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シーン7 鳥の巣に住む男

 シーン7 鳥の巣に住む男


 コクピットのモニターも、約半数がブラックアウトしたままの状態だった。

 こんな状態で、よく無事に航行が出来ている。

 今更ながら自分の・・・いや、デュラハンの悪運の強さに感心した。


「今から向かうのは、外宇宙に位置する違法居留地だ。いわゆる、はみ出し者の掃きだめって奴さ」

 シャーリィは手動でしか操作出来なくなった船の舵を握った。

 出力は全く安定していない。

 アタシはエンジンの圧力バランスを確認しながら、適正な推進力が供給できるように調整を続けた。


「危ない所なんですか」

「ああ。法や秩序じゃない。実力と金。そして、紙切れ同然のプライドで成り立ってるようなところだよ」

「キャプテンの知り合いの所って、話でしたよね」

 彼女は頷いた。


「キャプテンの昔馴染みに、バードっていう傭兵崩れがいてね、そいつが今、その居留地を仕切ってる顔役の一人になってるんだ。」


 バードか。

 知らない名前だな。


「バード・ワイザール。まあ、色々あって、同盟圏内にもドゥやルゥにも移住できなくなっちまった奴さ。で、今はその場所で、犯罪者相手の商売をしてる」

「商売か。物資や、補修とか、ですか」

「それもあるケドね」


 シャーリィは意味深な顔をして、後部のサブシートに座ったバロンに目を向けた。

 バロンは、あっしからはちょっと、という顔をした。


「簡単に言えば、女と酒と金さ。意味は解るかい?」


 アタシは理解した。

 言い換えれば。

 娼館と酒場と賭博場か。

 なるほど、分かりやすい。


「堂々としてればいいよ。あーゆー所じゃ、舐められるのが一番駄目だからね」

「こんな格好で、堂々とするのもどうかと思いますけど」


 それからの旅は、思ったよりも時間がかかった。

 普通なら、テアの標準時間の測定法で24時間という距離だったが、丸3日はかかった。

 船のスピードと、亜空間移動の便利さを、改めて思い知らされた数日間だった。


 ようやく宇宙空間に見えてきた違法居留地とやらは、遠目にはまるでたくさんの針金を寄せ集めで作った球体に見えた。

 近づくと、とんでもない巨大さで、中央にはくぼみがあり、そこには数千隻の宇宙船が停泊できるほどの宇宙港の様相を呈していた。


「面白いつくりね。これって、違法改築を繰り返した結果かな」

 アタシは目の前の光景に、人の営みのしぶとさを見たような気がして、思わず感心した声をあげた。


「ご名答でやんす。変な外見でやんしょ。あっし達は、鳥の巣って呼んでるんでやんす」

「犯罪者のたまり場っていうから、もっと暗い感じをイメージしてた。これだと、まるで都市衛星みたいじゃない」

「実際、都市としての生活圏が出来てるでやんす。犯罪者のたまり場って表現は、間違っちゃいないでやんすけど、正しくは、行き場を失った人たちのたまり場でやんすよ」

 バロンとそんな話をしていると。


「今回は都市部にはいかないよ。166番ポートに着艦するよう指示が来た。近いし、そのままバードの店に向かう」

 シャーリィが言った。


「バードの店って娼館でしたよね・・・?」

「ああ。普通ならあたし達には縁のない所さ。・・・そういや、考えてみたら、あんたをそいつの所へ売るって手もあったね。人質なんかより、いい金が手に入るかな」

「冗談でもやめてください」


 アタシは背筋が寒くなった。

 まさか、こんな所で体を売るために、ここまで生き抜いてきたわけじゃない。

 むしろ、そういう人を人とも思わない連中なんて、むしろアタシが一番嫌ってきた奴らじゃないか。


「でやんす。幾ら姐さんでも、言って良い事と悪いことがあるでやんすよ」


 あらバロン。

 目がマジだわ。

 シャーリィはゴメンゴメンと言いながら、船をポートに着けた。


 手続きを済ませて、船を降り、改めて外側からみてぞっとした。

 なんて状態だ。

 本当にこの船で航海してきたのかと思うと、ちょっと信じられないくらいの外傷だ。

 正直、修理をするくらいなら、同型の船を買った方が安いのではないかと思うくらいで、自慢の重子砲は、もはやぐしゃぐしゃに変形した金属の塊になっていた。


 これでは。

 アタシを裏切り者と言って、怒鳴りたくなったシャーリィの気持ちも頷ける。


「修理は、とりあえず待ってくれ。概算で見積りを出してほしい」

 シャーリィが施設の管理者に話している声が聞こえた。

 バロンが身支度を整えて降りてきた。

 カース人らしさを少しでも隠す、つば広ハットにサングラス。それに体全体を包むマント姿だ。

