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できる弟


 十月最初の土曜日。久し振りに料理を作った。


 今日は陸斗の運動会でお弁当持参。

 陸斗は「適当にパンでも持って行く」って言ったけど、模試の結果が上がっていて機嫌の良かったわたしは、運動会くらいはと早起きしてお弁当と朝ご飯を作ったのだ。


 陸斗はお弁当を鞄に詰めながら「姉ちゃんありがとう」と言ってくれた。とっても嬉しかった。

「応援に行くから頑張ってね」って玄関先で手を振ったら、陸斗は一瞬何か言いたそうにしたけど、「うん」って返事をして扉をくぐった。


 去年と打って変わって猛暑の運動会。競技数が減って十分な休憩を取りながらの進行だった。


 陸斗は今年も男女混合リレーの選手に選ばれていた。アンカーの400メートルを走る。

 

 去年熱中症で倒れてからほぼ毎日走っている陸斗にとっては余裕だろうけど、この暑さの中だから心配。


 わたしはスポーツドリンクを何本も飲んで汗だくだけど、トイレに行きたくならないので飲んだ分全て汗になっているんだと思う。


 この暑さの中、日傘使用禁止って酷じゃない? 観覧の邪魔になるからだって。

 今どきの保護者は譲り合ってってのができないと思われているんだね。


 わたしは林君のお母さんと一緒に、めちゃくちゃ声を出して応援した。


 今年は林弟と同じクラスで、林弟は第二走者の200メートルを走った。

 第一走者の女子がスタートと同時に転んでしまい、膝から血を流しながら最下位で林弟にバトンを渡した。


 わたしはこの時点で1位はないなと思ったけど、林弟の走りを見て考えをすぐに改めさせられた。


 さすが林弟。陸斗に負けず速い。

 なんと2人抜いて4位で第三走者にバトンをつないだ。バトンを貰った女の子は前を走る女の子を抜けはしなかったけど、距離を縮めて3位とほぼ同時に陸斗にバトンが渡る。


 陸斗は3位の走者にぴったりくっついた形で一周走ると、スピードを上げて前の二人を一気に抜いた。トップを走る男の子も速かったけど陸斗はどんどん距離を縮める。


 林君のお母さんが「めちゃくちゃ速ぇ!」って、普段と違った口調で「陸斗行けー!」と叫んでいた。わたしはその横で「陸斗りくと!」と名前を連呼して。

 ゴールの手前2メートルでトップになりゴールテープを切った瞬間、大歓声が上がり、わたしは林君のお母さんと抱き合ってぴょんぴょん跳ねた。


 陸斗が参加する競技が全て終わって急いで帰宅した。

 お父さんとお母さんの前に突っ込む勢いで座って、「二人ともみてた? 陸斗凄かったよ!」って報告していた。


 中学になると運動会に親が来る来ないは拘らなくなるけど、それは生きていることが前提だ。

 少なくともわたしは陸斗の運動会にお父さんとお母さんに来て欲しかったし、陸斗は何も言わないけどわたしと同じ気持ちだったと思う。


 ないものねだりなんだよね。

 ないと欲しくなる。


 ぐんと背が伸びた陸斗。小学生の時とは違って物静かになった陸斗。

 声変わりもしたし、中2にしては気遣いができて家事や料理はわたしよりもずっと上手。

 成績も凄いの。オール5だよ。家庭科も美術も英語も数学も国語も全部。

 しかも今日は最後の最後で大逆転。わたしと違って陸斗が凄いの、凄すぎるの。

 

 わたしは興奮冷めやらぬまま、汗だくで写真立ての二人に報告していた。




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