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内緒話

14 内緒話




 俺とリトは、夢心地で夜刀神社に戻ってきた。

 口の中が、美味しい。

 もう食べ終わったいるのに、まだ美味しい。


 俺たちは、お社の中に入るとすぐさま座布団の上に丸くなった。

 幸せのまま眠りにつく・・・。

 それこそが、まさに幸せだった。





 疲れていたから、眠りは深かったはずである。

 しかし、俺は深夜に目を覚ました。

 適度な周囲の雑音。


 雨が降っているわけでもない。

 でも、俺は目を覚ました。

 何か危険を感じたのであろうか?


 俺は、周囲に気を巡らせ異変の正体を探す。

 ふと隣を見ると、隣で寝ているはずのリトがいないことに気付いた。

 これが、違和感の正体だ。


 どこへ行ったのだろう?

 俺は、起き上がると格子状の扉から外を覗いた。

 石畳の参道の先に、何やら気配を感じる。


 リト!?


 いやリトもいるが、リトだけじゃない。

 リトとスーだ。


 スーは夜目が利かないのに、よくここに来れたな。

 何を話しているんだろう?

 俺は全神経を耳に集中して、2人の話しを聴き取ろうとした。


「・・・。ドリュウはおとりにょ。時間稼ぎにょ」


 リト?

 おとりって?


「あの者の半身がうろついているという事は、結界が破られるのは時間の問題です。先に手を打たないと、危険ですよ」


 スーの声だ。

 あの者って、誰だろう?


「別にいいにょ。壊れかけてるなら、壊れてからなおすにょ」


「壊れてからでは、遅いですよ。ここが襲われるかもしれません」


「平気にょ。リトがやっつけるにょ」


「リト様は平気でしょう。しかし、シロさんは何の能力もない普通の猫です。しかも、ヘタレ。危険です」


 スーの酷い物言いに腹が立って、扉を蹴り開けそうになった。


「チロはヘタレだけど、大丈夫にょ」


「何故です?」


「リトがぶん殴っても、ななかったにょ」


「それは、すごい」


 スーは、感心している様子である。

 すごいのか俺?


「・・・あの者は、世に出さないのが賢明です。タイガさんを失った損失は明らかに大きい。あの者を倒すとおっしゃるなら、それも良いかと思いますが、油断は禁物です」


「わかってるにょ・・・」


「我々は、タイガさんに頼りきっていました。いや、頼りすぎていた。強くて勇敢で素敵な雄猫のタイガさんに」


 スーは、何かに気づいたかのように、ふとこちらに目を向けた。

 聞き耳たてているのバレた?

 俺は、少しだけ身をかがめた。


「そう言えば、シロさんはタイガさんによく似ていらっしゃいます」


「にゅん」


「リト様・・・。わかってらっしゃるとは思いますが、シロさんはタイガさんに似てはいますが別の猫です。代わりにはなり得ません」


「わかってるにょ・・・」


「毛並みや体格はそっくりですが、明らかに毛柄と目が違う。何より、性格がまるで逆です。いつも先頭に立ち、リーダー的存在だったタイガさんとは、とてもとても比べようがありません」


 何だか、タイガとかうい猫と比べられているらしいが腹が立つ。

 その時、リトの横顔に光るものが見えた。

 夜空を見上げた拍子に、それは雫となって石畳に落ちる。


 何かが、俺の中で爆発する。


 感情が抑えきれない。


 俺は、お社の扉を蹴り開け、外に飛び出した。


「リトを泣かせるなー!」


 俺は、スーに飛びかかった。


 スーは、寸前の所で俺をかわし空に飛び上がる。


「シロさん! 聞いていたのですか?」


「俺のことをコケにするのは良い。でもリトを泣かせるな!」


 俺は、牙をむいて空中のスーに叫んだ。

 スーは、不思議そうな顔で俺を見下ろしている。


「どこから聞いていましたか?」


「俺を、タイガとかいう奴と比べて、コケにしていたろう!」


「ああ、そこですか」


 スーは、安堵の表情を浮かべて石畳の上に降りてきた。


「それは失礼いたしました。心より謝罪します」


 丁重な謝罪に、俺の怒りは急激に収縮した。


「それは良いんだよ。リトを・・・」


 リトは再び空を見上げ、大欠伸をした。


「もう寝るにょー」


 リトは、そう言ってお社に向かって去って行く。

 あれ・・・。

 俺の勘違いか・・・。


「もう遅いですからね。リト様は限界ですね」


「まったく、紛らわしい」


 俺は、照れくさくなって頭をかいた。

 欠伸だったとは、恥ずかしいな。

 俺も、リトの後を追ってお社に向かった。


 お社に入る直前で、俺は振り返ってスーに目を向けた。

 俺を見ていた。

 俺が見ていることに気づくと、慌てて目をそらす。


「シロさん、リト様、おやすみなさい」


 スーは、そう言って飛び去って行った。

 俺は、先に丸くなっていたリトの隣で丸くなると、スーの言っていたことを反芻した。

 いったい何の話だったのか・・・。


 気になることばかり話していたが、タイガとは、誰なんだろう。

 そのうちに、眠りに落ちていた。





 俺とリトは、十王台の住宅街を歩いていた。

 この日はとても暑くて、エスズ家電で涼もうという事になった。


「最近、わんこ見ないにょー」


 おもむろにリトが言う。

 確かに、最近ライデンや他のわんこたちを見ない。

 どこへ行ってしまったんだろう?


