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彼氏はいらない



 看護師生活1年目の終わりに恋人ができた。

 大学生の時は家のことや勉強に忙しかったのもあって、誘ってくれる男の子もいたけど全部お断りしていた。だから希君以来の彼氏だ。

 相手は同じ病院に勤めるX線技師で大和翔やまとかけるさん。


 看護師としてまだまだなのに恋人なんてって思ったけど、明るくて陽気で気さくで、なのにとても紳士的で。ちょっとでも落ち込んでいると気付いて元気づけてくれる5歳年上の大人の男性。


 誠実な人に感じたし、仕事ばかりで彩りも欲しいなって思っていたところで告白されたので「大切にするので付き合ってほしい」って言葉に頷いてしまった。


 同じ病院なので「みんなに気を使わせちゃいけないから内緒にしておこう」って提案したのは大和さんだった。

 わたしは指導してくれる先輩が彼氏と別れてとっても不機嫌だったこともあって、大和さんの提案に同意した。


 付き合いを内緒にすることにしたので、職場では必要以上に関わらないことにした。

 大和さんは実家住まいで、ゆっくりするためにわたしの家に来たがったけど、「弟との約束で男性は家に入れないことになってるの」って断った。


 わたしが大和さんよりも陸斗との約束を優先することに、大和さんは理解を示してくれた。だからデートは病院から離れた場所になった。


 大和さんが車を出してくれるので、ガソリン代や高速料金、食事はわたし持ち。

 社会人1年目には大きな負担だったけど、楽しい話で盛り上げてくれる大和さんと過ごすのはストレス発散にもなって大切な時間だ。


 大和さんと付き合っていることは内緒だったけど、仲良くしている同期の花村雪乃はなむらゆきのちゃんにだけは「内緒にしてね」と前置きして、大和さんとのことを告白した。


 大和さんから、来月、一泊で旅行に行こうと誘われたから。

 その日は仕事だったので、彼女にシフトを変わってもらう代わりに理由を伝えなくてはいけなかったのもある。


 だけど大和さんのことを伝えた途端、雪乃ちゃんは顔を曇らせた。そして「言いにくいんだけど」と前置きして。「技師の大和さんだよね?」って確認してから「彼、結婚してるよ。先月子供も産まれてる」って教えてくれた。


「え、嘘。だってわたしと付き合ってるのに」


 信じられなくて「嘘だ」と言い返したけど、雪乃ちゃんは「本当だよ」って、気の毒そうに、そしてわたしの目を覚まさせるように強めに言った。


「どうしてそんなこと知ってるの?」

「ごめんね由美香。実はわたしも内緒にしてたんだけど、半年前から技師の郡山おこりやまさんと付き合ってて。彼から大和さんに子供が生まれたから一緒にお祝いを選んで欲しいって相談されて、つい最近買ったばかり」


 郡山さんは大和さんのひとつ年下。それが本当ならとんでもないことだ。


 仰天して大和さんを問い詰めたら「そんなの嘘だよ。誰が言ったの?」って平然と返されたので、「信じていいの? なら職場恋愛は禁止されてないし、大和さんとのことを先輩や師長に伝えて有給もらう」って言ったら「ごめん」って謝罪された。


 友達が教えてくれた通り、大和さんには奥さんと子供がいた。


 え? わたし不倫してたの? って、とてもショックで。当然だけどその場でお別れした。


 本当にショックだった。ショック過ぎて熱が出て仕事を休んだほどだ。


 わたしは父が女性問題で母を苦しめていたことを思い出した。

 あの時と何ら変わらない。わたしはあの女と同じ立場になっていたんだと思うと、大和さんの奥さんとお子さんに強烈な罪悪感を抱いた。


 わたしは恋愛に向いてないのかな。

 というか、大和さんもすぐにバレるような嘘つくなんて頭おかしい。同じ職場なのにバレないって本気で思ってたのかな。それだけわたしは馬鹿にされていたのかな?


 付き合った期間が一ヶ月程と短期だったから深い関係にはなってない。だからって世間的にもいいことじゃないのは分かってる。


 春休み期間中で陸斗がいたから、様子がおかしいことに気づいたんだと思う。ただの疲れじゃないって。


「姉ちゃんさ、彼氏とかいないの?」って聞かれてドキッとしたけど平静を装って「そんなのいないよ」って答えたら微妙な顔をされた。


「なんで?」

「なんでって、いい人がいないから。陸斗こそ急にどうしたの?」

「家を出て一年たつのに男の気配がしないから」

「もし彼氏が出来ても家にあげないから。約束したでしょ」


 そう言ったら陸斗は「それは子供だったからだよ。いい大人なんだし、俺も家を出たんだから彼氏を家につれてくるななんて言わないから」って。


 なるほど、そうか。

 でもそうだとしても、それと今のわたしの状況とは関係ない。

 それよりも、陸斗との約束が大人になっても続いていると思っていたからこそ大和さんを家に入れない理由になって良かったとも言えた。


「姉ちゃん何かあったよね。頻繁に眉間にしわを寄せてる。仕事のこと? それとも男?」


 ズバリと、けれど恐る恐る聞いてきた陸斗に「実はね……」と、情けなかったけど今回のことを話した。


「なんだよその男。既婚者ってのもだけど、運転だけしてデート代全出させるとかあり得ない。最低で最悪な奴だな。そんな病院辞めちゃえよ」


 陸斗はめちゃくちゃ怒っていたけど、わたしは看護師1年目で。そんな簡単じゃないんだよなぁ。


「姉ちゃんさ。付き合うならこれから知り合う男じゃなくて、気心もしれた信頼できる友達から選んだ方がいいんじゃない?」


 溜息を吐いていたらそんなことを言われたけど。彼氏は当分いらない。と言うか。いちゃいけない気がする。


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