表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/76

老人会の会合

39 老人会の会合




「チーローちゃーん」


 俺が鶴姫と話している最中に、黒の短パンにダボダボのチェック柄のシャツ姿の少女カシンと、チェック柄の短いスカートに白いニットを着たユキさんがやってきた。

 カシンはともかく、ユキさんの洋装に驚いた。


「珍しいね。ユキさんの洋服姿」


 和装のユキさんしか見たことなかったから(水着を除く)、ちょっと新鮮だった。

 どっちも似合っているけどね。


「カシンさんにお借りしたのです。あまり服を持ってきていなくて・・・」


 ユキさんは、少し恥ずかしそうな顔をした。

 長けの短いスカートを気にしている。


「ありがとうね。お鶴さん!」


 少女カシンは、鶴姫の膝の上にいた俺を抱き上げる。


「あんたのその顔で、お鶴さんなんて呼ばれると腹が立つね」


 鶴姫は、不快そうに鼻を鳴らす。


「アハハ、中身は一緒なんだから、今更気にしないで」


 カシンと鶴姫は、知り合いなのだな。

 きっと、俺の様子を見るように鶴姫に頼んでくれたのは、カシンなのだろう。

 俺は、少女カシンと鶴姫の顔を見比べる。

 孫とお婆ちゃん・・・にしか見えないが、口には出さなかった。


「ずいぶんと早かったじゃないか、もう少しかかると思ったけどね」


「ユキちゃんが本気出したら、あっという間だったよ。ユキちゃん。見ただけで影走り倒しちゃうんだもん」


 カシンにそう言われて、ユキさんは照れくさそうにモジモジした。


「そいつはすごいねぇ、何をしたんだい」


「はい、心臓を凍らせたのです。生き物って、心臓が凍ってしまったら動けないでしょう」


 ユキさんは、恐ろしいことをさらりと言った。

 動けないどころか、即死だろう。


「そ、そんなことができるのかい・・・さすが雪女だね」


 鶴姫も、ちょっと引いている。


「チッ、まだいたか」


 鶴姫が、参道の入口らへんを見て舌打ちをした。

 参道の入口に、真っ黒い靄がかかっているように見える。

 大勢の影走りが現れたのだ。


 いや、違う。

 影走りが、徐々に大きくなって鳥居と同じくらいの背丈になった。

 大勢ではなく、巨大な影走りだ。


「どうやら、あれが親玉のようだね」


 鶴姫は、黒鷹に煙草を用意させると美味しそうに煙を吸い込んだ。


「ユキちゃん! パパっと心臓、凍らせちゃって」


「うーん・・・ちょっと大きすぎるかなぁ」


 ユキさんは、首をひねって影走りを観察する。


「ここは、あたしが請け負ったんだ。あたしに任しときな」


 そう言って鶴姫は、黒鷹に目を向ける。


「太刀だ・・・」


 黒鷹に鶴姫は命じる。

 黒鷹は黙って頷くと、踵を返して走り出した。

 参道の入り口の方へ走って行く。


 どこへ行くんだ?

