大雪とストーブ
陸斗と二人きりでの二度目のお正月。今回お節は注文せずにお雑煮だけにした。
ほぼ陸斗一人で作ったお雑煮を二人で食べる。お餅は2個ずつだったけど、わたしはさらに2個、陸斗は4個追加して、お雑煮もおかわりしてた。
滅多に見ないテレビをつけているのは大雪だから。
大晦日に降り出した雪は瞬く間に降り積もって、さっき確認したけど家の周りは足首まで積もってた。
山間部とか他の地域はもっと凄くて。
お正月じゃなかったら各局が競い合うように現地から中継したんだろうけど、今は日本中どこもかしこもお正月。1月1日。
子供の頃から大して変わらない前撮りされた特番が賑やかに流れる中、画面上部に大雪警報とか、降雪量とか、交通機関の乱れとか運休とかが右から左に流れていた。
まぁ、うちには関係ないな。と悠長にお餅を食べていたら突然電気が消えた。
「停電?」
「そうみたいだね」って、陸斗がスマホを操作して「うちだけじゃなくてこの辺一帯停電してる」って調べてくれた。
まぁすぐに復活するだろうと、薄暗いリビングで呑気にお雑煮を食べていたけど電気はつかない。当然エアコンも稼働しなくて。肌寒さを感じて上着を羽織った。
「いつになったらつくんだろうね」
暖房はエアコンだけなので不安になってきた。
「空のばあちゃん家も停電してるって」
「林家はおばあちゃん家かぁ」
わたしと陸斗には両親どころか親戚も存在しない。だからこの時期は祖父母の家に帰るって言う同級生たちが羨ましく感じてしまう。時々思い出す伯父さんは赤の他人だ。
「海君は家にいるって。海君ところも停電してるってさ」
「陸斗、海君と連絡先交換してるの?」
「いや、空情報」
「林君は帰省してないのか。と言うことは、お正月も受験勉強してるんだね」
「姉ちゃんはしなくていいの?」
「お正月くらいは休ませてよ。するにしてもこれじゃあね」
わたしは薄暗い部屋を見渡した。
その後、夕方になっても電気はつかなくて。すっかり冷え切った室内の温度計は10度。外は未だに雪が降っていて。このままだったら困るから懐中電灯を探したけど、やっと見つけたそれは電池切れ。買い置きがなくて、買いに行こうにもこの雪じゃ無理だ。
「復旧は明日の午前中になりそうだって」
陸斗が検索したネット情報に、わたしは「えーっ!?」と悲鳴をあげた。
「夜中にトイレ行きたくなったらどうしたらいいんだろ」
「スマホの懐中電灯機能使えば?」
「充電50%切ってるよ」
停電だし外出できないしでスマホで動画ばっかり見ていたのを後悔していたら、「あっ!」と陸斗が声を上げた。
「空んち石油ストーブがあるって。使ってないの貸してくれるってさ」
「石油ストーブ?」
あの火が出るやつ?
「停電してるのに使えるの?」
「ファンヒーターじゃないからライターで火をつけるんだよ。小学校の時とか保護者会のときの廊下とかに置いてあるやつ。姉ちゃん知らないの?」
「あったのは覚えてるけど…」
実際に使い方なんて知らないのだ。
何にしても貸してくれるならありがたい。布団に入っちゃえばいつもの夜だけど、寒すぎて手を洗うのすら億劫だったから、暖を取れるとなって気分が浮上した。
陸斗がスマホをいじりながら「海君が持ってきてくれるらしいよ」って。どうやら空君とチャットし続けているようだ。
「こんな雪の中悪いよ。わたし取りに行くって伝えてくれる?」と陸斗に指示しつつ、わたしからも林兄に連絡しようとしたところで、リビングの窓がトントントンって何度も叩かれてびっくりした。
恐る恐るレースカーテンを開けたら、ストーブを抱えて雪を張り付けた林兄がいたので慌てて窓を開けた。
「玄関叩いたけど気付いてもらえなかったから。こっから上がっていいか?」
「もちろんだよ。ごめんね、ありがとう!」
わたしと陸斗は喜んで林兄を迎え入れた。林兄はストーブを先に入れると、自身に張り付いた雪を払ってから上がりこむ。
「灯油は半分くらい入ってるから、一晩つけっぱなしにしても多分大丈夫。使い方分かるか?」
「ライターでつけるんだよね?」
わたしは陸斗から得た情報を自信満々で披露したけど、「電池が入ってるからここを下に向かって押したら着く」って言われて、着け方を教えてくれた。
ボボボって音がしてオレンジと赤の炎が円柱を伝って立ち上る。温かさを感じて、冷たくなった手をストーブの前にかざした。
「火傷に気をつけろ。切る時はここを押して。天板は熱くなるから絶対に触るな。お湯が沸かせるから、必要ならヤカンに水入れて上に乗せるといい」
嬉しい。これで顔が洗える! って思っていたら、林兄がポケットからアルミホイルに包まれた大きな何かを取り出した。
「焼き芋。飯作るのが面倒で沢山焼いたから」
石油ストーブの天板で焼いたらしい。ホカホカのそれはわたしと陸斗の心を温かくしてくれる。
「林君はおばあちゃん家にいかなかったんだね」
「受験だからな。気を抜いたらやばいかも」
県下一の進学校で成績上位にいてもそうなのか。まぁ林兄が受けるのは国立医学部だしな。
「お前は私立にしたって言ってたけど国立も受けるんだろ」
「うん。受かる確率は低いけどね」
「そうなのか……悪いが今の俺にはお前の勉強をみてやる余裕はない」
「いやいや、大丈夫。ちゃんと自分のペースでやってるから」
同じ受験生に面倒見てもらうつもりなんて流石にないよ。
林兄は何か言いたそうだったけど「そうか」と呟くように言ってから大雪の中を帰って行った。
「海君、一緒の大学いけたらいいなって姉ちゃんに言いたかったんじゃない?」
貰った焼き芋を食べながら陸斗が言ったけど、そんなことないでしょ。林兄は無口でとっつきにくいけど面倒見がいいのは確か。それだけだよ。




