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知っていた



 父の不貞はわたしの勘違いだったのだろうか。真田星輝とのことが衝撃すぎて、父への怒りがかなりしぼんでしまった。

 それでも証拠がある。母も知っていたから手元に残していた。決定的なことがなくて未遂だったとしても、心を持っていかれていたらアウトじゃないの?


 更にわたしにとって衝撃だったのは陸斗が知っていたことだった。

 陸斗も父と母のスマホを見て、父が女性と楽しくやり取りをしていたことや、年度末の旅行のことも認識していた。


 ただ陸斗はわたしのように重要だと捉えてなくて。裏切りとか思わず、文面のまま流し読みしていただけだった。だから父が整理していた過去の色んな女性とのやり取りまでは知らないみたい。

 陸斗は「もし嫌だったら離婚とかしたんじゃない?」と、離婚というショックな言葉をさらりと口にした。


「陸斗はお母さんとお父さんが離婚しても良かった?」

「そんなわけないよ。浮気がいけないことなのは分かるけど、お母さんはお父さんを許したから離婚しなかったんじゃないの?」

「許すわけないよ。許してたら証拠を持ってたりしない」

「でもさ……」と口ごもった陸斗に、「言いたいことあるなら言いなさいよ」と冷たく促す。


「姉ちゃんが中学の時、夜遅くまで塾でいなくて。その時さ、お父さんが土下座してお母さんに謝ってるのを見たことがある」

「土下座!?」


 父と母の間に起きたことを中学生になりたての陸斗に隠しておきたかったのに、知られて拗ねていたわたしは陸斗の言葉に飛びついた。


 あの、何から何まで上から目線の父が、母を見下していた父が、土下座?


「見間違いでしょ。あり得ないんだけど」

「お母さん泣いてて。二度としないから、ごめんってお父さんは謝ってた。それでお母さんは許したんだと思ったんだけど……」


 陸斗の方が色々知っていて驚きだ。

 わたしが遅くまで塾に行っていたのは中3の時。高校受験前だ。父の浮気を母は知って問い詰めたのだろうか。二度としないと土下座までしておいて、真田星輝と仲良く楽しんでいたなんて、謝罪は口だけじゃないか。


 母は再度の裏切りを知ってどう思っていたんだろう。わたしはまったく気づかなかった。

 土下座の過去を知っていた陸斗も、それ以降は深く考えなかったみたい。二人が亡くなってスマホでやり取りを知っても、特に何かあったとか考えもしなかった様子。


「お父さんが浮気をしていたとしても、今更どうしようもないよね?」

 

 陸斗はわたしの顔色を伺いながら怖ず怖ずと口にした。

 確かにそうだけど、父の裏切りを許せない気持ちは変わらない。母が可哀相だ。

 母はどんな気持ちでいたんだろう。

 わたしや陸斗に向けてくれた笑顔の裏では泣いていたのか、怒っていたのか。わたしは家族のために朝早くから起きて夜遅くまで忙しそうにしていた母しか知らない。


 父がちゃんと仕事をしてくれていたからわたし達は何不自由なく暮らせていたけど、母だってパートをしながら家族の快適な生活を守ってくれていた。家族の間で裏切りがあったなんて、やっぱり許せないことだった。


「わたし達って、どのみち家族離散する運命だったのかな」って、つい言葉にしたら。陸斗が「姉ちゃん!」と声を荒げた。でもその表情は泣きそうになってて。


「ごめん、大丈夫だよ。わたしと陸斗は姉弟だから。陸斗が誰かを好きになっても浮気にはならない」


 おどけるように言ったら、陸斗はため息交じりに「……姉ちゃん」とこぼした。


「今日はごめんね。林君と林君のお母さんにも迷惑かけちゃったね」


 今日と言うか、色々有り過ぎて間もなく夜明けだ。新聞配達のバイクの音が静かな中に響いてくる。


「俺もごめん。会社の人だって言われても知らない人を家に上げちゃいけなかった。ひ弱で可愛い感じだったのに、姉ちゃんに向ける顔が鬼婆みたいで本当に怖かった。女の人ってあんなのが普通なの?」

「そうだよ。みんながじゃないけど、あんな感じ。だから気をつけな」


 半分冗談のつもりだったけど、陸斗は神妙に頷いた。

 



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