進学について
高三になった。
受験生。
受験は家から通える国立大学に決める。今のわたしじゃかなり頑張らないと合格しないけど、他に選択肢はない。
もちろん滑り止めで私立を受けるけど、それもやっぱり家から通える私大。
大学の条件は何よりも一番に家から通えること。陸斗と離れるなんてこれっぽっちも考えていない。
陸斗にも高校受験がやってくるので、それを支えるには大学までの距離も考えなくてはいけなかった。
その中で国立はレベルが高いけど、電車を使って1時間。私立はかなり低いレベルで30分ちょっと。
後の就職や陸斗の進学のためにも、お金のかからない国立に何が何でも受かりたい。
うちは親がいなくて誰も働いていない。だから非課税世帯。なので国立だと授業料免除になるし、給付型の奨学金も申請できる。
わたしと陸斗が進学するためのお金は十分にあるのだけど、いつ何があるか分からないから、どうしても陸斗のために残しておきたいのだ。
そう考えたのは沖田さんからの助言もあったけど、林君……林兄が国立の医学部を受験すると聞いたから。
国立医学部なんて多少頭が良い程度じゃ絶対に受からない。林兄が受験するのは、わたしが目指そうとしている国立大学の医学部。
林兄は学費諸々を親と話し合って、自宅から通学出来る国立を選択したのだそう。
林君のお母さんは、「国公立ならどこでも一人暮らしさせてあげられるからって言ったんだけど。海ったら、空がどうなるか分からないからって言うのよね」と、空君が勉強出来なくて、高校から大学まで私立になりそうだとぼやいていた。
林兄にも弟がいるし、家庭の負担を考えたんだと思う。自宅生なら定期代は必要だけど仕送りの心配はない。
ただ、最高学府を狙える高校でかつ優秀な成績らしい林兄には、自宅から通える国立医学部は役不足じゃないのかな? って、林君のお母さんだけじゃなくわたしだって思ってしまう。
もちろん、わたしじゃ医学部なんて絶対に無理。でも林兄の高校での順位を知ってしまうと、わたしが目指す大学は国立でも林兄には物足りないのではと思えてしまうのだ。
目指すのが医学部なんだから、しかも実力もあるんだから、浪人覚悟でもっと上の大学を目指してもよくない? って、本人じゃないから思ってしまうのだろうけど。
そんなことを林兄に聞いてみたら「医者になれるならどの大学でも国立なら問題ない」って、相変わらずスマホの英文をみながら言われてしまった。
「俺のことより自分のこと心配しろ。成績足りてないんだろ?」って痛いところも突かれる。
「だけど林君のお母さん言ってたよ。担任にももっと上の医学部でも受かるだろうからって県外を勧められてるんでしょ?」
「高校は進学実績を上げたいから受けさせたいだけだろ。別に親の負担だけを考えて近場を選んでるわけじゃない」
「違うの? 一人暮らしして自由を満喫したいとかないの?」
友達たちは大学からは親元を離れたがっている。親の監視から離れて自由にやりたいから。
実際に親と離れたら寂しいだろうけど、きっとそれも初めの頃だけだろう。帰省する先があるってのはそういうことだろうから。
「俺は大学へ遊びに行くわけじゃない。生活や健康管理のために自宅から通えるのは心強いけどな」
「ふ〜ん。林君ってちょっと変わってるよね」
親元で暮らすってことは家庭のルールに従うことだ。幾度か破ったわたしが言えたことじゃないかもだけど、友達と夜遅くまで遊んだり、時間を気にせず電話をしたり、好きな時に起きたり寝たりお風呂に入ったりなんてのは、親元を離れて一人だから許される自由でもある。
「変わってるのは悪いことじゃないだろ」
「そうだね」
林兄ってしっかりしてるな。頭が固くて真面目で、そのせいで変わってるように感じちゃうけど、確かに悪いことじゃない。
こんなふうに聞いたから、もし陸斗が医学部に行きたいとか、めちゃくちゃお金がかかるらしい芸術分野の私立大学に行きたいとかになった時に、金銭面で諦めるようなことになって欲しくなくて、わたしは頑張って通える国立を受験することにしたのだ。
もちろん受からなかったらしょうがないんだけど。
陸斗には色んな選択肢を残してやりたいってのは、たった一人の弟に対する姉の自己満足でもある。




