ブーメラン
次来たら警察を呼ぶからと真田星輝を怒鳴りつけたわたしは、その後女性警察官から話を聞かれることになった。
おばさん呼ばわりされて切れたあの女が訴えたわけじゃない。
わたしとあの女のやり取りに恐怖した陸斗が林君のお母さんに連絡して、駆けつけた林君のお母さんが沖田さんに連絡。そしてやってきた沖田さんは、わたしとあの女のやり取りの録画を見て警察に届けることにしたのだ。
あのやり取りを陸斗がスマホに録画していた。あの女に突き飛ばされて壁に激突した無様な姿もばっちり写っていた。わたしからすると汚点だ。あんな女に力で負けたような気がして悔しかったけど、弁護士視点からするととんでもないことだったらしい。「もっと注意するべきでした」と、沖田さんは未成年後見人として申し訳ないと頭を下げた。
一歩間違えば打ち所が悪くて怪我をしていたかも知れないと言われた。実際に興奮が治まると打ち付けた肩が痛くて、救急外来にかかることになった。
別に緊急のことじゃないと拒否したけど、沖田さんは医師の診断書を持って警察に相談しにいくと言った。
暴行を受けたことに間違いないけど、わたしも焚き付けた側だ。怖くなって嫌だと首を振ったけど、「君たちは未成年です。二人で生活したいのですよね? なら二人の安全は確保しなくてはいけません」と諭された。
沖田さん同伴で緊急の怪我じゃないのに病院に行って、診断書を書いてもらって警察に向かう。弁護士が相手だと分かると何もかもがスムーズに進んでいた。
わたしは女性の警察官に事実確認をされた程度で、動画に証拠も残っていたので大したことは聞かれなかった。
沖田さんと警察署を出る頃には日付が変わろうとしていた。本来なら沖田さんは仕事が休みで家族と過ごしていたはずなのに、わたしに一日付き合ったようなものだ。色々迷惑をかけて申し訳なくて「ごめんなさい」と心から謝罪した。
「由美香さんが悪いのではありません。私の方こそ、藤原さんから聞いていたのに、もっと強く注意をするべきでした」
結局、何をどうしてもわたしは未成年で、なにかにつけて周囲に迷惑をかけてしまう。
沖田さんのような立派な弁護士さんに後見人になってもらっただけじゃなく、わたし達の生活や身の安全まで気にしてもらっているのに、わたしはこれまでその重要性をきちんと認識していなかった。
わたし達姉弟に起きたことは、全て沖田さんにかかってしまうのだ。
わたしは父の会社を訪問する前に沖田さんに相談するべきだった。あの女が家に来たのは、会社を辞める原因になったわたしへの嫌がらせだったのかもしれないけど、そうさせたのはわたしだ。浅はかな行動が今に繋がっている。
「詳しくは話せませんが藤原さんが調べた所によると、真田さんは派遣先で度々問題を起こしていたようです。言い方は良くありませんが、男性を手玉に取るというのでしょうか。由美香さんのお父さんには様々な仕事のフォローをしてもらっていたようです。日向さんが亡くなって新しいターゲットを探していたようですが上手く行っていなかったようで、そこに藤原さんからの追求があり、色々な人達を罵倒して退職に至ったとか。その時に由美香さんの名前が出たようで、藤原さんからどうするべきなのか相談をされました」
大人しかった派遣社員が大声で周囲を罵倒し退職した。そこにわたしの名前がでて、藤原さんは万一があってはいけないと沖田さんに相談して。そして藤原さんの心配した通りになった。
実際にわたしの被害は微々たるものだけど、三十過ぎた大人が未成年だけの家に押しかけ、十七歳のわたしに手を出したことは大きな問題だ。沖田さんの相談を受けた警察は、これからあの女にわたし達姉弟への接近禁止を言い渡すらしい。
もっと大きな問題にすることもできたけど、大きくし過ぎると逆恨みされる危険があるそうで、沖田さんと警察が相談して、まずは接近禁止にするということになったそう。
まさか母のスマホから出てきた事実で、こんなことになるなんて思いもしなかった。
沖田さんに送られて家に帰ると、寝ないで待っていた陸斗が迎えてくれる。林君のお母さんと空君もいた。いろんな事があって、なんだか申し訳なくて、泣きたくないのに涙が出てしまった。