#2話「慧眼のなつき」
なつきは大きく息を吸い込むと、最高司令官の待つ部屋のドア
を開けた。
「お久しぶりですね。今日は大切な用事があってここへ来まし
た。」
「そうか…私もそんな予感はしていたよ。もっとも慧眼の2つ
名を持つ君ほど勘は鋭くないがね。」
司令官はなつきに背を向けたまま穏やかなロ調でそう言った。
この部屋には窓から差し込む日差し以外季節を
感じるものは何もなかった。しんとした空気の中でシ―――…
という環境音が耳に絡みつく。なつきはその沈黙
を破るため、ここ1週間温めていたセイバーのパートナー選び
に関する策略を打ち明けた。司令官は椅子を回転させてなつき
の方に向き直ると、
「そうか、これからは君の好きに行動するといい。」と言って
指で机の上にある鍵を示すと、「これを持って地下倉庫へ行く
といい。」
「君の眼が真実を捉えることだろう。」
◇
なつきは薄暗い倉庫の鍵を開けると、無機質な空間が広がって
いた。所狭しと並べられた書類の束が、巨大な倉庫を狭く感じ
させる。
「これが全部二次合格者のファイルなの…?」なつきは唖然と
して眼を泳がせた。それから少し息を吸って気持ちをなだめる
と、司令官である伯父の言葉を思い浮かべた。
〈SAVERにとってパートナーとなる者は重要な意味を持つ。〉
〈自分に最適な相手はこの世界にただ一人だけ存在する。それ
を見抜くことが出来れば大きな力になるだろう。〉
いつもは迷いなく行動するなつきも、今回ばかりは頭を悩ませ
た。なんせ今の自分の選択が国家の命運を分けることになるの
だ。
―――10才の頃、悪の組織の陰謀によって起きた巨大地震によ
って全てを失ったなつきは、その伯父である” 丑寅マモル” の
手によってセイバー協会の本部に招かれ”慧眼のなつき”の2
つ名を与えられた。以来総司令官である伯父の忠告だけを頼り
にここまで進んできたのだが”慧眼”という人並みはずれた
力を持つ彼女は自分がになう重責さえも見抜いてしまうが故に
他の誰よりも孤独な道を歩まなければならなかった。涙こそ見
せぬものの、自らの宿命から眼をそむけたくなったことは幾度
となくあった。
―――どんなに超人的な能力を持っていても心はまだ18才の少
女なのだ。
彼女は未来に対する不安と焦りにかられながらももうすぐ出会
えるであろう”真のパートナー”に対する期待に胸をふくらま
せていた。10才にして泣きごとひとつ許されない苦難の道を引
き渡されたなつきにとって今回出会うであろうパートナーは地
獄のような8年間の日々をいやしてくれるに違いないからだ。
なつきは膨大な量のファイルを眺めながら、走馬灯のように次
から次へと沸いてくる記憶を処理していた。
それはとてつもなく永い時間のようにも感じられたし、反対に
一瞬の出来事のようにも感じられた。そしてとうとう”その瞬
間”が訪れた。なつきが手に取ったファイルに映るその” 少年
”は何かを言いたげな表情でじっとこちらを見据えていた。