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年末の出来事



 年末。救急はさらに忙しくなる。

 疲れ果てた夜勤明け。残業になったので既に夕方だ。働きすぎてハイになってるのはわたしだけじゃない。


「日向、今日これから用事ある?」って林兄に聞かれて「ないよ、帰って寝るだけ」って答えたら、「今から飯食いにいかないか?」って。


 林兄は「行くぞ」じゃなくて「行かないか」って聞くようになっていた。強引じゃない林兄は若い看護師たちにも人気だ。


「行く。一杯飲んで帰りたい。主任も上がりだし、他に行ける人にも声かけるね!」


 看護師行きつけの居酒屋はもうすぐ開店時刻だ。林兄を気に入ってる師長は絶対行くな。あと上がりの予定は……と、シフト表を頭に思い浮かべて、確か林兄の指導医も勤務終了だったなと考えつつ、おつまみは何にしようかと心が躍った。


 そんなわたしの背中を見送った林兄が一瞬の驚きの後で、穏やかに微笑んだことをわたしは知らない。


 年末なので仕事のない人は全員参加になった。

 わたしは一日置いて31日出勤だけど、このまま年末年始のお休みに入る人もいる。家庭を持たない独身は31日から3日までの連続勤務が基本になっていた。


 皆で騒いで話をして、寝落ちする人もけっこういて。夕方からいたのでお店が混み合う時間には全員帰路につく。


 わたしは久し振りに林兄と一緒の電車に乗った。

 時期的に通勤通学者がいないので車内は空いていて、2人並んで座ることができた。


 高校生のころと違って、林兄はスマホの英文じゃなく窓の外を眺めている。

 わたしも一緒に眺めていたけど、ふと気付いたら寝落ちしていて。

 林兄と互いに頭を寄せ合って眠りこけていて、下車する駅をいくつも通り過ぎていた。


 林兄は「アラームかけてたのにな」ってスマホをいじってポケットに突っ込んだ。


「夜勤残業明けの飲み会だもんね。終点まで行かなくて良かった」


 折り返しの電車を待つホーム。意図したわけじゃないけど、二人して寄り添うように睡ってしまったせいで、わたしは林兄の顔が見れなかった。

 熱くなった頬をホームに吹き付ける風で冷やす。待ち時間が異常に長く感じた。


 家に帰ると帰省している陸斗が迎えてくれた。

 飲み会のあと林兄と一緒に帰ってきたことを伝えたら、「姉ちゃん結婚しないの?」って唐突に聞かれる。


 わたしは「相手がいないからね」と、お風呂に入る準備をしながら答えた。陸斗は「彼氏くらい作れよ」って、わたしの後をついて回っている。


「彼氏なんて必要ないからいらないよ」


 迂闊に付き合って相手に奥さんや彼女がいたら最悪だし、仕事にやり甲斐を感じているので彼氏なんて必要ない。


 特に結婚なんてまったく考えられなくて。

 父も母もいないし、世間体なんて言う時代でもない。それにわたしの人生に結婚は必要ないようにすら感じている。


「一生一人でいるつもり?」

「わたしまだ25歳だよ」


 陸斗は何を焦っているんだか。

 結婚ラッシュが続いたり、友達夫婦が幸せそうにしている様をみたらしたくなるかもだけど、わたしはまだまだ仕事に集中したい。


 わたしが服を脱ぎだすと陸斗はいなくなったけど、熱いお湯に浸かって一息ついたら「姉ちゃん」って、扉の向こうから声をかけてきた。


「どうしたの? そんなに嫁にいかせたい?」

「そういうわけじゃないけど……」

「じゃあどういうわけなの?」

「姉ちゃんが一人さみしく一生を過ごすことになったら俺のせいかなって」

 「ん? なんで陸斗のせいになるの?」


 その時は相手を見つけられなかったわたしのせいだし、寂しく過ごすか楽しく過ごすかもわたし次第だと思うけど。って考えていたら。


「俺が中学の時、姉ちゃんが付き合うの邪魔したから」


 陸斗が中学の時って、希君とのことを言ってるのかな?


「邪魔なんかされたことないけど?」


「何を悩んでるのか分らないけど、姉は現在とっても充実してる」って伝えたら、陸斗は「うん、分かった」と言って扉の前から離れて行った。




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