 エスズ家電に着くと、俺たちは真っ先にテレビコーナーに向かった。

 店内はとても涼しくて、最高だ。


「にゅー、なんか変わっているにょ」


 いつものテレビの前に辿り着くと、そこは以前とは全く違う光景になっていた。

 テレビの周りにロープが張られ、その中心には厚みが今までの倍はある新しい座布団が敷かれている。


 座布団の前には、エサ用とお水用の器が2つずつ置かれ、すでにエサのカリカリと水が入っている。


「あらー、リトちゃんシロちゃん。いらっしゃいー」


 そこに、加藤さんが猫なで声でやってきた。

 加藤さんは、真っ先にリトを抱き上げ頬ずりする。


「牛田くん、すぐ記者さんに連絡して! 今がチャンス」


 リトを抱き上げている加藤さんが、近くにいた男性従業員に小声で指示した。


 加藤さんは、リトを座布団の上に降ろすと、テレビをあれこれ操作して、銀色に光る円盤を、テレビの下の機械に入れた。


 すると、突然ガウガウガーが始まる。

 リトは大喜びだ。

 ガウガウガーの主題歌を、ニャァーニャー歌い出した。


「おおー、動画動画!」


 加藤さんが、平べったく小さな機械を俺たちに向けている。


「副店長、縦浜新聞の下矢田しもやださんに連絡しました。1時間ほどで来られるそうです」


 さっきの男性従業員が戻ってきて、加藤さんに報告した。


「1時間! もっと早く来られないのー。にゃんちゃんたち帰っちゃうじゃない」


「いやー、1時間でも急いでくれていると思うのですが」


「まぁ、良い。牛田くん、猫ちゃんの対応よろしくね。絶対に帰さないで」


 加藤さんの威圧的な指示に、牛田くんは渋々承諾した。

 リトは、ガウガウガーに夢中だ。


 戦闘が始まると、飛んだり跳ねたりして、俺は何か壊すんじゃないかと冷や冷やした。

 その脇で、牛田くんが猫じゃらしやボールでリトの気を引こうとしている。


 ガウガウガーを見ている目の前で、猫じゃらしを振られたりしてリトはだんだん苛立ってきていた。


「にゅー、じゃまにょー」


 とうとうリトが怒った。

 シャーって、牛田くんを威嚇すると、牛田くんが持っていた猫じゃらしを奪い取り遠くに投げ捨てた。

 牛田くんは、慌ててそれを拾いに行く。


 店長の男よりは細いけど、なんだか似た雰囲気を持っている。

 3回目のガウガウガーの主題歌が始まった。

 さすがにリトも飽きてきたようで、水を飲み始めた。


「そろそろ帰るかにょ」


「ご飯、もう少し食べない? 晩御飯まで時間まだあるし、途中でお腹すいちゃうかも」


 俺は、そうリトを促してカリカリを食べた。


「カリカリも飽きたにょー。ニャウニュールが食べたいにょー」


 リトはそう言って、テレビの前から離れようとする。


「あ、副店長! 猫ちゃんが帰りそうです」


 傍にいた牛田くんが、首元に着けている機械で加藤さんに報告する。

 手に何かを持った加藤さんが、慌ててやってきた。


「あとちょっとなのにー! 奥の手よ!」


 加藤さんは、カリカリの上に手にもっていたニャウニュールをかけた。


「にょーーー!」


 リトは、大喜びでニャウニュールとカリカリの入った器に飛びついた。


「ほら、シロちゃんもお食べ」


 加藤さんは、俺の分の器にもニャウニュールをかけてくれた。

 ヤッター!

 飛び上がるほどうれしい。


「・・・。あ、はい。」


 牛田くんが、首元の機械で誰かと話している。


「副店長! 縦島新聞の方、いらっしゃいました!」


「おっしゃー、間に合った」


 加藤さんは、入口に向け走り出した。

 すぐに、2人の人間を連れて加藤さんは戻ってきた。

 カメラを持った男と、綺麗な女の人だった。


「わー、可愛いー。本当にテレビ見ているんですねー」


 綺麗な女の人は、キャーキャー言いながら、加藤さんと何やら語り始めた。

 男の方は、カメラを構えてカシャカシャと俺たちの写真を撮り続けている。


「主題歌を一緒に歌うと言うのは本当なんですか?」


 綺麗な女の人が、加藤さんに訊ねた。


「ええ、でも今日はもう何本か観ちゃってるので、もうやってくれないかもしれません。でも、今朝1回目の主題歌は、スマホで動画に収めています」


 加藤さんは、そう言ってポケットから小さい機械、スマホってやつを取り出して、その女の人に見せた。


「うそぉー、可愛いー」


 動画を見て大喜びしている女の人を見て、自分も気になったのかカメラマンの男も撮影を止めてスマホを覗き込んだ。


 男は、終始不愛想だったが、その時だけニタリと笑った。


 俺たちが、ニャウニュールカリカリを食べ終わるころ、ガウガウガーも終わりの音楽が流れ始めた。

 最初の音楽は盛り上がるが、終わりの曲は盛り上がらない。


 リトはもう画面すら見ない。


「さて、帰るかにょ」


 リトは、加藤さんの前に進むとニャーと鳴いて謝意を示した。

 俺も、加藤さんにありがとうを言ってリトの後を追う。


「ああー、今日はもうお帰りみたい。ありがとうですって」


 加藤さんが、俺たちの背をひと撫でして見送ってくれた。


「加藤さん! 猫ちゃんの言葉がわかるんですか!?」


 綺麗な女の人が訊ねていた。


「ええ、まぁなんとなく・・・」


 加藤さんは、照れくさそうにしている。


「すごーい! だから猫ちゃんたちはこのお店に通うんですねー」


「ええ、そうかもしれませんね・・・。まだ200年経っていませんけど」


「え? 200年」


「ああ、いや・・・。これ、いつ頃記事になりますか?」


「そうですねー。一応、今月末を予定しておりましたけど、決まったら連絡いたします」


 俺とリトは、エスズ家電を後にした。



  

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