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大祝鶴(おおほうりつる)

38 大祝鶴おおほうりつる




 祭りが、一つの区切りになったのであろう。

 カシンがまた、コソコソと忙しなく動き始める。

 鳩のスーと、リトの様子もおかしい。

 そんな時、俺は夜笑さんを頼る。


「なんか、またみんなの様子がおかしいよね・・・」


「そうですねー。ちょっと大変そうですね」


 境内の掃除をしている夜笑さんも、忙しいようだ。

 最近は、この夜刀神社に顔を出さない日も多い。


「何が起きているの?」


 俺は、夜笑さんの足元にまとわりついて訊ねた。


「まだ、何も起きてはいないのです。でも、何かが起こる前兆のような―――」


「おい、夜笑!」


 声をかけられて、夜笑さんは話しを途中でやめた。

 夜刀爺さんが、神妙な顔で立っている。

 夜刀爺さんを見るのは、祭りの前日以来だ。


「お前も来い。人手が足りない・・・」


 睨みつけるような目で、夜刀爺さんは夜笑さんに言う。

 夜笑さんは、黙って頷いて掃除用具を片付け始めた。


「どこへ行くの?」


 俺は、2人に訊く。


「すぐ戻ります。シロさんはここにいてください」


 夜笑さんは、屈みこんで俺の頭を撫でた。

 境内を出て鳥居の前で立ち止まると、夜笑さんは懐から紙片を取り出し、鳥居の柱に貼り付けた。

 鳥居の真ん中あたりの石畳に、夜刀爺さんが手をついて何やらブツブツ言っている。


「心もとないが、無いよりいいだろう」


 夜刀爺さんが独り言ち、夜笑さんが頷く。

 2人の背を見送ると、俺は神社に独りぼっちになった。




 空の様子もおかしい。

 黒い雲が物凄いスピードで、東から西に流れ去って行く。

 台風でも来ているのだろうか?


 俺は心細くなって、お社の中に身を潜ませた。

 みんなどこへ行ってしまったのだろう?

 どこで何をしているのだろう?

 不安になる。


 朝から何も食べていないから、空腹のはずなのに腹も減らない。

 今は、昼を過ぎた頃だろうか・・・・。

 お日様が見えないから、時刻もよくわからない。

 俺は、扉の隙間から参道を窺い見る。


 おかしいんだよ。

 音が無いの。

 風の音はするけど、人間たちの生活の音がしない。


 そうやって外を眺めていると、1台の黒い車が参道の入り口付近に停まった。

 後部座席のドアが開くと、女性がひとり降りてきた。

 長身で黒いスーツ姿の男を従えて、こっちへ歩いて来る。


 誰だ・・・?


 見たことのない人だ。

 背は小柄で、黒いスカートにグレーのジャケットを羽織っている。

 銀縁の眼鏡に、長い白髪を後ろに束ねるその人は、老婆であった。

 身なりの良い老婆は、鳥居の前で立ち止まると背後の男に声をかける。

 男は懐から煙草を取り出すと、老婆に渡して流れるような作業で火を着けた。

 老婆は、鳥居を見上げると笠木に向かって煙を吐き出す。


「フン、子供だましも良い所だ」


 老婆はそう言うと、煙草を口にくわえたまま鳥居をくぐった。

 何と態度の悪い老婆だろうか・・・。

 俺は、老婆の態度を不快に感じながらも用心してお社の中で気配を消す。


 老婆は、まっすぐにお社の前まで来た。

 あろうことかその老婆は、賽銭箱に飛び乗り足を組んで腰をかける。

 何たる愚行!

 何と罰当たりな!

 俺は、怒りに震えた。


「まったく・・・なんでアイツらが、こんな小動物を気にかけるのか・・・」


 老婆はそう言って、肩越しにお社を見た。

 目が合った・・・気がした。

 俺は、音を立てないように扉の陰に身を隠す。


 バレているのか・・・俺がいるの・・・。

 血の気が引いた。

 急に、恐怖にかられる。


 その時、遠くの方からけたたましい騒音が近づいてきた。

 何台ものバイクの排気音とエンジンの音。

 暴走族と呼ばれる集団で、騒音をたてながら暴走行為ををする集団だ。

 エスズ家電の前の道路で、一度だけ見たことがある。


 その集団は、夜刀神社の前を通過したのだが、何を血迷ったのか、引き返してきて参道をバイクに乗ったまま侵入してきたのだ。

 どうなってんだ今日は!!

 この婆さんといい、暴走族といい、ろくでなしばかりやってくる。


 ろくでなし共は、アクセルを吹かしながら境内に向かって来た。

 ざっと、20台のバイクが狭い参道走ってくる。

 バカなのー!

 ここから出て行って、どやしてやりたい気分であったが、怖いのでやめておこう。


 そのうち、数台のバイクが鳥居をくぐり、あろうことか鳥居を蹴り始めた。

 せっかく、夜雲たちがなおしてくれたのに―――

 先ほど、夜笑さんが鳥居の柱に張った紙片がはがされる。


「じゃりどもがぁ」


 老婆は、舌打ちをして賽銭箱から飛び降りた。


こん


 老婆は、傍に控えていたスーツの男にそう言って手を差し出す。

 スーツの男は、アタッシュケースを開けると、何やら組み立てて老婆に差し出した。

 それは、老婆の身長より少し長い棒だった。

 老婆は、その棒を受け取ると軽快に振り回す。

 老人とは思えない動きである。


「くぅぅおぉぉらぁぁ―――、じゃりどもぉぉおお―――」


 老婆は、長い棒を振り回しながらバイクの集団に飛びかかった。

 5秒・・・いや、7秒・・・。

 老婆は、バイクからバイクへと飛び回りながら集団の男たちをなぎ倒していった。

 あっという間だ。


 20台ものバイクが、慌てて神社の敷地から去って行った。

 くわえていた煙草の火は、まだ消えていない。

 老婆は、控えている男に無言で棒を渡した。

 そして、火のついたままの煙草を石畳の上に放る。


 何故だろう?