 そっちには、巨大な影走りがいるのに・・・。


 黒鷹を眼で追っていると、巨大な影走りを嫌でも見なければならない。

 影走りの表面が、もぞもぞとうごめいている。

 ああ、そう言う事か・・・。


 気付いて、俺は気持ちが悪くなった。

 1体の巨大な影走りなのではなく、大勢の影走りが集合して1体の影走りを形成しているのだ。

 その影走りの股の下を、黒鷹は躊躇することなく走り抜けていく。


 肝が据わっているというか、大胆な男だな・・・。

 黒鷹は、神社の前の道に停めてある黒い車のトランクを開けると、中から大きな刀を取り出した。

 体の大きな黒鷹が持っても、その刀は大きい。


 黒鷹は、大きな太刀を抱え持つと、今来た道を引き返してきた。

 影走りの股の下を通るとき、影走りの腕が黒鷹に襲い掛かかる。

 しかし、そんなこと気にも留めず、黒鷹は走りながらそれをかわした。


 黒鷹は、鶴姫の元にたどり着くと、膝をついて恭しく太刀を掲げる。

 鶴姫は、無言で縁台を降りると太刀を受け取りった。

 すかさず抜刀し、鞘を黒鷹に投げ渡す。


 大きな刀だ。

 刃渡りだけで鶴姫の背丈ほどあり、身幅も掌ほどある。

 その巨大な太刀を、鶴姫は肩に担いで歩き出した。


 くわえていた煙草をペッと吐き捨てると、鶴姫は走り出す。

 後ろから追従する黒鷹が、鶴姫の捨てた吸殻を拾いあげ、懐中から取り出した携帯灰皿に収めた。

 鶴姫は、鳥居の柱に向かって突進する。


 ぶつかる!

 俺は、思わず痛い顔をした。

 でも、鶴姫はぶつからない。


 巨大な太刀を肩に担いだまま、鶴姫は垂直に鳥居の柱を駆け登った。

 そんなこと無理でしょう。

 俺は、呆気にとられる。

 鶴姫は、鳥居のてっぺんである笠木まで駆けあがると、勢いそのまま影走りの頭上めがけて飛び出した。

 下から、影走りの両腕が鶴姫を捕まえようと迫り来る。


「おおぉぉぉ―――りぃぃぃやぁぁ―――」


 雄叫びと共に、鶴姫は大太刀を振り下ろした。

 そのまま、線を描くようにまっすぐに地面まで降りる。

 鶴姫が着地すると同時に、影走りは真っ二つになって参道の両脇に倒れた。


 2つに別れた大きな黒い塊から、わらわらと小さな塊が飛び出してくる。

 大きな影走りを作っていた小さな影走りたちだ。

 生き残りが、鶴姫に襲い掛かる。


 鶴姫は、大太刀を水平に構えると、影走りたちをまとめて薙ぎ払った。

 逃げようと背を向ける影走りにも、鶴姫は容赦なく返す刀で切り捨てる。

 あっという間に、参道には何もいなくなった。

 大太刀を肩に担ぐと、鶴姫はにやりと笑った。




 夜、俺は鶴姫の車に乗せられて、鶴姫の行きつけと言うお店に連れてこられた。

 十王台の商店街から、少し離れた住宅街の隅にその店はあった。

 ずいぶんと古い建物で、木造だが外壁は黒く焦げている。

 黒鷹が、暖簾をどけて入口の扉を開ける。


「お待ちしておりました」


 緑色の着物を着た女が、深々と頭を垂れた。

 鶴姫は、女には眼もくれず店の奥へと入って行く。

 調理場で作業をしている強面の職人が、ぎょろりと鶴姫を見た。


「よう、奥の座敷は空いているかい?」


 鶴姫がそう訊ねると、職人は黙って頷いた。

 その職人の眼が、鶴姫の後に続く俺に向けられる。

 こわい・・・俺、入っても良いのだろうか?


 俺は、ずんずん先に進む鶴姫に置いて行かれないように、小走りでついて行く。

 奥の部屋の前に、割烹着を来た老女がいた。

 膝をついて、襖を開ける。


「いらっしゃい。元気そうだね」


 老女は、そう言って鶴姫を向かえる。


「ああ、お前も元気そうだね」


 鶴姫は、そう言って目を細める。

 部屋には長い机があって、窓からは中庭が見えた。

 まだ青い、紅葉もみじが植えられている。


「後から2,3人来るはずだ」


 鶴姫は、お茶の用意をしている老女に言った。

 女は、了承して出ていく。


「まぁ、楽にしな」


 鶴姫は俺にそう言って、自分は中庭の見える窓際に座った。


「たいした庭じゃないだろう? でもね、この庭は絵画のように昔から変わらないのさ」


 鶴姫が、庭を見ながら言った。

 俺に言ったのかな?

