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巨峰山の巨峰山寺

42 巨峰山の巨峰山寺




 そこは、参道の入り口からして、入ってはいけないような厳かな雰囲気がある。

 整備された石畳が続いているが、多くの修行僧が踏み、繰り返されたであろうその石からは、苦汁の匂いがした。


しばらく歩くと、大きな看板が現れた。

 大きな字で、何かが書いてある。

 良くないことが書かれているのは、明白だったが、俺は念話でユキさんに訊ねた。


『女人禁制・・・女性は入ってはいけないと書いてあります』


『どうして、入っちゃいけないの?』


『修験者が修行をする場所ですから、女性に惑わされたくないのでしょう・・・もしくは、とても危険な道程なので、危険だからという配慮かもしれませんね』


 ユキさんは、俺を見て微笑する。

 絶対違う・・・。

 女性には見せられない、おぞましい事をしているのだ。

 字体から、俺はそう察した。


 道は徐々に勾配がきつくなり、険しさを増していく。

 ほとんど垂直の道は、もう道とは呼べないだろう。

 岩をよじ登らなきゃいけないから、忍び装束のカシンは良いとして、他の着物姿の女性陣には厳しいのではと、俺は後ろを振り返った。


 よじ登ってなどいなかった。

 ユキさんも、夜笑さんも、鶴姫でさえも、背丈ほどある岩をピョンピョンと飛んで優雅に登っている。

 爪を立てて、這いつくばっている俺が、一番難儀していた。


『女人禁制って、書いてあったでしょう』


 上の方から声がした。

 見上げると、天狗がいた。

 真っ赤で、やたら鼻の長い顔をしている。


「うわぁぁぁー、でたぁぁ」


 俺は、びっくりして叫んでしまった。


「うるさいわ! お前の声にびっくりするわ」


 鶴姫に、デコピンされた。


「お出迎えご苦労様です。御心配には及びません」


 岩を軽く飛び越えて、巫女装束の夜笑さんが、天狗の脇に並ぶ。


「いやね、心配して言っているんじゃないのだよ。女は入っちゃダメなんだよ」


 天狗は、穏やかな口調で言う。


 顔は恐ろしいけど、声はそんなに怖くない。


「何故でしょう? 入れちゃいましたけど・・・」


 夜笑さんの隣に、ユキさんも難なく辿り着く。

 天狗は、無言で2人を見つめている。

 あ、この天狗の顔、お面だ!

 俺も、ユキさんの後に続いて登り切った。

 天狗の顔を見て、表情が変わらないことでそれに気づいた。


「残念だけど、ここまでだ。ここから先には行かせない・・・」


 天狗は、同じ顔で言った。

 言葉に、ちょっとだけ凄みを感じる。

 天狗は、ぴょんと飛び上がり近くの岩に飛び乗った。

 天狗は、ジャラジャラ鳴る輪っかの付いた柄の短い杖を振る。

 錫杖と言うらしい。


「押し通らせていただきます」


 夜笑さんは、天狗を無視して脇を通り抜ける。


「待てと言っている!」


 天狗は声を荒らげ、錫杖を振った。

 夜笑さんの後を、ユキさんとカシンが続き、その後を鶴姫と夜雲、夜摩が行く。

 突然霧が立ち込めた。


 あたりが真っ白になって、自分の足元も見えなくなる。

 あらら、困ったぞ。

 俺は、足場を探りながら慎重に進んだ。

 みんなに置いて行かれてしまう。

 焦りを感じて、みんなが進んだであろう方向を駆けだそうとした時、何者かにうなじを摘まみ上げられた。


「シロ! 目を覚ませ!」


 急に視界が開けた。

 たちまちに霧が晴れ、俺の足元には断崖絶壁が広がっている。


「うわぁぁー」


 目の回る高さだった。

 俺は、慌てて声の主にしがみついた。


「幻術だ。気をつけろシロ」


 声の主は夜雲だった。

 俺は泣きそうになるのを、必死にこらえて夜雲に礼を言った。

 少し先にいる他のみんなが、安堵の表情で俺を見ている。


「良かったぁ。夜雲さんが気付いてくれなかったら、シロさん落ちてしまっていました」


 夜笑さんは、安堵と反省の面持ちで俺を見る。


「あんたは、あたしがおぶってやるよ。つかまりな」


 鶴姫が、夜雲から俺を受け取る。

 申し訳ないけど、一人で歩けるけど、ビビリあげてしまった俺は、素直に鶴姫に抱っこされた。

 さっきの天狗は、うめき声をあげながら、カシンの足元でもがいている。


「ここの天狗はね、役小角仕込みの幻術を使うから気を付けよう!」


 少女カシンは、にこやかに言って俺の頭を撫でる。

 俺、さっそく、足手まといになっているな。

 鶴姫は、俺を抱っこしたまま岩を飛び上がる。


 お婆さんに負担をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 鶴姫のすぐ後を、黒いスーツの黒鷹が、無表情でついてくる。

