表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/61

婚姻届



 一人で考えても結論が出せなくて、林兄に告白されたことを電話で陸斗に報告したら、陸斗は「いいんじゃない」って軽く言ってのけた。


「結婚だよ? 付き合ってもないのに結婚なんだよ!?」

「俺からしたら知らない奴と結婚するって言われるよりずっといいけど」


 確かに陸斗は「気心の知れた信頼できる友達から選べ」って前に助言してくれたけど。林兄は気心の知れた友達とも違うような気がするんだよね。


「知らない人よりいいって言うけど、知ってても交際してみないと分からないことってあると思わない?」

「確かにそうだけど、海君なら全然オッケー」

「どうして林君ならオッケーなの?」

「姉ちゃんは気付いてなかったみたいだけどさ。海君はずっと姉ちゃんのこと好きだったんだから、信頼して任せられる」

「え!? なにそれ。なんで陸斗がそんなこと知ってるの!?」

「態度でわかる。姉ちゃん鈍いんだよ。とにかく俺は賛成。明日オッケーだって返事しなよ」

「いや、できないから。結婚ってそんな軽いものじゃないから相談してるんだけど!?」

「大丈夫、騙されたと思って結婚しちゃえよ。じゃあ俺は勉強で忙しいから切るね」


 ぷつっと電話が切れて唖然とする。

 騙されたと思ってって……ちょっと薄情じゃない?

 別に林兄がわたしを騙すとか思ってないけどさ。いや、それにしてもだ。陸斗は林兄の気持ちに気が付いていたってことなの?


「突然なのはわたしだけってこと?」


 不安なら断ればいいのに、そんな簡単な選択ができない自分が憎らしい。

 断って林兄との関係がこじれることを怖がっているだと思う。わたしってずるい。


「だってさ。嫌いじゃないんだもん」


 キスされて抱きしめられても嫌じゃなかった。

 お風呂上がりのすっぴんを見せても平気な相手。

 ヨレヨレの部屋着でも平気で、でも綺麗にしているところを見て欲しい気持ちもある。


 何よりも、林兄の隣は自分をよく見せようとかしなくていい気軽さとか安心感がある。

 わたしはこれまで彼に恋をしたことはないのに、キスされて抱きしめられて戸惑ったけど、同時に嬉しかったのだ。

 

「だからって、やっぱり唐突すぎるんだよね」


 私の気持ちは前向きなんだと思う。だけど交際0日ってどうなの? って気持ちがなくならない。


 林兄はきっちりした性格だから、わたしに何かあった時に一緒にいるための、ちゃんとした立場を求めてくれているんだ。

 曖昧なものじゃなくて、確実な立場。


 例えば病院で。

 恋人や婚約者には伝えられないけど、配偶者なら伝えることが可能だ。面会の制限も配偶者なら受けることがない。

 そういう特別な立場を、わたしのために欲しいと思ってくれているのだろう。


 だけどさ。

 交際0日ってどうなの?


 うんうん悩んでも答えが出せない。

 気持ちでは受け入れているのだと思う。告白されて嬉しいってそういうことだもの。でもさ。さすがに付き合う過程を通り越して結婚はないんじゃないかな。


 って思っていたら。


「返事を聞かせて欲しい」って。

 仕事終わりにやって来た林兄は、記入済みの婚姻届を広げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