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林兄弟


 土曜日の夕方インターホンが鳴った。モニターを覗くと男の子が二人。一人は陸斗の友達の林君。そしてもう一人も……林君だ。


 陸斗が「一緒に勉強する約束したんだ」と言って玄関に向かう。わたしも後を追った。


 林君……空君が「おじゃましまーす!」と、いつもの元気な明るい声で上がってくる。そのまま陸斗の部屋のある二階へ。


 残されたのはわたしと、久し振りに見た林君。わたしの同級生、海君だ。


 海君が「これ、母さんから」と言って、両手で紙袋を差し出した。受け取ると温かい。中を覗くと煮物のおすそ分けだ。


 林君のお母さんは時々こうして差し入れをしてくれる。

 いつもは空君が持ってきてくれるのだけど何で海君まで。不思議に思いながら「ありがとう」とお礼を言って、彼が帰るのを見送ろうとしたけど、玄関から動こうとしない。


「えっと……おばさんにお礼の電話しとくね」

「お邪魔します」

「え?」


 何を言ってるんだろうと、わたしは首を傾げた。


 林家一同、ご両親と林兄弟揃って父と母の葬儀に来てくれたけど、こうして海君とまともに話をしたのは中学校二年生のとき以来だ。しかも多分、おそらく必要最低限のクラスメートとしての会話のみ。

 空君は陸斗繋がりで頻繁に交流があるけど、海君とはほぼ、全くない。なのになんで?

 思考を止めていたら、海君は「あがるよ」と言って靴を脱いだ。


「あ、背が伸びてる」


 わたしは170センチある。中ニの時はわたしの方が少しだけ高かったのに、多分今は海君の方が5センチ位高い。思わず呟いたら、「高一からほとんど伸びてない」と返ってきた。


「それより今日はどうしたの?」

「お前の勉強みにきた」

「勉強? なんで?」

「母さんが、お前が学校行ってないって陸斗から聞いたらしい。で、行きたくなった時に苦労しないために、お前の勉強見てやれってさ」


 学校に行ってないことを知られているとは思っていたけど、久し振りに会って話す特別親しくもなかった男の子に勉強をみてもらうなんて。


「いや、いいよ。林君も自分の勉強があるでしょ」

「俺はできてるから」


 県下一の進学校だものね。上位十人程度は毎年最高学府に合格しちゃうんだよね。きっと海君は成績上位者だ。


「大丈夫。必要なら自分でやるから」

「無理だろ。自分に甘くなって、そのうち面倒になる。俺は引きこもってる期間、家庭教師つけてもらった」


 彼はいつ引きこもっていたのか。全く知らなかった。それよりも……


「いやいやいや、教えてくれなくていいよ」と全力で拒絶したら、彼は心底面倒くさそうに盛大なため息を吐いた。


「俺のせいでこっちに引っ越してきてから、母さんが日向のお母さんに世話になったらしい。母さんの命令に逆らうと俺が父さんに殺される。いいからつべこべ言わずに教科書とノート持って来い」


 え? わたし命令された?

 必要ないって言ってるのに、海君はさっさとしろよと言わんばかりに冷たい視線を向けてくる。


「リビングあっち? 先に座ってる」


 海君はわたしに渡した紙袋をひょいと奪い取ると、リビングへと続く扉をくぐった。


「え、ちょっと!?」

「早くしろ」


 え!?

 わたしは勉強したいわけじゃないのに、こいつに教えてもらわないといけないの!?



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