急病
運動会で興奮し過ぎたのか、体がだるくて全くお腹が空いてなかったけど、陸斗と冷たいそうめんを作った。
そうめんを食べてる途中から胃が痛くなってきて、痛みがだんだんと下腹部へ移動していく。
「陸斗、お腹痛くない?」
猛暑だし、もしかしてわたしが作った朝食とお弁当が傷んでいたかもしれないと心配になったけど、「俺はなんともない」って陸斗。
わたしは「お腹痛いから横になるね」と言って、そうめんをほとんど食べずにソファーに横になった。
「薬飲む?」と、陸斗が整腸剤を持ってきてくれたので3錠飲んだら、ちょっと良くなったような気がしたけど気のせいだった。
「なんか……めちゃくちゃお腹痛い」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも」
食中毒にしては変だ。吐き気はあるけど、吐いたり下痢したりはない。とにかくお腹が痛くて体を丸める。額は冷や汗でびっしょり。
陸斗が体温計を持ってきて測ってくれたら37,5分。「熱中症かな?」「熱中症で腹痛くなる?」「分かんない」って受け答えしてたけど、それ以降は陸斗が何を言っても答えられないほどお腹が痛くて。
「救急車呼ぶから!」って言われて、腹痛で救急車なんて恥ずかしいからやめて欲しかったけど、声にできなかった。
人生初の最悪の痛み。痛いとも言えなくなって「姉ちゃん!」って陸斗が呼んでいたけど返事もできない。
わたし死んじゃうの? ってくらい痛くて。ごめん陸斗って言ったつもりだけど声にならない。
どうしよう。わたしが死んだら陸斗が一人になっちゃうって考えることもできないくらい痛くなって、「救急車きた!」って陸斗が誘導するために家を飛び出したのも分からなかった。
激痛のあまり、腹痛で救急車なんて恥ずかしいって思いは吹き飛んでいて、とにかく助けて欲しい気持ちしかなくなっていた。
救急隊の人たちが駆けつけて色々やってくれたけどほとんど覚えてない。
救急車で病院に運ばれて、色々検査をしたら急性腹膜炎ってことで緊急手術になった。
わたしが手術で眠っている間、陸斗はとっても心配したし大変だったようだ。
土曜の夜に呼び出された沖田さん。救急車が来たことで林家御一行もやってきて。林君のお母さんは救急車を追う形で車で来てくれたみたい。
目を覚ましたら陸斗と沖田さんがいて、状況を説明してくれた。
「急性虫垂炎から急性腹膜炎を起こしていたそうで、二週間ほどの入院が必要だそうです。その間陸斗さんは私の家からだと学校に通うのには不便なので、林家が面倒を見てくれることになりました」
わたしはぼうっとした頭で頷いた。
「姉ちゃん大丈夫?」
陸斗が心配そうに瞳を揺らしている。「大丈夫」と言ったらかすれた声が出た。
「ごめんね陸斗。びっくりしたでしょ?」
「死ぬかと思った」
「ごめんね」
わたしが目を覚ましたので、陸斗は一度、沖田さんと帰ることになった。
入院に必要なものを諸々揃えてきてくれるみたい。
もう一度来た時には落ち着いた陸斗の顔を見れてほっとした。
「着替えとか洗面道具とかはここに入れとく。お金は金庫で鍵は姉ちゃんの手首にはめとくから」
陸斗はゴムの付いた鍵をわたしの手首に引っ付けたあと、「それからこれ」と、大きな鞄をベッドに乗せた。
「なに、その重そうな荷物」
「海君から。姉ちゃんに絶対に必要なものだからって言われて、一緒に準備した」と、陸斗は少し意地悪く笑ってみせる。
あ、嫌な予感。と言うか、必要なものについて察しがつく。
「だよね、二週間だもんね。勉強遅れまくりだよ」
せっかく順調に模試の点数が上がっていたのに。学校の授業が受けられないのは仕方がないけど、予備校のはパソコンとネット環境さえあればどこでだってやれるのだ。
「ありがとう林君、感謝します」って半泣きで声に出したら陸斗に笑われた。




