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リトとライオン

 今回少しお話が短くなってしまったので、次話の冒頭を入れてみました。次話は少しボリュームがあると思うので・・・。また足りなかったらどうしよう(*´σー`)エヘヘ


 3 リトとライオン



 最近、神社にお供え物が増えた。

 朝目覚めると、ひっくり返った賽銭箱の上にフナだったりコイだったり魚が奉納されている。

 有難いけど、川魚はちょっと苦手。アユやヤマメなら良いけど・・・。


 たぶん、近所の野犬の誰かだと思うんだけど、今度ライデンに会ったら言っておこう。

 俺もリトも、海の魚が無難に好きですって。


 今やリトは、この界隈のボスである。

 媚びる者もいれば、姿を隠すものもいる。


 猫は、一切出てこない。

 人間には媚びるくせに、小さな子猫のようなリトには媚びたくないらしい。

 姿を隠して、避けている。


 俺たちが住処にしている、ボロボロの小さな社の夜刀神社にも、蛇が出るらしいけどまだ一度も見たことがない。


 ただ今朝は、鳥居の前を竹ぼうきで掃除している人間を見た。

 白い上衣に、朱色の袴姿の巫女さんだ。

 黒髪を束ねた若い娘で、遠目だったけど美人なんじゃなかろうか。


 こんなぼろい神社に、巫女さんがいるとは意外であった。

 挨拶でもしようかと思ったんだけど、すぐいなくなっちゃったんだ。

 他の神社から来ているのかな?


「チロー、裏の方から獣の匂いがするにょー」


 リトが、お社の裏から慌ただしく駆け寄ってきた。

 この子、舌足らずで俺の事チローって呼ぶの。

 恥ずかしいんだよね。


「ああ、確か下の方に動物園があるから、その匂いが、風で運ばれてきたのかな」

 ここ十王台は、高台になっていて神社の裏は崖のようになっている。その下には、縦浜とういう大きな街があるんだ。


 その町はずれに、動物園があってたまに獣の鳴き声が聞こえることもある。


「にゅー、行ってみたいにょー」


「えー、結構遠いいよ」


 歩いていけないこともないけど、この間バスで行ったボクシングの試合会場も、動物園のある縦浜にある。


 あの日、行きはバスで行ったけど、帰りはどのバス乗ったらいいかわからないから、歩いて帰ってきたんだよね。


 大変だった。


「行きたいにょー」


「わかったよ、この崖降りたらすぐ着くけど、帰りはえげつない登りになるからな!」


「平気にょー」


 そう、こいつは平気。

 力も体力も、ぶっ壊れているから・・・。


 大変なのは、俺なのですよ。 


 そういう訳で、俺たちは動物園に行くことになった。

 垂直に近い雑木林の崖を降り、舗装された道路をわたって、また崖を下る。

 大変な道程なんだけど、リトは木々を飛びわたりまるで鳥のようだ。


 そんなリトを追いかけて、やっと動物園に着いたけど、俺は行きだけで疲労困憊・・・。

 帰りの登りはどうしよう。


 今日は、平日なのであろう。

 人間が、あまりいない。


 リトは、見たい動物とかいるのかな。

 俺はね、色とりどりの鳥が見たいな。

 綺麗だし、美味しそうだしね(笑)


「ねぇ、リトは見たい動物とかいるの?」


「にゅー、おさるさんかにょー」


「へぇー、なんで?」


「からかって遊ぶと、おもしろいにょー」


 見に来たんだよ!

 からかうんじゃない!


「にゅーゾウさんにょー、でかいにょー」


 ゾウを見ても感想はそれだけだ、すぐさま次に行く。


「キリンさんにょー、首長いにょー」


 見りゃわかるわー。

 はい、次!


 次にたどり着いたのは、お待ちかねのお猿さんコーナー。

 猿山にわんさかお猿さんがいて、人間が通る度に金網に寄ってきては餌をねだる。


「ほらリト、お猿さんだぞ」


 リトが、どうやってお猿さんをからかうのか、少々興味がある。


「おーい。リト、お猿さん」


 リトは、お猿さんには見向きもせず素通り。

 おい、スルーかよ!

 からかって遊ぶって、言ってたじゃないか(汗)


 しばらく進むと、人だかりができている一角があった。

 平日なのに、この一角だけ人だかり。

 今日の来場者、みんなここにいるんじゃないかと思えるほどの盛況である。


「なにかにょー」


「何だろな?」


 俺は、人だかりの最後尾で人間たちの会話に耳を澄ませた。

 ライオン?

 映画で使われた?

 有名?

