だ。お婆さんはマルタを人形師から受け取った遠い昔を思い出していた。あの人は腕の立つ人形師だった。そして、科学者でもあった。お婆さんは、「それじゃあ、お言葉に甘えて少し休もうかね」と言い、ガウンを引きずりながら自室へ戻って行った。
自分からお掃除を申し出たシャルルは、窓の外が気になるのか同じ窓ばかり拭いている。夢のようなパーティで、きっとまだその夢から抜け出せないでいるのだろう。マルタも昔パーティに行った事を思い出してみた。出席者は華やかな洋服を身に着け、楽しそうに会話し、ダンスし、お酒を飲んだ。マルタは確か…給仕をしていたのだった。しかし、マルタ自身も素敵なドレスを着せて貰い、お父さんはそんな彼女を来賓に次々と紹介して回った。その中の一人にバネッサ婆さんもいた。マルタとバネッサの出会いはそれが初めてで、その頃のバネッサはまだ若く、今の雰囲気から想像もつかない少しきつそうな印象であった。客らは皆口々にマルタの美しさを褒めたたえ、それを聞いたお父さんは凄く嬉しそうにしていたのをマルタは強く覚えていた。
「お父様…」
マルタは呟いた。マルタにはすべき事があった。