 背中には、何が入っているのか大きなジェラルミンの箱を背をっていた。


 岩山を登りきると、少し開けた場所に出た。

 緩やかな登り坂に、石を置いただけの足場が点在した。

 そこに、天狗が数人くつろいだ格好で待機している。

 俺たちに気づくと、億劫そうに立ち上がった。


「ここらで、いったん休憩にしよう」


 夜雲が言った。

 天狗がいるけど・・・。

 俺は、天狗から目を放せないでいる。

 みんなは、各々適当な場所に腰を下ろして楽にした。

 俺を抱く鶴姫は、天狗たちを背に石に座って煙草を吸う。


「ブハァァー、空気の良い所での一服は最高だね」


 と、呑気な事を言っている。

 俺は鶴姫の肩越しに天狗たちを観察した。

 ちょうど10人いる。


 それぞれが、さっきの天狗と同じ格好をしていて、ダボダボの着物に錫杖や、長い棒を持っていた。

 天狗たちは、少し高い所から俺たちを見下ろしていたが、姿勢を正してお祈りをするように、ブツブツとなにやら唱え始めた。


「邪魔だなぁ。片付けちゃうね」


 少女カシンは、天狗たちの前に出ると天狗たちと同じように何やら唱え始める。

 何を言っているのか、意味は不明だけど天狗の言っている言葉とよく似ているように聞こえた。


「オン・マリシエイ・ソワカ」


 言いながら、カシンは宙に指で何やら文字を書く。


「サラテイ・サラテイ・ソワカ」


 指を、天狗たちに向けて指す。


「オン・マリシエイ・オンテキ・ソクメツ・ソワカ」


 力を込めて、最後の言葉を言い切ると、前方の天狗たちが次々に倒れ始めた。

 何が起きたのだろう・・・。


果心居士かしんこじに呪術勝負を挑むなんて、浅はかな天狗どもさ」


 鶴姫が、俺の背を撫でながら言った。


「おしまーい。全部やっつけたよー」


 にこやかに少女カシンは戻ってきた。


「ああ、ありがとう。おはぎ、頂いているぜ」


 夜雲は、おはぎを頬張りながらカシンに礼を言う。


「どーぞ、どーぞ」


 カシンも、夜笑さんの隣に腰を掛けておはぎを手に取った。


「シロさんは、これを・・・」


 夜笑さんは、俺にスルメを差し出した。

 ありがたく頂戴する。

 俺は、にこにことおはぎを食べる少女カシンを見た。


 黒い忍び装束で、頭巾は外している。

 金髪の長い髪が、さらさらと風になびいていた。

 可愛らしいのに、不可解な強さを持っている。

 たまに青年だし、お爺さんの時もある・・・。

 不思議な人物だ。


 カシンと目が合うと、カシンは微笑んだ。

 俺は、自然を装って鶴姫に視線を戻す。

 鶴姫の隣には、黒鷹が立っている。

 口の周りに黒いあんこを付けて、モグモグしていた。

 おはぎ、好きなんだなぁ。




 山頂近くに来たのだろうか、しばらく見晴らしの良い稜線を歩く。

 このあたりは、足場も良さそうだし天狗もいないようなので、俺は鶴姫に言って地面に降ろしてもらった。


 あ、急に見晴らしが悪くなった。

 俺が、小さいからだ。

 さらに歩くと、山奥なのに立派な建物の屋根が見えてきた。

 巨峰山寺というらしい。


 天狗たちと、役小角がいる本拠地だ。

 一度稜線を下り、再び登り道に差し掛かると、苔むす石の階段があって、その先に古びた鳥居が見えた。


 でも、その石の階段には大勢の天狗が立っていた。

 ざっと、40~50人程であろうか?

 みんな同じ格好で同じお面を被っていたが、さっきの天狗を見て見慣れたのだろうかそれほど怖くはなかった。


「しゃらくせぇ、やっちまうよ」


 鶴姫が、ずかずかと先頭を行く。


こん


 鶴姫が言って手を差し出すと、既に準備していた黒鷹が長い棒を鶴姫に手渡した。


「ぅぅおおぉぉーりぃぃやぁぁぁー」


 棒を受け取るや否や、鶴姫は雄叫びをあげながら天狗たちに突進する。


「せっかちな婆さんだぜ!」


 その後を夜雲と夜笑さん、ユキさんが追う。

 いつの間にか、カシンはもう闘い始めていた。


「チロは、俺といっしょにいるぞ」


 むんずと、夜摩が俺を抱っこする。

 背中から抱き上げる夜摩の抱き方は、へたくそなのよ!

