掟
パーティは子供達全員にとって特別な時間。お屋敷の中をどんなにはしゃぎ回っても怒られない。今日はハンスの家の屋根裏から地下室まで占領してかくれんぼだ。鬼になったハンスが「いち、に…」と数えだす。子供達ははしゃぎ声を上げながら、四方八方に散らばった。オリビアはすっかりシャルルになつき、さっき貰ったお人形のシャルルよりも明るく笑い喋るお姉さんシャルルに夢中だった。オリビアはシャルルのボレロの裾を掴んで引っ張った。
「こっちにきて。とっておきの隠れ場所があるの。」
二人は階段を駆け上がった。
オリビアは二階にある一番端の部屋に駆け込むと、クローゼットの中から玩具を次から次へと放り出した。ハンスの部屋、だろうか。壁には地図や星座のポスターが貼ってあり、ボトルシップや小さな望遠鏡が飾られている。きょろきょろとシャルルが部屋を観察していると、「早く入って!」とオリビアに怒られた。丁度二人が入るには十分なスペース。クローゼットの扉を薄く開けて様子を伺う。「ここなら安心。」満足そうにオリビアは微笑んだ。
数分二人は黙って静かにしていたが、なかなか鬼が見つけにこないのでオリビアの方から口を開いた。
「私ね、秘密にしていることがあるの。誰にも内緒にしてくれるならシャルルお姉ちゃんにだけ教えてあげる。」
「なあに?私、誰にも言わないよ。ほら、誓いの指切り。」
二人は薄暗いクローゼットの中でしかと誓いを交わした。
「私、もう少し大きくなったら、絶対やろうと思ってることがあるの。お姉ちゃんは森の洋館に住むお婆さんのお話、知ってる?」
「お婆さんのお話?」
「うん、魔女のお婆さんのお話よ。そのお婆さんは、たくさんのお人形を持っていて、そのお人形達を自由に操ることができるの!…でもね。」
しんとした空間に唾を飲み込む音が聞こえた。
「お兄ちゃんは、唯の昔話だって言ってる。そんなお人形なんかないって。でも私は信じているの。お婆さんも、お人形達もきっと今も洋館でくらしているって。」
シャルルははっと気がついた。森に洋館にお婆さん、そして…たくさんの人形達。全て本当の事だった。今幼い少女が話しかけている相手こそが、その子が信じているお人形の一体なのだ。シャルルは私がそのお人形だと喉まで出かかったが、お婆さんがいつも口を酸っぱくして言っている掟の事が頭を過り、そのままごくりと言葉を飲み込んだ。
掟。それは、生を受けた人形は決して他の者にその正体を見破られてはならないという事。もし、それを破ったとしたなら、いかなる魔術師、人形師の力を持ってしても、決して二度と生を受けることは叶わない。