 ちょっと、遠くから見ると不審者だけど。

 今のアタシは人の事をとやかく言えない。


「そう言えばラライさん。身を守る武器はあるでやんすか?」

「麻痺銃のヘルシオンβなら、あるけど」

「ここじゃ、威力不足かもしれないでやんすね」

 彼はマントの中をごそごそと探って、銃を2丁取り出した。

 どちらも実弾式の古いものだ。

 これは、地球製、数百年前の物だな。


「s&wのM500と、もう一つはP229ね」

「さすがラライさん、一目でわかるでやんすか?」

「そりゃね」


 こーみえても武器マニアですから。

 特に銃火器ね。

 一応どの星の武器だって、一般的に流通したモデルなら大抵見分けはつくぞ。


「どっちか持っておくと良いでやんす」

「すごい二択ね」


 アタシはM500、といきたかったが、これからクマや化物と戦う訳ではないだろう。

 P229でも、十分以上だし。

 そもそもアタシは、人を殺傷するような状況は二度とごめんだ。


「どうしても必要?」

「ラライさんが思う以上に危険でやんすよ」

「いざという時には守ってよ」

「もちろんでやんすけど・・・」


 多分、よっぽど心配してくれてるんだろう。

 じゃあ、仕方ない。


「じゃ、持つだけね」

 アタシは言いながら、P229を手にした。


 いや。

 持つだけならM500でも良かったんだが。デカすぎる。

 銃身だけで、アタシの肘ぐらいまでありそうだった。

 ってーか。

 バロン、なんでアンタこんな凶悪な銃を持ち歩くのよ。


「行くぞ」

 突然、声を開けられ、アタシは驚いた。

 なんて珍しい。

 キャプテンが一緒に来るなんて。


 アタシ達は宇宙港を出て、バードとかいう人のいる店を目指した。

 宇宙港の外は、一応は街のような雰囲気になっていて、夜の歓楽街の雰囲気は漂っていたが、雑然としているというより、高級なリゾートタウンの、高級なホテル街を思わせた。


 広場には、人工の植物と噴水が見えた。


 これだけ大地を離れた生活をしていても、なぜ人は緑と水を求めるのだろうか。

 生命の息吹というものを、どこかしらで、常に感じていたいのかもしれない。


 キャプテンは『ラッキーガール』という名前の店に入った。

 両開きのドアの内側はロビー上になっていて、受付で利用するフロアを伝える。

 二階から四階までが、いわゆるカジノになっていた。

 その上からはホテルになっているが、いかがわしいサービスが付随していると見えて、五階には専用の受付がもう一つあるようだった。

 酒場とレストランは、地下か。


 てっきり地下に行くのかと思ったら、キャプテンは受付に進んだ。

 受付に居たのは、白髪交じりの髪をオールバックにまとめたテアードだった。

「バードに伝えろ。ラガーがベルニアの事件の礼を受け取りに来たと」


 ラガーは、はっきりとした声で言った。

 なんて珍しい。

 あのキャプテンが堂々と話してる。


 まさか。

 偽物じゃないよね。


 アタシが訝し気に見ているのを、シャーリィが気付いて、クスっと笑った。

 受付の男は、通信機で何かしら話をしたあと、改めてキャプテンに顔を向けた。

「バード様が、お会いになるそうです」


 キャプテンはアタシ達を振り返り、仕草で「ついてこい」と指示した。


 バードは、最上階で待っていた。

 ガラス張りのフロアで、「街」の様子が一望できた。

 家具もなく、一見殺風景とすら思える空間の真ん中に、ポツンとソファが並んで、男が中央に掛けていた。

 窓の外は夜になっていて、綺麗な夜景、と感動しかけたが、近づいたら全てが巨大モニターで、景色は全てつくりものだった。


「久しぶり、元気だったか、と言いたいところだが」

 ソファに掛けた男が、渇いた声をあげた。

「こういう社交辞令は嫌いだったよな。ラガー、まだ生きてたのか」


 キャプテンは男の前に、おもむろに腰を下ろした。

 シャーリィがいそいそと隣に座って、アタシとバロンは彼の後ろに並び立った。

 この男がバードか。


 名前から鳥のような、身軽で細い感じを想像していたが、まるで違った。

 体格が良くて・・・太いのではなく、筋骨隆々って感じで、顔も四角い。

 動物に例えるなら、少なくとも鳥ではない、牛や熊とかの方が、まだイメージに合っている。


「船が到着するところを見たぜ。随分とひでえ有様だな、誰にやられた」

 バードが指を鳴らした。

 どこからともなく一台の空飛ぶお盆が飛んできて、アタシ達の前にドリンクを運んできた。なんだか喉が渇くなー、と思っていた所だったので、喜んで唇をつけたら、残念ながら大人向けの飲み物だった。