 苦しいんだわ!


 混戦で、ひっちゃかめっちゃかだ。

 天狗は宙を舞い、ひらりひらりと地にいる夜雲らを攻撃する。

 しかし、我が仲間たちの強さは桁違いだ。

 天狗たちは、次々に地に落ちていく。


 少女カシンは、眼にもとまらぬ速さで打撃をみまい。

 夜笑さんと夜雲の、毒爪や毒霧は天狗を怯ませる。

 鶴姫の棍棒さばきは、鬼神の如く。

 ユキさんは歌い踊りながら、天狗たちを凍えさせた。


 程なく勝敗が決する。

 うずくまり、苦悶の表情を浮かべる天狗たちに同情の念を禁じ得ない。

 俺の仲間たちは、とんでもない化物ぞろいだ。


「こんなものかい・・・もう少し張り合いがあったと思うがね」


 鶴姫は、長い棒を黒鷹に手渡し煙草を受け取る。


「侮るなよ・・・不届き者め、この先に居られる方々は、我らの比ではないぞ」


 天狗の一人が、うずくまったまま言った。


「そうかい、そりゃ楽しみだ」


 鶴姫は、煙草の煙を吐きながらにやりと笑う。


「油断するな、役小角はこの先にいる。奴は相当な手練れなのだろう」


 そう言う夜雲だが、薄っすらと笑みを浮かべ余裕のある顔をしている。

 俺たちは、倒れている天狗たちを踏まないように気を付けながら上へと登り、鳥居をくぐった。

 そこは、この険しい山中には不釣り合いなほど、広い敷地で大きな社屋が待ち構えていた。


 細かい砂利の広場があり、境内と言っていいと思うのだが、灯篭や手水舎のようなものは無く簡素な造りである。

 年季を感じる木造の門をくぐり、その広場に入ると正面に数人の天狗が待っていた。

 俺たちの出迎えのようだ。


「邪魔するぜ! 役小角に会いに来た。取り次いでくれ」


 夜雲が、天狗たちに大声で言う。

 天狗たちに反応はない。


「ふん。歓迎されていないようだね」


 鶴姫が、煙草を吸いながら言った。

 俺は思う。

 もう、消してほしい・・・。

 もう少し、マナーを気にかけてくれないかな・・・。 


「私が、ここの代表だ。要件など訊かぬ、即刻山を降りよ」


 少し奥にいた小柄の天狗が言ったようだ。

 大柄の天狗が手前にいて、気付かなかった。

 声から女性のようだ。


「おい、お嬢ちゃん。小角に用があるって言ってんだ。はい分かりましたって言うんだよ」


 鶴姫が、ずかずかと天狗たちの方へ歩いていく。


「やれやれ・・・老人、老害に気付かず・・・残念だね」


 代表と言う天狗が手をあげると、手前にいた天狗たちが各々の武器を構えた。

 天狗は、代表の天狗を含めて5人いる。

 鶴姫を中心に、夜雲、夜笑さん、少女カシン、ユキさんが横並びで睨みあう形になった。


「おや、丁度良い人数だね」


 代表の天狗が、手前に出てきた。


「あんたたちも、ここまで来れたんだ、それなりの手練れなのだろう? 乱戦もつまらない。1対1の試合形式にしよう」


 代表の天狗が提案した。


「あたしゃ、どっちでも構わないよ」


 鶴姫は、吸っていた煙草を黒鷹に差し出す。


「わかった。良いだろう」


 夜雲は、仲間たちの顔を見渡し承諾した。


「順番は、どうする?」


「そちらは勝手に決めてくれ、こちらはそのでかいのから行く」


 代表の天狗が、ひと際大きな体の天狗を指した。


「では、こちらは私から行きます」


 そう名乗りをあげたのは、ユキさんだった。

 みんな、ちょっとびっくりしてた。

 俺もだけど・・・。


「いや、いくら何でも体格差があるだろう。俺が行く」


 夜雲はユキさんを制した。


「私は大丈夫です。任せてください」


 ユキさんは、夜雲に頭を垂れて再度願い出た。


「その娘なら大丈夫さ、任せてやんな」


 鶴姫が言う。


「・・・わかった」


 夜雲は、鶴姫とユキさんを交互に見て納得したようだ。


「こちらは、このユキが先鋒だ」


 夜雲は、ユキさんの肩に手を置いて宣言する。

 初戦は、体の大きな天狗とユキさんに決まった。

 闘う当人を中央に残し、それ以外の者は距離をとった。


 大天狗 VS 雪女 






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