 ほうほう。


 どうやら、映画で使われ有名になったライオンがいるらしい。


「リトー、ライオンだって。見ていく?」


 俺は、近くにいるであろうリトに訊ねた。

 返事がない。


 いないんだよ。もう。

 もう慣れてきたけどね。


 俺は、人ごみの足元をすり抜けて、最前列に移動した。

 降りの中に、百獣の王ライオンの♂がいる。

 百獣の王というだけあって、めちゃくちゃ強そう。

 檻の中にいるのに、こちらが観察されているかのような威圧感を感じる。


「ママー、猫ちゃん」


 俺のすぐ隣にいた小さな男の子が、檻を指さして言った。

 フフフ、確かにライオンはネコ科だ。良く知っているな。でも、猫ではない。

 俺は、人間の男の子の発言を微笑ましく思いながら檻を見る。


 え、猫がいる。


 俺が気付くのと同時に、周囲の人間たちが騒めきだした。


「おい、猫がいるぞ!」


 誰かが、叫んだ。


「ダメよー」


 悲鳴にも近い声が、緊迫感を高める。

 ええー。ウソー!!

 猫が、ライオンの檻の中に現れたのだ。


 ええ、キジトラの小さなメス猫ですよ。


「おいーー!リト何やってんだ!」


 俺は、必死で叫んだ。

 いくら何でも、ライオンはまずいって。

 檻の中のライオンが、リトに気付いて小さな生き物を睨みつけている。


「チローこっちにょー。ラーオンがいるにょー」


 リトが人ごみの中に俺を見つけて手を振っている。

 見ればわかるよ。


「リトー!こっちこーい!」


 俺は、リトに戻って来るように一生懸命何度も叫んだ。


「にょー?」


 リトは、不思議そうに首をかしげる。

 はやく、はやくそこから出て!


「リトー!」


 何で伝わらないんだろう。こんな時、非常事態の時、うまく言えない自分がもどかしい。


「はやく、出ろー。そこから、出るんだ!!」


「チロー、早く来るにょー」


 ああー伝わっていない。


 そうこうしているうちに、ライオンだ立ち上がり、ゆっくりとリトに近づいていく。


「チロー、こっちにょー」


 ご機嫌で手を振っているリトの傍らで、ライオンが太くて大きな腕を振り上げた。

 観客たちの悲鳴が、これから始まる残酷なショーの開幕を告げる。


 ライオンの腕が降り降ろされる瞬間、人間の大人たちはみんな目をそらした。

 小さな命が奪われるというその瞬間、子を持つ親なら誰しも目をそむけるだろう。

 辺りは、静まり返っていた。


「ママー。猫ちゃんがライオンと遊んでるー」


 幼い子供の声に、大人たちは恐る恐る檻の中に目を向ける。

 そこには、小さな猫と大きなライオンがじゃれ合う姿がった。


 いや、一方的にリトがライオンにじゃれているのである。


 ライオンのたてがみをくわえて、投げ飛ばしたり、首に噛みついてひっくり返したりしている。

 ライオンの巨体が、右に左にとコロコロ転がされているのである。小さなメスのキジトラ猫に・・・。

 異様な光景である。


 人間の大人たちは、目の前で起こっている光景に呆気に取られている。

 子供たちは大喜びだ。


「わー、にゃんちゃんすごーい。ライオンをひっくり返したー」


 しばらくすると、ライオンはリトに向けて腹を見せて横たわった。

 降参の合図である。

 可愛そうに・・・。


 目を見開いて、懇願している。

 もう辞めてって。


「まだにょー」


 そう言ってリトは、ライオンの首にかじりつく。

 俺は、あの百獣の王ライオンに同情している。

 もう辞めさせないと、人間たちも引いている。


 子供の目をふさいで、見せないようにしている大人もいる。

 俺は、ライオンの檻の中に入ると、リトのうなじをくわえて檻から引きずりだした。


「にゅー、何するにょー。まだ遊ぶにょー」


「もういいの。帰るぞ!」


 動物園の動物たちも、肌で危険を察知したのであろう。

 みんな、奥に隠れて姿を見せなくなってしまった。


「にゅー、何にもいなくなっちゃったにょー」


 残念がっているのは、リトだけではない。

 せっかく訪れた子供たちも、口々に動物がいなくなってしまったことを、残念がっている。


「お前のせいだよ!」


「にゅー、何でにょー」


「遊び方が、えげつないんだよ。加減しろって」


「にゅー、加減してるにょ」


 まぁ、そうだろうけどね。

 足りないんだよ。


 俺たちは、帰路につく。

 まるで弾丸のように、坂道を駆け上がるリトについて行くのは、めちゃくちゃ大変だった。

 まだ昼過ぎなのに神社に着く頃には、もう今日は終了でもいいよねってくらい疲弊していた。

 



