オリビアの秘密
シャルルはオリビアに罪悪感を感じながらも、ここはしらばっくれることにした。
「そんなお話があるんだ。私も森に住んでいるけれど、魔女さんにもお人形達にも会った事ないよ。」
「そうなんだ…。」
オリビアはがっかりしたようにうつむいたが、話を続けた。
「私ね、魔女のお婆さんにお願いがあるの。もう一度、お人形達を動かしてくださいって。そしたら、お人形達と遊べるし、それから…お兄ちゃんがヘータイにならなくて済むでしょ。」
「ヘンタイ?」
「… へータイだと思う。お姉ちゃん知らないの?ヘータイってお国の為に戦うんだよ。みんな男の子は憧れているけれど…ママが泣いていたの。ヘータイに行ったら、ハンスはもう帰ってこれないかもしれないって。とても痛い思いをするって。お兄ちゃんはとっても優しいから、みんなと喧嘩なんてできないと思うの。もし、魔女のお婆さんがお人形のヘータイを作ってくれたら、お兄ちゃんはずっとみんなと一緒にいられる。」
シャルルは自分はヘータイになどなったことは無かったし、お婆さんがお国の為にお人形達を戦わせたというお話も一度も聞いた事はなかった。しかし、目覚めてすっかり洋館の様子が変わってしまっていた事には気がついていた。大勢いた洋館のお人形達は10分の1に減って、お婆さんの寝室の棚に並ぶだけになっていた。お人形達にあてがわれた数々のお部屋は空っぽで、お人形達の陽気な歌声や、軽快なダンスのステップは聞こえなくなっていた。お掃除好きなトーマスがいなくなった洋館の床という床、窓という窓は煤け、輝きを失っていた。そんな変化に気づきながらも、それはどうしてか、などとはシャルルの幼く作られた頭では考えることすら及ばなかった。ただ、目覚めることがもう一度できて、大好きなお婆ちゃんとマルタに会えて、嬉しいという感情だけであった。シャルルは考えた。いなくなった仲間達は、ヘータイになったから帰ってこないのだろうか?答えは出なかった。唯一つ考えついた答えは、シャルルもハンスがいなくなるのは嫌だ、という事であった。