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突然の訪問


 え、わたし振られた?

 親がいないからいろいろ出来るってなに?


 突然のことに衝撃を受けて何がどうなったのか。気が付くと家にいて、レトルトカレーを温めていた。


 生野菜のサラダと合わせて陸斗と一緒に食べる。

 陸斗が学校のことで何か言っていたけどまったく頭に入ってなかった。

 食器を洗ってお風呂のお湯を溜める。ソファーに座ってぼーっとしていたら、陸斗が上を向いて「スマホなってる」と呟いた。


「姉ちゃんのスマホが鳴ってる!」

「え、ああ、そうなの!?」


 陸斗に肩を揺らされて慌てて二階に上がった。スマホを手にした途端に呼び出し音が鳴り止んだ。


 履歴を確認すると希君からだった。チャットも入っていて、開くと「ごめん」「言い過ぎた」「俺が悪かった」と謝罪で埋め尽くされていた。

 全部を読み終わる前に着信がある。希君からで、迷ったけど出ることにした。


 出たのに希君は「あの……」と言って黙り込む。わたしは続きを待ったけどいつまでも無言なままだったので「今日はごめんね」とわたしからもう一度謝罪した。


「いや、俺の方こそ。あのさ。今から会えない?」

「え、それは……」


 時間を確認すると二十一時を回っている。今から会うなんて無理だなと思ったけど、断るのが申し訳なくて言葉が出なくなった。

 すると希君が「駅にいる」と、うちからの最寄り駅を告げた。


「無理ならいい。ただ、どうしても顔見て謝りたくて」

「すぐに行くから」


 わたしは陸斗に「ちょっと出てくるから先にお風呂に入ってて」と言い残して上着も着ずに家を飛び出した。


 駅につくと希君がいた。

 本当に来てたんだと、息を切らせながら歩み寄る。「本当にごめん」と謝った希君に頷くと、駅を利用する人の邪魔にならないように、人の少ない場所に移動した。


「ごめん、弟に嫉妬したんだ。たった一人の家族だから優先して当たり前なのに考え無しで、酷い言葉で傷つけた。なんであんなこと言ったんだろうって後悔してる」


 希君の言う酷い言葉は、わたしの感じたなんとも言えない苦い言葉と同じだろうか。

 希君にとって最優先だったのはわたしと過ごすことだった。それは嬉しいことだ。一年前のわたしなら当然だと理解できた言葉なのに。こうして来てくれてるのに胸のつかえが強くなってくるのはどうしてなんだろう。


「もういいよ。そんなに謝らないでよ。元はといえばわたしが悪かったんだから」

「自分のことしか考えてなくて。由美香の事情を理解してるつもりだったのに、それを利用するような言い方して。物凄く後悔してる」


 でも思ってたんだよね? とは聞けず、なのに拒絶もできなくて。大丈夫だと告げると、希君はホッとしたように小さく笑った。


「別れ際、すっげぇ冷たいこと言ってごめん。あれはないよな」

「大丈夫だよ」


 びっくりしたし、悲しかったし、人の目もあったけど、そんなこと言ってもしょうがない。


「クリスマス、一緒に過ごそう。由美香の言ってたイルミネーション見て、晩飯に間に合うように帰ろう」

「うん、そうだね。ありがとう」


 希君は欲求を我慢してわたしの思う通りにしてくれる。なのに嬉しくない。また同じことになるんじゃないかとの不安が押し寄せていたけど、希君と別れないためには頷くしか方法がなかった。


「よかった」と呟いた希君の視線が不意にそれて、追うように振り返ると陸斗がいた。びっくりしていると「姉ちゃん」と、とても低い声で呼ばれる。


「それ、もしかして彼氏?」

「え、あ、うん。同じ学校の秋吉希君」

「はじめまして。陸斗君?」


 希君が陸斗に声を掛けたけど、びっくりすることに陸斗は希君を無視して「男家に上げるとかしないでよね」と言って、踵を返すとスタスタと歩いて行った。


「あ〜、俺、嫌われたかな?」って、希君は笑ったけど。陸斗の見えない怒りを感じたわたしは両腕を擦った。


 絶対、帰りが遅かった理由を悟ったのだ。

 男にうつつを抜かしてとか思われているに違いない。


「ごめん、わたし帰らないと」

「そうだね。急に来てごめん。また明日」


 わたしは希君が電車に乗り込むのを手を振って見送った。

 すると希君が乗った電車と入れ違いに入ってきた電車から、大きな荷物を抱えた林兄が下車してきた。

 さすがの林兄も、こんな時間に学校ジャージ長袖短パンなわたしに目を見張る。


「何してんだ?」

「ちょっと、人を見送ったとこ」


 目を泳がせたわたしに林兄は溜息を吐くと、大きな荷物の中から薄手の上着を引っ張り出して差し出した。


「袖通してないから貸してやる」

「いいよ、いらない」

「それじゃ寒いだろ。風邪でもひいたら誰が看病するんだ」

「……ありがとう。林君はこんな時間まで学校?」


 実は上着を持たずに飛び出してきたことを後悔していたのだ。受け取って袖を通すととても温かい。


「修学旅行だった。その帰り」

「どこに行ったの?」


 林兄は巨大レジャー施設や国宝のお寺、世界遺産など行った場所を連ねる。


「同じ公立でも行き先違うね」

「お前たちはどこに行くんだ?」

「一月末にスキーだよ。しかも去年の先輩がなにかやらかしたらしくて観光なし」


 久し振りの林兄との会話は楽しかった。家の前で上着を返すと、「土産」だと言って大きな箱を渡された。



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