 ライムはいい香りなのに。

 アタシは、アルコールは苦手なのだ。


「〈白骨〉の連中だ」

 キャプテンが答えた。

 こうしてあらためて聞くと、彼って渋くて、いい声だ。


 バロンが空飛ぶお盆に対して何かを言った。

 お盆はひゅーっと飛んで行って、しばらくすると違う飲み物を持ってきた。


 アタシ向けの、サイダーだ。

 彼はサングラスの奥でウインクした。


「そいつは面倒な相手とやりあったな。それにしても、アンタらしくない」

 バードの声がした。


「予定外が起きた。それに。俺はその時、・・・寝てた」

 キャプテンが無感情に答えた。


「寝てた?」

「ああ。宇宙じゃ、俺は役に立たん。こいつらに任せていた」

「仮にも海賊の頭の言葉とは思えんな・・・だが」

 バードは楽しげな顔になった。


「前言撤回だ、アンタらしい」


 バードは膝を叩いた。

 彼は、改めてアタシ達を見た。

 シャーリィの事は、どうやら知っているらしい。

 バロンとアタシをしげしげと見て。


「随分と個性的な仲間を集めたもんだな」

「集めたつもりはない。勝手に乗ってきた」


 う。

 それって、アタシの事よね。

 バードはふうん、と顎をしゃくった。


「それにしちゃあ、いい顔をしてる。良さそうな奴らじゃないか・・・。なあラガー、前から思ってたんだが、・・・やっぱりお前にはリーダーの資質ってやつが」

「余計な話はいい」

 キャプテンが一瞥すると、バードは声を詰まらせた。


 シャーリィが静かにライムを絞った。


「船の修理は出来るな。それに、幾つか情報が欲しい」

「どっちも金はとるぞ。昔馴染みだし、多少安くはするが、慈善行為は好きじゃない」

「シャーリィが見積もりを頼んできた。お前の眼でどのくらいと見る?」

「エンジンと基本装備で6億。外装で2億、主砲を除く武装の入れ替えで1億。まあ、諸費用込々で10億で終われば良い方か」

「非武装船なら、新しいのが買える金額だな」

「予算は間に合うのかい」

「そんなもの、元から無い」


 バードは、そんな事だと思った、というようにわざとらしく両手を広げてため息をついた。


 それにしても・・・。

 アタシはどうしようもない違和感に襲われていた。


 キャプテンって。

 こんなに喋る人だっけ。

 ってーか。

 この数分で、出会ってから今まで話した分の、三倍くらい彼の声を聞いたような気がするんだけど。


 アタシの疑問に、バロンが気付いた。

 彼はそういえば、って顔をした。

「気心の知れた相手には、キャプテンもちゃんと喋れるんでやんすよ」

「え、本当?」

「本当でやんすよ。ラライさんみたいな綺麗な女の人が一番駄目でやんすね。近くにいるだけで、全然喋らなくなるでやんすからね~」

「やだー、バロンご主人様ったらー、綺麗だなんて」

 アタシは彼の肩?をパンと叩いた。


「うるさいよ、外野」

 シャーリィに怒られてしまった。


 あ・・。

 でも。

 アタシがここに居るのに、こうして堂々と話をしてるってコトは、キャプテンも少しだけアタシに慣れてくれたって、事だろうか。


「船の修理の件は、少し方法を検討してみる。で、情報ってのはどんなのが欲しいんだ?」

 バードが話題を戻した。


 キャプテンはグラスを開けた。


「〈白骨〉の居場所だ。それに、今回の仕事の情報元についてだ。お前なら調べられるな」

「まてよ。そもそもアンタ達がどういう事件に関わってるか、俺はまだそれを知らんぜ」


 確かに。

 そこはアタシも気になっていたところだ。


「それに関しては、あたしから説明するよ」

 シャーリィが割って入った。

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