シーン41 ついに誕生、勇者ラライ!
シーン41 ついに誕生、勇者ラライ!
「力を貸すと言っても、具体的に何をすればいい? さっきみたいな怪物退治か」
エイダは、微かに声のトーンを落とした。
「それも、無論ある。だが、悪魔の巣がある限り、いくら怪物を追い払っても、永遠にこの状況は変わらないだろう」
「ふん。まあ、その通りだろう」
エイダは、アタシを見た。
幾ら鈍いアタシでも、自分が何を期待されたのかくらいは、わかる。
まあ。おそらくはそれしかないんだろう。
悪魔の巣に行って、この異常事態の原因を探ること。
そして、あわよくば、その解決をする事・・・か。
「私は貴女が巨大な戦士になってドラゴンを倒したのを見た。あの姿は、ヤソワの伝説に残る巨大神シュトライを見るようだった。あの巨大神ならば、あの悪魔の巣を葬ることが出来るのではないか。そう、私は思うのだ」
マドックが期待を込めた目でアタシを見た。
巨大神ねー。
巨大な神様って奴は、どこの星にも残る伝説だ。なるほど、まあ、シュミットやチェリオットを見たら、そう思っても仕方ない。
いずれにせよ。
今のアタシ達には、あまり多くの選択肢は無い。
「行ってみるしかないんでしょうかね」
「だろうな。利害は今のところ一致しているようだし、断る理由もない」
ブリアンは、微かに安堵したような顔になった。
「だが、準備は要る。とりあえずは、そうだな、この世界で生きるために必要な服と装備、それに、路銀も必要だろう。ブリアンといったね、貨幣はあるのか?」
「ヤソワの地とは、同じ貨幣を用いている。用意できるだけの事はしよう」
「それと、道案内は必要だ。多くは必要ない、一人か二人でもいい」
「それは・・・」
少しだけ、答えが窮した。
なんだよ、人に頼んでおいて、全部丸投げしようってのか。
さすがに今日みたいな森を自分たちだけで歩かせられたら、何日かかっても、そのヤソワの地とやらに、辿り着くかどうかも分からない。
「男の手が、少なくなっているのだ。二度の派遣で、腕の立つ男達は、みな帰らぬ人となった」
「だとしても、一人くらいは居るだろう」
ブリアンは、少しの間思案した。
と。
それまで一言も言葉を挟まなかったコンラッドが、耐えかねたように口を開いた。
「俺では、つとまりませぬか?」
彼は、そうとだけ言った。
「コンラッド、お前はまだ若い。ヤソワの地への道は」
「幼き頃、父と共に一度行っております。道ならば、記憶しております」
はっきりとした口調には、迷いの色は一切なかった。
ブリアンは渋面を作ったが。
「なら、決まりだな。あたしもその男なら良い。信頼が出来る顔をしている」
エイダが言い切った。
へえ。
エイダも顔で人を見るんだ。
ちょっと意外な気がした。
「よろしく、頼む」
コンラッドは、ブリアンの了承も降りないまま、アタシ達に頭を下げた。
朴訥としているが、その姿は頼もしくて、エイダが簡単に認めたのも、わかる気がした。
それからも、粛々と宴は過ぎた。
ブリアンもマドックも難しい話ばかりで、歓迎ムードなど、いっこうに高まる気配も無く、アタシは少々食べ過ぎて倒れた。
そうこうしているうちに、村の女が衣服を持って来てくれて、ようやくアタシは暑苦しいスペーススーツを脱ぐことが出来た。
身に着けながら、その素材の重さに驚いた。
これは、ゲームのアイテムで言うなら〈村人の服〉っていうものだろうな。
ガサガサの布を頭からかぶって、腰回りを帯で結ぶ。
食べ過ぎたお腹が締め付けられて、あやうく吐きそうになった。
それでも、スペーススーツよりもなんだか体にしっくりときた。
今日は、色々あって疲れた。
さすがに、ゆっくりと休みたい。
「エイダさん、おやすみです」
「ああ・・」
アタシは横になった。
目を瞑ると、今日一日の出来事が頭をぐるぐると回った。
シャーリィやソニーとテアに居たのが、まるで何年も前のように感じる。
あれから、たった二日くらいしか経っていない筈なのに。
彼らの事を考えたら、やるせない気持ちになってきて、また、言いようのない寂しさがこみあげてきた。
駄目だ。
考えるのは明日にしよう。
今日は、もう、ゆっくりと休もう。
そう思って、すすけた臭いのする毛布をかぶった。
が。
アタシの長い一日は、まだ終わりを告げてはくれなかった。
微睡みかけた時だった。
角笛の音と、激しく鐘を打ち鳴らす音に、アタシは飛び起きた。
エイダが、既に立ち上がって建物の入り口から外を見ていた。
「どうしたんですか!?」
「自警団の連中が、血相を変えて門の方に走っていった。この感じは何かの襲撃かもしれない」
「襲撃って?」
「例の怪物かもな、ライ、行くぞ」
え、アタシも?
