不安クリスマス
林兄から貰ったお土産は、個包装された抹茶のバームクーヘン。掌に収まるサイズのそれが十二個。
二人暮らしには多くない? って思ったけどとっても美味しくて。あまりの美味しさに、怒って無口になっていた陸斗の機嫌も治ったほどだ。
「彼氏ができたこと黙っててごめんね」
彼氏ができても報告の義務なんてない。でもわたし達の状況は普通とちょっと違う。そのせいで家族に迷惑や負担をかけるなら、ちゃんと伝えなくてはいけない。昨日までのわたしはそんなことにも気が付かなくて、浮かれているだけの子供だった。
「別にいいけど、家には連れてこないで」
「うん、分かった。約束する」
陸斗に彼女ができて、その彼女が遊びに来て。二人でいちゃつかれたり、親がいないからって時間制限なく居つかれたらわたしだって嫌だから。それはちゃんと理解できてるし、希君から行きたいと言われて断っていた。
今回、希君も分かってくれたから、今後はそんなことにはならないはずだ。
「羽目外して当番サボったりしないようにする」
「うん。でも、どうしてもの時はちゃんと連絡して」
陸斗は視線を逸らして抹茶のバームクーヘンをもう一つ手に取るとパクリと食べた。
で、この先どうなったかと言うと。
クリスマスイブは陸斗と小さめのホールケーキを食べた。
チキンはコンビニで買ったけど、ピザは陸斗の提案で、一緒に生地から作ってオーブンで焼いた。上手く出来たのでお世話になってる林家に差し入れすることもできた。
希君とはイブは過ごさずに、クリスマスの午後からデートした。
映画をみた。特に興味はなかったけど、二人で映画を観るということが楽しくて。
その後はカラオケで二時間過ごした。
密室なのでいちゃいちゃもしたけど、窓から誰かに見られるんじゃないかとヒヤヒヤした。
二人でカラオケに行くといつもこうなので、わたしはちょっとだけ困ってしまう。「好きだから」って言われるけど、体に触られるのには抵抗があって。むりやりにはされないけど勢いについて行けない。
だからカラオケから出てほっとした。
外は真っ暗で寒くて。
二人で手を繋いでくっついて、ゆっくりとイルミネーションを見ていると何だか胸が熱くなった。
クリスマスだし、冬休みだしということで。陸斗の了解も得て、わたし達はいつもより長く夜の時間を楽しんだ。
それでも羽目は外しすぎないように気をつけて、21時発の電車に乗り込むためにホームに立った。
希君は反対方向だけど、乗る電車の時刻がわたしよりも後になるので見送ってもらう。
電車が入ってきたので「すごく楽しかった」って見上げると、希君も「うん、俺も」と返してくれた。だけどなんだか表情が暗くて「希君?」と呼びかけた。
「もうちょっと。日付超えるまで一緒にいない?」
「それは……」
無理だ。
わたしは高校生で女の子だし。そんな時間まで遊び歩いてたら親に叱られるに決まってる。父も母もいないけど、いないからこそわたし自身が自分で自分を管理しなきゃいけないんだ。
「ごめんね」
本当は希君といつまでも一緒にいたい気持ちと、そうすることが怖い気持ちがせめぎ合っていた。わたしは親がいないことと陸斗を理由に、希君の願いを受け入れずに謝罪する。
「だよな。分かってるのに無理言ってごめん。また連絡する。初詣も一緒に行こうな」
「うん。家についたら連絡するね」
電車の扉が開いたので乗り込むと、あっという間に閉まってしまう。希君は片手を上げたけど、電車が動き出した瞬間にはホームを出るためにスマホを見ながら歩きだしていた。
わたしは帰宅して希君にチャットを入れた。チャットで会話ができればいいなと思って画面を眺めていたけど、翌日の昼を過ぎても既読はつかなかった。
どうしたんだろう、まさか事故にあったのではないか。怖くて不安が押し寄せる。「どうしたの」と文字を入れても反応がなくて。不安なまま一日を過ごすことになってしまった。
ようやく既読がついて返事が来たのは26日の夕方になってから。「ごめん、友達とオールして今目が覚めた」とチャットがきて、心の底からほっとした。