 夕方近くになって、リトがエスズ家電に行きたいと我がままを言い出す。

 昼間の疲労が、まだ抜けていないし、俺はあそこに行ったって全然楽しくないのだけど、仕方がない。


 エスズ家電に着くと、リトは迷いなく正面から店内に入ってしまった。


「おい、何やってんだ! 怒られるぞ」


 俺は慌ててリトを止めようとするんだけど、聞くわけないのよ。


「こっちにょー」


 リトは上機嫌で、ある場所へ直行する。すばしっこいからついて行くのも大変だ。

 リトは、テレビがたくさん置いてある場所で足を止めた。


「にゅ、はじまるにょー」


 一番大きなテレビで、ガウガウガーが始まった。最初に流れる音楽で、リトは大盛り上がりだ。飛んだり跳ねたりして、ニャァーニャァー歌う。


 俺たちがテレビの正面を陣取っていると、加藤さんがやってきた。親切な人間のお姉さんだ。


「あらー、にゃんちゃんたち、また来てくれたのー」


 加藤さんは、嬉しそうに俺たちをなでまわす。


「にゅー邪魔にょー」


 リトが、若干疎ましそうな態度をとる。


「そう言うなよ、追い出されないだけましだろ。あの太った男が来たら追い出されるぞ」


 俺たちを散々撫でまわした後、加藤さんは何か思いついたようで、足早に去って行った。

 ガウガウガーの最初は、いつもつまらない。


 普段着のガウガウガーたちが、お出かけしたりお喋りしているだけだ。

 リトもつまらなそうにしているが、中盤から盛り上がるのを知っているので我慢してみている。

 そこに、加藤さんが戻ってきてテレビの前に座布団を敷いてくれた。


「事務の田中さんが、退職されて置いて行ったの。あなたたちに丁度良いとおもって捨てずに取っておいてよかった」


 リトは、礼も言わず。さも当たり前のようにその座布団の上に座る。

 ガウガウガーが、変身して闘い始めると、リトのテンションは急上昇する。

 座布団の上を飛んだり跳ねたりして、大盛り上がりだ。


 気が付くと、そんな俺たちの周りに人間たちが集まってきていた。


「みて、にゃんちゃんがテレビ見てる」


 小さな女の子が、しゃがみ込んでリトを指さした。

 大人たちも口々に、可愛いとはしゃいでいる。

 まったく無警戒なリトであったが、俺は人間に囲まれて不安になる。


 ガウガウガーが終わるころには、俺たちの周りには人垣ができていた。

 さすがにリトも気づいたようで、周囲の人間たちを不思議そうに見まわした。


「にゅーなにかにょ?」


「テレビを見る猫なんて珍しいのさ」


 俺は、リトの背を押して帰宅を促す。


「目立ちすぎるのは良くない。行こうリト」


「にゅー、カトーはどこかにょ?」


 リトは、人間たちの中に加藤さんの姿を探しているようであった。

 加藤さんは、背後にいた。


「にゅー、リトの背後をとるなんて只者じゃないにょ」


 しゃがみ込んで笑顔を向ける加藤さんに、リトが話しかける。


「カトー、これおくれにょー」


 リトは、テレビを指さして首に巻いている包から500円硬貨を取り出した。


「おつりはいらないにょ」


 そう言って、加藤さんの足元にくわえていた500円硬貨を置く。


「え・・・。500円」


 加藤さんは、500円硬貨を拾い上げると不思議そうにそれを見つめた。

 俺は、リトを急かしてエスズ家電を後にした。




 すっかり暗くなってしまった。

 神社の参道に着く頃には、疲労困憊。

 もう眠くて眠くて・・・。


 リトはご機嫌で、ガウガウガーの主題歌らしきものを歌っている。

 歌詞も音程もでたらめだから、らしきものとしか言えない。

 ふと、鳥居の下に何かあるのに気付いた。


「おいリト、何かあるぞ」


 俺は、閉鎖しようとしている瞼を何とかこじ開け、落ちている何かを注視する。

 そこには、傷ついて倒れているドーベルマンがいた。


「にゅー、お供え物にょ」


「供えねぇーよ!」


 俺は、ドーベルマンのもとに駆け寄った。

 小さなうめき声を発している。


 まだ生きている!


「おい、大丈夫か!?」


 こいつは、確かいつもライデンの傍にいるドーベルマンだ。


「何があった?」


 俺は、ドーベルマンの口元に耳を寄せた。

 こいつの名は確かムサシだったか・・・。


「お魚がいいにょ」


 リトが、ムサシを残念そうに見下ろす。


「お前は、黙ってろ」


「危険だ・・・」


 ムサシが、消えそうな声でぼそりと言った。


「なんだ、何が危険なんだ?」


「バケモノだ。ボスたちが、危険だ」


 ライデンたちに、何かあったらしい。


「場所は? どこだ?」


 ムサシは、参道の入口の先に目を向けた。


「足高山だ・・・。急いでくれ」


 ムサシは、それだけ言って気を失ってしまった。


「行こうリト、ライデンたちが危ない」


 俺は立ち上がると、リトに出立を促した。

 疲労困憊であったはずなのに、体の奥から非常用の体力が充填される。

 体中が熱い。


「にゅー、やっちゃるにょー」


 リトは、暴れられるのが嬉しいようでご機嫌だ。

 敵の正体はまだわからないけど、この街に危険が迫っているのは間違いない。

 無事でいてくれ、待っていろライデン! 


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