無意識で約束しちゃった?
わたしと陸斗は、父と母のスマホに保存されていた家族に関わる写真を互いのスマホに転送した後、二人のスマホを封印した。
父の裏切りを母がどう思っていたのか分からないけれど、知ったとしてもどうにもならないのが現実だ。
父の母への裏切りを大したことと捉えていなかった陸斗には、「好きな女の子を泣かせたり、振られてもいいなら、姉ちゃんの言いたいことが理解できなくても大丈夫だよ」と笑顔で言っておいた。
陸斗は神妙な顔つきで「分かった」と返事をしたので、父のようにはならないんじゃないかなと期待している。
週明けの月曜、駅で林家の兄と会った。
「土曜は迷惑かけてごめん」と謝罪したら、「何のこと?」と怪訝な顔をされた。
林君のお母さんは海君に説明してないようだ。わたしたちの事を家族に対しても言いふらさないでくれることが嬉しかった。
「知らないならいいや」と誤魔化したけど、「じゃあ空に聞く」と言いながら海君は電車に乗り込んだ。
しくじった。流石に空君は知ってるよね。我が家の恥を自ら曝したことに落ち込んでいたら、翌日は下校中の電車の中で海君に話しかけられた。
「ストーカーが家に押しかけて怪我したって聞いたけど?」
「空君がそう言ったの?」
海君は頷いた。話が変なことになっていてびっくり。
「まぁ……そんなとこ」
「怪我ってどこ?」
「肩を打ったけど大した事ない。ちょっと痣になった程度」
「帰りはいつもこの時間?」
「大体そう。水曜は一本早いかな」
海君は「ふーん」と言ってわたしの肩をじっと見つめている。眉間に皺が寄っていて、見られている肩が何だか熱い。見えないビームで焼かれる。
その後、海君とは家の前まで一緒に下校した。
これまでも同じ電車になったことはあったけど、ホームで見かけて「あ、いるな」程度にしか認識してなかったのに。無言で肩を並べて歩くのはとてつもなく気まずかった。
なのに翌日、電車で海君とわたしを目撃していたらしい友達から「いつの間に彼氏できてたの!?」と騒がれた。「イケメンだった!」「どこの誰!?」と女子は大騒ぎ。
「付き合ってないよ、近所の同級生でたまたま同じ電車になっただけ」だときっちり訂正した。
学校が終わって友達と別れて電車に乗ったら、昨日に引き続き、他の車両にいたらしい海君がやってきて隣に並んだ。
隣に来た海君は無言で吊り革に掴まると、スマホをいじって英文を読んでいる。
ちらりともわたしを見ないで勉強していた海君は、わたしの家まで同行するとスマホから目を離さないで「じゃあまた」と言った。
え? まさか明日も一緒の電車に乗るの?
約束なんてしてないよね?
えぇぇ……いつの間にか一緒に帰る約束しちゃったっけ? 記憶にないんだけどなぁ?




