運動会
十月最初の土曜日、陸斗の運動会に行ってきた。
多くの熱中症者を出して救急車を呼ぶ事態になった中学校は、体育館だけじゃなく、クーラーの効いた空き教室も開放して猛暑対策に抜かりがない。
なのに連日の猛暑はどうしたのか。
この日は曇り空でとても肌寒く、長袖の観覧者が大勢いて、テント下の生徒たちは寒そうに身を寄せ合っていた。
小学校までと違って、中学になるとお昼は家族ではなく、各教室でお弁当を広げることになっている。保護者たちは自宅に戻ったり、近くの飲食店で済ませる人が多い。
わたしはこの日のためにネットを駆使してレシピを集め、朝の四時起きで陸斗のお弁当を作った。
定番の唐揚げ、チーズインハンバーグに、陸斗の好物である梅干しおにぎりと、玉子とハムとキュウリを挟んだサンドイッチ。ポテトサラダ。
チーズインハンバーグのチーズは焼いたら流れ出てしまい、少し焦げが目立つけどなかなかの出来。おにぎりは三日前から握る練習をした。
たくさん作ったので出来の良い物だけお弁当に詰めて、残りはわたしのお昼。食べきれない分は夜ご飯になる。
出身中学だけど同級生が観覧に来てるなんてことはなくて、わたしは一人、観覧席に立ったまま陸斗の競技を見つめていた。
障害物競争と、長縄跳びに100メートル走。
縄跳びは学年最下位で残念だったけど、単独での100メートル走は一着。
選抜の男女混合リレーに選ばれている陸斗はアンカーの400メートル担当だ。
頑張れ元サッカー少年、現家庭科部!……と、心の中で応援する。男女合わせて四人それぞれに頑張って一着! 陸斗がゴールテープを切る瞬間、「陸斗ーっ!」と叫んだら、真横でも同じく「陸斗!」と叫んだ人がいて。林君のお母さんだった。
「小学校の時からだったけど、やっぱり陸斗君速いね」と、林君のお母さんがわたし以上に興奮している。
わたしも嬉しい。熱中症で倒れた時は悔しそうだったから、変わらず速い陸斗が見れて本当に嬉しかった。
興奮したまま、クラステントに戻る陸斗の名前を呼んで大きく手を振ると、素っ気なく顔を背けられたけど手がちょっとだけ上がった。
姉に応援されるのは恥ずかしいだろうけど我慢して。二人きりの家族なんだし。何よりもお姉ちゃんは楽しいから。
お昼になったので一度家に戻る。林君のお母さんがランチに誘ってくれたけど、陸斗と同じものを食べたかったので断った。それにお世話になりっぱなしで、林家の団欒にまで入り込むのも気が引けるし。
お腹いっぱい食べて時間があったのでちょっと横になる。ウトウトして、はっと気付いたら15時を過ぎていた。
慌てて中学校に向かったけど運動会は終わっていて片付けの真っ最中。学年ダンスと部活動対抗リレーを見逃してしまい大ショックだった。
それでも帰宅した陸斗が「弁当美味しかった」と言ってくれたので嬉しかった。「何が一番美味しかった?」と聞いたら、「焦げたチーズ」と返された。