 先ほどの暴走族の暴挙にも我慢できた俺なのに、老婆のその行為に我慢の限界が振り切った。


「こぉぉらぁぁぁ―――、拾えぇぇぇぇ」


 俺は、お社の扉を乱暴に開けて叫んでいた。

 老婆の冷たい眼差しが、俺を見る。

 ヤバい・・・やってしまった。

 俺は、何事もなかったようにお社の中に戻りたかったけど・・・もう遅いよね・・・。


「ブッ、アハハハ」


 老婆は、激しい笑い声をあげた。

 腹を抱えて笑っている。

 傍に控えるスーツの男が、老婆の捨てた吸殻を拾い携帯灰皿に収めた。


「やっと出てきたねー、おチビちゃん!」


 老婆は、笑いをこらえながら言う。


「しかし・・・ずっと隠れていたくせに、煙草のポイ捨ては許せなかったかい」


 そこまで言って、老婆はまた思い出したように笑い出した。


「姫様・・・来たようです・・・」


 スーツの男が、爆笑する老婆にそう告げた。


「ああ、そうかい」


 老婆は、目尻の涙を拭いた。


「いやぁ、こんなに笑ったのは久しぶりだ。良いじゃないかおチビちゃん。いや、シロだったね」


 老婆はそう言って、隣に立っている男に手を差し出す。


長柄ながえ


 老婆がそう言うと、男は屈みこんでアタッシュケースを開ける。


「いや、まて・・・弓だ」


 老婆がそう言うと、男は立ち上がり老婆の胴に簡易な鎧を着けはじめた。

 老婆は、諸手をあげて鎧の仕度を待つ間、どこか遠くを見ている。

 鎧の着付けが終わると、老婆は自分の身長と同じぐらいの大弓を受け取った。


 瞬く間に、5本の矢を射る。

 参道の入り口付近で、ドサドサと何かが落ちた。

 老婆が弓を男に渡すと、代わりに自身の身長よりはるかに長い薙刀を受け取る。


「シロよ、巻き込まれるといけない・・・お社の中にいると良い」


 老婆は、そう言って薙刀を下段に構え歩き出す。

 周囲から、黒い影が沸いた。

 黒い人型だ。

 何だぁっぁあ!!

 俺は、びっくりして尻餅をついた。


「安心しな。こんなのは雑魚だ・・・」


 老婆は、薙刀を振り回し始めた。

 さっきの暴走族と同じように、あっという間に黒い影を切り刻んでいく。

 黒い人型は、2~30人いただろうか・・・でも、あっという間に居なくなった。


 鳥居を出たあたりで、戦いは決したようで、老婆は薙刀をスーツの男に渡すと煙草を受け取り一息ついた。

 隠れているいとまもなかった・・・老婆の動きに見惚れてしまっていた。

 老人なのに、可憐だと感じた。


「あ、あのぅ・・・あなたは?」


 俺は、老婆に近づきながら訊ねた。

 この人を、警戒する気持ちなどなくなっていた。


「ああ、あたしはね。鶴って言うんだ。鶴姫なんて呼ばれているが、大祝鶴おおほうりつるってのが、あたしの名前さ―――」


 鶴姫は、煙草の煙を宙に吹いた。

 口笛を吹くかのように・・・。




 あの黒い人型は、影走りと言うらしい。

 鶴姫と名乗った老婆が教えてくれた。

 この影走りなる異形の者が、この街に大量に出現したらしい。


 それで、この影走りを退治するために、みんな街中で闘っているそうだ・・・。

 それならそうと、教えてくれたっていいのに・・・。

 俺は、ちょっと不満だった。


 俺だけ除者のけものかよ・・・まぁ、闘いには何の役にもたたないけど。

 まぁ、それで神社ここに置いてけぼりにされたわけだ。


「でも、どうして鶴さんはここに?」


 縁台に座る鶴姫の膝の上で、俺は訊ねた。


「あたしの受け持ったエリアは楽勝でね。あんたの様子を見てきてくれないかと、頼まれたのさ」


 誰に? と訊ねたかったけど、何で何でばかりじゃ子供っぽいからやめた。

 大方、夜笑さんかカシンであろう。

 でも、これだけは聞いておかなければならない。


「でも、何故鶴さんが闘って、あんたは闘わないの?」


 俺は、鶴姫の隣にいる長身の男に訊ねた。

 どう見たって、この男の方が強そうだ。

 男は、俺を一瞥しただけで何も答えない。


「コイツの事は気にしないで良い。黒鷹くろたかって名前だ」


 男の代わりに、鶴姫が答えた。


「みんなどうしてるかな? 大丈夫かな?」


「大丈夫さ、影走りは数が多いだけで、強くはない」


 鶴姫は、煙草をひと吹かしして吸いさしを黒鷹に渡す。


「影走りは、どうして突然現れたの?」


 結局、質問ばかりしている。


「影走りは、偵察部隊なのさ。もうすぐ、百鬼夜行が始まる・・・」


「百鬼夜行?」


 その言葉は、恐ろしい響きをしていた。

 恐ろしいことが、これから起こる。

 そんな予感がした。 




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