 それとも、独り言・・・。


「お連れ様がいらしたよ」


 先ほどの老女が、ビールと小鉢を持って現れた。

 その後ろから、誰かの気配がする。


「ああ、そいつには冷酒を出してやってくれ、洋物は飲まねぇのさ」


 鶴姫は、老女の後ろにいる人物を顎で指して言う。

 老女が出ていくと、代わりに入ってきたのは、禿げ頭の爺さんである。

 二ポッカに半纏姿で、首にタオルを巻いていた。

 夜刀爺さんだ。


「あ、私にもビールをお願いします」


 夜刀爺さんの背後に、もう一人の気配がある。

 その人物も、夜刀爺さんに続いて座敷に入ってきた。


「やぁ、お鶴さん。昼間は見事だったね」


 黒いスーツ姿の老人が、刀で切る仕草をしながら現れた。

 老人カシンだ。

 夜刀爺さんは奥に座って、老人カシンは手前に座った。

 鶴姫は、机を背もたれにして窓の外を見ている。


 何だ・・・この取り合わせは・・・。

 いつもは若い女性に囲まれて賑やかなのだが、今日のこの雰囲気は何なんだ。

 婆さんが1人、爺さんが2人、猫が1匹・・・。




 お通夜のような会合が始まった。

 3人ともほとんど話さないで、肴をつまんで酒を飲んでいる。

 俺は、イカそうめんなる物をもらった。

 美味である。


「おい、疫病神! あんたの思う所を聞きたい。これからどうなる」


 静かな所に、突然鶴姫が口を開いた。


「誰が疫病神だ! 夜刀神様だ。言い間違えんな」


 夜刀爺さんが、コップの冷酒を舐めながら鶴姫を睨みつける。

 鶴姫と老人カシンは、無言で夜刀爺さんを凝視した。


「知らねぇーよ! なるように何だろう!」


 2人の視線に耐えきれなくなったのか、夜刀爺さんは吐き捨てた。


「なるようにはなるんだろうさ、神から見ればねぇ」


 鶴姫は、頬杖をついて夜刀爺さんの方へ身を乗り出す。


「この際ですから、お互いの立場を忘れて情報を出し合いませんか?」


 空いたグラスに、手酌でビールを注ぎながら老人カシンが言う。


「ああ、それが良い。で、あんたは何を出す?」


 鶴姫は、煙草に火をつけた。

 あれ・・・そう言えば、黒鷹はどうしたのだろう?


「良いでしょう。私からは、西に反旗の狼煙あり」


 一度、グラスのビールに口をつけてから、老人カシンが言った。


「そうかい。じゃぁ、あたしは百鬼夜行・・・」


 鶴姫がそう言うと、ずっと穏やかな顔をしていた老人カシンが、眉間に皺を寄せた。


「さて、あんたの番だ・・・」


 鶴姫は、夜刀爺さんの方へ向き直る。

 老人カシンも、姿勢を正して夜刀爺さんの発言を待った。


「チッ、ん―――」


 夜刀爺さんは、舌打ちをして熟考している。

 いや、言いにくいことをどう切りだすか思案しているのかもしれない。


黄泉よみ・・・」


 夜刀爺さんは、絞るように呟いた。


「はぁー? 何だって?」


 鶴姫は、夜刀爺さんのほうに身を乗り出し耳を向ける。 


「黄泉の黒猫―――」


 夜刀爺さんは、早口で言った。


「なんだいそりゃ? 意味が分からん」


 鶴姫は、不服そうに夜刀爺さんを睨んだ。


「終わりだ。以上、俺は帰るぜ!」


 夜刀爺さんは、コップの酒を飲み干すと立ち上がった。


「待ちな! どういう意味だい!?」


 鶴姫が凄い剣幕で、夜刀爺さんを引き留める。

 夜刀爺さんは、引き留める鶴姫の手を振り払い慌ただしく出て行った。


「くぅそぉー、あの疫病神めぇ」


 鶴姫は、悔しそうに唇を噛んだ。

 老人カシンは、姿勢を正したまま考え込んでいる様子だった。


「どうだい? 何か思い当たる節はあるかい?」


 鶴姫は、元の席に座ると煙草に火をつけた。


「ありません。ありませんが・・・」


 そう言って、老人カシンは俺に目を向けた。

 鶴姫も、俺を見る。

 いや、待て!

 俺は、白猫だ・・・。  





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