ブラコン
大学生活は順調で、陸斗も滞りなく高校生活を送っていた。
一度、陸斗が女の子を家に連れてきたけど「彼女じゃない」とのことで。どうしても一緒に勉強したいと言われて根負けしたらしい。それって彼女は陸斗を好きってことだよね?
陸斗は彼女を部屋には入れずに、わたしの在宅している日を指定してリビングで勉強していた。
遠慮して出かけようとしたんだけど陸斗に止められて。その時の彼女の残念そうな顔といったら可哀想なくらい。
彼女が趣味の話とか友達の話とか始めたら、「おしゃべりするなら帰ってくれる?」と冷たく言い放つ始末。あんまりにも冷たくてびっくりした。
雑談すら許さず、二人で黙々と勉強だけして。彼女はがっくりと肩を落として帰って行った。
夏休みに遊びに来た林弟にその話をしたら「陸斗はシスコンだからな」って、真っ黒に日焼けした顔で笑われた。
林弟はサッカーを続けていて、スポーツ推薦で私立に進学して寮生活なので本当に久し振り。林兄は月イチくらいで通学時に駅で見かけるくらい。
こんな感じで日々が過ぎて行って、そろそろ就活を始めようかという大学3年の秋。高2になった陸斗の三者面談に行った先で、陸斗が県外の国立大学を第一志望にしていることを知って頭が真っ白になった。
陸斗の担任から希望大学の調査票を見せられて。それはちゃんと陸斗の字で書かれていた。
わたしは初めて知って動揺したけど、担任の前では平静を装って「そうなんですね、受かりそうなんでしょうか?」って、当たり障りのない受け答えをしていたように思う。
でも心のなかでは初めて聞くけど!? どういうこと? 県外って、家を出て一人暮らしするの!? ってめちゃくちゃだった。
わたしが就職すると同時に陸斗は大学に進学する。わたしは家から通える場所を就職先に選ぶことが当たり前だったけど、当然この先も陸斗が一緒にいるのだと信じて疑ってなかった。
気分は落ち込んでいたけど時間は過ぎていくもので。陸斗は高3の受験生になり、わたしは早々に就職先が決まってあとは国試を突破するだけになった。
就職先が決まっても勉強と実習で忙しかった。加えて目指す大学に向けて勉強に力を入れている陸斗のサポートもしている。
わたしも支えてもらったけど、家事を一手に担うのはやっぱり疲れる。
これを中学生の陸斗がやってくれたのだと思うと、凄いなって改めて思った。
陸斗は模試の結果も良好だった。
目的に向かって順調に進んでいるようでも、勉強ばかりだと気が滅入るみたいで、時々お菓子作りをしてストレス発散しているようだ。休日の朝から甘いバターの香りがすることが月に一度か二度あった。
そうこうするうちにお正月が過ぎて、あっという間に3月。
陸斗は高校を卒業して、その後、国立大学の合格の知らせが届いた。
「次は姉ちゃんだね」って、目的を達成した陸斗がささやかなお祝いの席で明るく言う。
看護師国家試験の発表は3月の終わりだ。
わたしは「自信あるから大丈夫!」って、陸斗と離れる不安や寂しさを抱えていたけど笑顔で受け止めた。
林君、陸斗はシスコンじゃないよ。シスコンなら「姉ちゃんと離れたくない」って泣くよね?
陸斗の合格は喜ばしい。だけど離れて暮らすのはとてもとても寂しいと感じる。気を許したら泣きながら「行かないで」って言っちゃいそう。
ああ……これがブラコンなのかな。




