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根本的なもの



 わたしは心が狭いのかな。

 希君が元カノと二人で初詣に行ったり、クリスマスの夜に二人きりで朝まで過ごしたりするのが気に入らない。


 二人きりでもやましいことなんてないと言うのは本当だと信じたい。

 多分、きっと本当だと思う。

 何が悪いのかと問う希君は、心から悪いことだと思ってないし、彼女であるわたしに臆せず伝えてきた。


 許せないって気持ちはない。だけど、何だかもやもやする。


 元カノと二人で過ごす理由が、わたしが一緒に過ごせないからっていうのも何だかな。わたしのせいにされてる気がするけど、実際にそうだし。


 希君は放課後は当然ながら、土日もわたしと一緒にいたいし、希君の時間が許す全てで二人や、時に友達を交えて過ごしたいようだ。

 希君は基本的に一人で過ごしたいなんてことはなくて、常に誰かと一緒に居たいらしい。

 希君って寂しがり屋さんなのかな?


 希君の回りにはいつも誰かがいる。

 明るくて人気者で、常に人が集まってくるような人。

 わたしよりも背が高くて、格好良くて、気遣いもできる。わがままも聞いてもらっている。

 だけどわたしが感じるもやもやは理解できないらしい。


 だって、希君が元カノと二人で過ごすのはあくまでもわたしと会えないから。彼の中ではそれが少しもおかしなことじゃないらしい。


 希君にはご両親がいて、お兄さんがいて、家族仲は良さそう。彼が言うにはどこにでもある普通の家庭らしい。


 毎日帰りが遅くても、週末は夜遅くまでお出かけしていても親に叱られないのかな? 目的や所在さえ伝えておけば問題ない家庭なのかな。


 わたしの場合は父と母が生きていた頃から駄目だったし、陸斗と二人で生活を続けるためには問題なく日々を過ごさないといけないと自覚している。


 きっと希君からしたら不満だらけだろう。

 それでも好きだからって理由で受け止めてくれた。

 その代わりに会えない時間を元カノで埋められちゃってるけど。


 嫌だけど、もやもやするけど我慢するしかないのかな。

 人に迷惑をかけることがあったら沖田さんの信頼を裏切ることになるし、世間から「あそこは親がいないから」なんて囁かれて白い目で見られるのも嫌だ。

 父と母がいなくてもきちんと育てられた家庭だと思われたい。粗探しされて、死んでしまった父と母を悪く言われたくないのだ。


 悶々としたまま日々が過ぎる。

 バレンタインデーを前に希君と下校していると、昨日も夜遅くまで元カノと二人で遊んでいたことが判明した。


「琴音ちゃんって、希君のこと好きなんじゃないのかな?」


 苛ついてつい言ってしまった。

 もともと思っていたことだし、口にしてすぐに面倒くさい女だと思ったけど撤回しなかった。


 だってさ、元カノは元カレからの急なお誘いの全てに応じているみたいなんだもの。

 平日に夜遅くまで遊ぶのって楽しくても体力使うし。女の子なんで身嗜みを整えるのにも時間を使うのに。毎日が睡眠不足でふらふらなんじゃないだろうか。


 色々なことを犠牲にしてまで希君に会いたいのだとしたら、それは友達よりも強い感情があるのだと思う。


希君は少しだけ考えてから「そう言えば、よりを戻したいって言われたことはある」と答えた。


「それって、琴音ちゃんからの好意を知ってて二人きりで会ってるってことじゃないの!?」


 わたしは大したことじゃないように答えた希君の様子に驚いて、つい声が大きくなってしまった。


「そうかもしれないけど。でも俺、前に付き合ってた時は琴音ちゃんに愛想つかされて振られたんだよね。よりを戻したいって言われたのも一回だけだし、気の迷いじゃない?」

「気の迷いって……あのさ。もし嫌だったら答えてくれなくていいんだけど。どうして愛想つかされたの?」

「俺が友達の女の子と二人で遊ぶのが嫌だって。やめないなら別れるって言われて、やめなかったら本当に振られた。まぁその頃は琴音ちゃんと付き合うのに飽きてきてたし、由美香のこと知って気になったりしてたからちょうどよかったのかも」


 そう言った希君は悪気の全くない笑顔を向けたけど、わたしは全く笑えない。


 希君、それはちょっと辛いよ。

 琴音ちゃんは希君のことが好きだったけど、他の女の存在が苦しくて、自分だけを見て欲しくて言葉にしたんだよ。

 だけど分かってもらえなくて、心が傷付くのが辛くて別れたんだよ。

 なのに希君のことが忘れられなくて、連絡がきたら友達として応じちゃうけど、本当は自分だけを見て欲しいんだよ。


 そう言いたかったけど、わたしは「そう」とだけ返事をして口を噤んだ。


 言っても希君には分からない。

 だって根本的な考えが違うのだから。

 



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