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考えるのに一日は短い



 どうしよう、嫌じゃない。


 突然の告白にキスされて、そのまま抱きしめられた。


 好きですとか、付き合って下さいじゃなくて、「結婚しよう」ってないよね? せめて「結婚してください」じゃない?


 失敗した経験から、付き合うとか結婚なんてしないって思っていたのに、わたしは林兄からの彼らしい告白が嫌じゃなくて、それどころか嬉しいみたいで気持ちが高揚してしまう。


 これって林兄だからいいけど、別の人だったら大和さんの二の舞いになりかねないパターンじゃない?

 林兄が不誠実な人じゃないって分かっているから大丈夫って思えるけど、林兄以外の人でもこんな風に真摯に告白されて気持ちを鷲掴みにされたら、わたしは何度も同じことを繰り返してしまうだろう。


「結婚しよう」


 また言われた。

 耳元で囁くように伝わる低い声が心地良い。


「付き合おうって気持ちはないの?」って聞いたら、抱きしめる腕に力がこもった。


「付き合ってる間に他の奴に取られたらどうしてくれるんだ」


 なにそれ?

 どんな発想なの?

 林兄は交際中にわたしが他の男性に目がいってしまうことを心配してるってこと?


 いい意味に捉えたらいいのか悪いのか。

 でもそうだよね。付き合ってもいない相手に「結婚しよう」って言われて、キスされて抱きしめられても拒絶しない女だもん。心配になって当然なのかな。


「俺はお前の側にいて、何をしても許される権利が欲しい」


 だから結婚って結論に至ったのだとしても。何をしても許されるってちょっと怖いよ。


「結婚してもお前をとられる心配がなくなるわけじゃないが、契約で縛れるだろ?」


 その思考もなんかちょっと怖いね。


「でも流石に結婚は……林君のご両親だって微妙に思うんじゃない?」


 林家のご両親はとても優しい。わたしたちを気にして面倒をみてくれる。

 だけどわたしには父と母がいなくて、世間一般の家庭のようなちゃんとした事が出来てない。

 恩のある人に嫌われたくないなって考えていたら、「俺の親には昨日のうちに話をつけた」って答えが返ってきた。


「えっ。林君のお母さんとお父さん、なんて言ってた?」

「娘ができるって喜んでた」

「喜ぶって……わたし結婚するって言ってないのに?」


 まさか勝手に変なこと言ってないでしょうねって思ってたら、「絶対逃すなって応援された」と。


「一日考えてくれないか」


 林兄はそう言って体を離した。

 もともとそのつもりで休みの予定を聞いてきたのだろうけど、一日考えて答えが出せる内容じゃないと思う。


「まずは付き合ってからじゃ駄目なの?」

「即答でお断わりじゃないってことは、お前の中でも有りってことだろ?」

「それは……」


 そうなのだろうか?

 林兄に恋愛感情は湧いたりしない。しちゃいけない、するべきではない相手として認識していたように思う。

 だけどキスされても全然嫌じゃなくて。

 どうしようって思ったのは、これまで結婚なんかしないって思っていたから。


 林兄は真面目すぎるのか、深いところまで入ってくるために結婚しなきゃいけないって思っているようだ。

 今の関係じゃわたしが体調を崩しても、ずっと一緒にいるのは駄目だって思っている。


 付き合ってもいない他人同士の男女なんだからそれが当たり前なんだろうけど。こうして共有部分のリビングまで上がっても、わたしの部屋に入りたいと言われたことがない。


 ちゃんとした立場がないのに深入りするのは不誠実だと思っているんだろうな。そしてわたしはそんな彼が嫌いじゃない。

 好きかと言われたら好きな部類だけど、交際もせずにいきなり結婚に踏み切る勇気はなかった。


 なのに林兄は、わたしのことを理解しているから付き合う必要性を感じないという。なんとも合理的な考えだけど、それでいいのかなって躊躇してしまう。


「ゆっくり考えてくれ。明日、仕事が終わったら返事を聞きに来る」

「うん」


 わたしは返事をして頷いたけどさ。

 ゆっくり考えるのに一日って短すぎない?




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