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わたしはさなのこと、父のこと、母のことを誰かに聞いてほしかったけど、父や母の名誉に関わるような気がして誰にも相談できずにいた。
と言うよりも、何よりショックだった。恥ずかしいとも感じた。同情されるのも嫌だった。幸せな人たちには分かってもらえないとも思った。
さなは典型的な相談女だ。
絶対にそう。
父にしか相談できないと甘えて、会社で自分の望む地位や居場所を手に入れる手段にしていたに違いない。もしくはわたし達の家庭をかき回して遊んでいたのだ。
初めは父への恨みが強かったのに、時間が経つにつれて父は被害者なのではと考えたり。さなのせいで母は辛い思いをしていたのだと、さなを恨めしく思うようになっていた。
だって、父は遊び相手と遊んでも深い関係にはなっていなかったようなのだ。やりとりをただ楽しんでいただけ。
なのにさなとは、わたし達家族に嘘をついてまで旅行に行こうとしていた。
倹約家のくせに遊び相手にはお金を使っていたのだと思うと腹が立つ。食事程度じゃなくてさなとは旅行だ。わたし達とは外食で焼肉すら食べたことがないのに。
父が生きていたらきっと大盤振る舞いしたのだろう。さなを喜ばせるために。
男の見栄なのか?
小学校の卒業式の後に焼肉に行くことになっていたのは、後ろめたさがあったからなのだろうか。
どうせさなは父に恋愛感情なんてないのに、必死だなと嘲笑ってやりたくなる。
手のひらの上で転がされて可哀想と思ったり、ざまーみろと感じたり。
それなのに、もしかしたら父はさなとの関係に困っていて、母に相談していたかもしれない……なんて思ってしまったり。
わたしの感情は日によって変わっていた。
「よし、行こう」
もやもやしたままでは埒が明かない。父も母も死んでしまって答えてくれないのだ。だったら答えてくれる人の所に行ってやる。
わたしは夏休み最後の日、父が勤めていた会社へと向かった。