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参考書



 公園の桜の木の前で弟と二人。二人きりの写真を撮った。

 スマホの、加工しないままの写真。

 二人とも目が浮腫んでいる、女子高生としてはあり得ない画像。

 ちっとも幸せそうじゃない、笑顔の一つもないそれはわたしと弟の今だった。


 その夜、わたしは机の前に座って参考書に手を伸ばした。

 めくった跡のない埃を被った参考書。父に与えられたからずっと無視していた。

 手にとって開いて、ゆっくりと内容を目で追った。

 父への反抗から放置していたそれは、昨年、わたしが苦手だった事柄が、とても分かりやすく解説されたものだった。


「押し付けられたら嫌でしょうけど、お父さんは経験者だから。あなたの為を思って選んでくれたんだってことだけは忘れないでね」


 母はわたしの気持ちを分かりもせず父の味方をしていると感じて、返事もしないで部屋に籠もった。絶対に意地でもやるものかと反抗的な考えしか浮かばなかった。


 テストの結果が出るたびに難しい顔で「ちゃんとやってるのか?」と責められた。「やってる」と答えたら「やってないだろう!」と怒鳴られる。その通りだけど、押しつけられて腹が立って仕方がなかった。


 お陰で未だに苦手なそれは散々な成績のまま。他の教科が良いだけに、平均点なそれはわたしの苦手教科だった。


 父は不機嫌なことが多かった。父の言葉はいつの頃からか嫌味に感じた。

 父が不機嫌だった理由は、わたしの成績に関わる時が多かった。

 責められている感じがして、相手が父だったから拒絶した。


 なのに、どうして今になって。

 父のしたことは正しかったのだと思う。正論で嫌味ばかりだったけど、少なくともわたしの苦手を失くそうとしてくれていた。

 父のことだから本屋に足を運んで沢山の参考書を開いて、自分の目で確かめたに違いない。

 あの日、父の気持ちを素直に受け取っていたらきっと得意教科になっていた。


「最悪」


 わたしは親が死ななきゃ愛情を感じることができない最低最悪な子供だったんだ。もしかしたら父と母が死んだのも、こんなわたしが娘だったからかもしれない。


「ほんっと、最悪」


 わたしは参考書を乱暴に閉じて、ぎゅっと胸に抱いた。




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