裏切りの証拠
陸斗の小学校卒業式は動画で始まっていた。
卒業生入場。
ほんの五ヶ月前なのに、今の陸斗より子供っぽく感じる。そういえば背が伸びたな。
確認するように陸斗へと視線を向けたが、深くソファーに座ってアイスの棒を噛んだままスマホに夢中だ。
「今の身長って何センチ?」
「入学した時は164だった。それから測ってない」
陸斗はこちらを見もしないで答えると、咥えていたアイスの棒をゴミ箱に投げ捨てた。
「姉ちゃんはもう伸びてないの?」
「伸びてない」
「よかったじゃん」
父が高身長だったせいか、わたしは女子の平均身長を遥かに超えた。
背の高い女性はかっこよく見えると慰められるけど、服は全て寸足らず。踵の高い靴なんて父と並ぶならいいけど、同級生男子の身長を気にしたら履けない。彼氏なんていないから気にしなくてもいいのだけど、そのうち気になるに決まっている。
わたしはスマホの画像を飛ばし見る。小学校を過ぎるとほとんどなくて、わたしが写っている最近の写真は高校入学の時だった。
そして最後に、校門前で友達に囲まれた陸斗。父と母の姿はない。
「いないのか」って呟いて。小さい頃の写真を見ようとアルバムフォルダを開いた。
題名のない番号だけのフォルダ。家族の写真だけじゃなくレシピなんかも保存されていたので、近いうちに作ってみようと思ったのだけど。
並んだ画像の中にチャットのスクショが紛れていて、なにとはなしに開いてわたしは凍りついた。
え、なにこれ??
痛いくらいに心臓が早鐘を打つ。
それは父と、さなとかいう女性とのチャットのやり取りで、父のチャットアプリを撮影したものだった。
見てはいけないと思ったけど見ずにはいられない。最新の日付は三月、陸斗の卒業式の前日で、年度末の旅行楽しみ〜と、さなから送られてきていた。
年度末、父は出張で不在の予定だった。父が出張のときは母は家事を手抜きして、わたしと陸斗が大好きなファミレスに連れて行ってくれるのが恒例になっていた。倹約家の父が一緒だと絶対に注文できない食後のパフェ。わたしと陸斗はそれを楽しみにしていたのだ。
どんどん指をすべらせて過去のチャット画像を読んでいく。手が震えた。そこにある秘密は父とさなの不倫の証拠で、それを母は知っていたのだ。
「姉ちゃん?」と、陸斗の声で我に返る。振り返ると怪訝な顔をした陸斗が「姉ちゃん?」と、もう一度わたしを呼んだ。
「え、なに?」
「いや、姉ちゃんこそなに? 顔色が真っ青。寝たほうがよくない?」
「あ……うん。そうだね。初盆終わって疲れが出たのかな?」
「学校も無理してるなら行かなくていいよ」
「大丈夫、ちょっと横になれば良くなるから」
心配してソファーから立ち上がろうとした陸斗を手を降って止めた。むりやり笑ったけど笑えてないことは自分でも分かる。わたしは逃げるように自分の部屋に飛び込んだ。