ってーか、怖いんですけど。
部屋で震えて丸くなってるっていう選択肢は無しですか?
アタシのビビりな発想をひと睨みして、エイダは外に飛び出した。
仕方なく、アタシは追いかけた。
門の方角から、子供の手を引いた女や老人が悲鳴を上げながら逃げてきた。
櫓の上から弓をつがえているのはコンラッドだ。
突然、耳をつんざくような獣の咆哮が聞こえて、アタシは固まった。
聞いた事の無い叫び声だ。
これは、あの門の外に、とんでもない奴がいるんじゃないか?
ねえ、アタシ達って生身だよ。
ここは、逃げた方が良くない。
アタシはエイダの袖を引こうとした。
ところが。
「来るぞ、構えろライ!」
彼女は鬼のような命令をアタシに向けて発した。
「来るって? どこから・・・」
アタシは見てしまった。
一匹の怪物が、狂ったような咆哮をあげながら、悠々と柵を飛び越えてくるのを。
それは、ドラゴンほどではないにせよ、身の丈は人の二倍以上はあって、しかも、ものすごくグロテスクな外観をしていた。
第一印象で言えば、キメラだ。
4本足で、正面の顔は、ライオンのそれに近い。
だけど、背中にはコウモリのような羽根があり、ライオンの頭のさらに上のあたりには、まったく別の生き物の上半身がついている。
その姿は、まるで人間のようにも見えた。
雄たけびをあげて、マドックが剣を振りかざして突進するのが見えた。
大上段に振りかぶった剣を、化物の頭部に叩き込む。
と、見えたが、獣は後ろ脚に立ってその一撃を回避し、そこから渾身の一撃をマドックに見舞った。
マドックの金属鎧が簡単にひしゃげて、彼は苦悶の声をあげながらその場に昏倒した。
獣は、敵を見逃さなかった。
倒れたマドックに向かって、凶悪な牙をむき出しにする。
防いだのは、エイダだった。
エイダの手には、レイガンが握りしめられていた。
そこからの一撃が、怪物の肩に僅かな傷をつけた。
「ち、本当に化物だな。人間なら即死レベルだぞ」
エイダが呟いた。
あれ、でもそれって、エネルギーが無いって、言ってなかった。
エイダったら。
なんだ、アタシの事、やっぱり「撃たなかった」だけじゃない。
危機的状況が何ら変わってもいないのに、アタシはその事に気付いて、嬉しくなった。
だとしたら。
アタシだって、何か、やれることしなくちゃ。
アタシは、とりあえずシュミットの短剣を抜いた。
剣で戦うなんて、正直生まれて初めてだけど。
なんとか・・・・ならない、かな。
怪物は、アタシ達をちゃんと敵だと認識した。
そして、前触れもなく飛びかかってきた。
「ばか、ライ、避けろ」
「え、ええーッ!」
怪物が狙ったのは、なんとアタシだった。
猛り狂った牙が、周囲に涎を巻き散らかしながら、アタシに迫ってきた。
「いやあああ、ちょっと、待ってよ、あ、アルラウネっ!」
アタシは剣を振るった。
黒い次元の裂け目が生まれ、怪物は僅かに身じろいだ。
その隙を狙って、エイダが銃撃を三発、怪物の喉元にヒットさせた。
「アルラウネ、シュミット、お願い、出てきてっ」
アタシは祈るように次元の裂け目が広がるのを持った。
光が、隙間から洩れはじめ、アタシの体を覆った。
これは、来た。
あたしの呼びかけに、ちゃんと応じてくれた!!
シュミットは、みるみるうちに具現化・・・・し。
しないぞ。
何でだ!?
アタシは目を疑った。
光に包まれたアタシの周りで、シュミットは確かに形を作っていった。
が、それは巨大なプレーンとは程遠い。
あたしの胸元をかすかに覆うブレストアーマーと、超小さめの花形の肩アーマー、それに、盾の三点セット。
って、なんじゃこりゃー。
新手のコスプレじゃないか。
「ライ、ぼーっとするな、怪物がまた仕掛けてくるぞ」
「えっ、でも!」
「それだって、シュミットだ、戦え」
「こ、これがシュミットって?」
「日中、エネルギーを使い過ぎたから、おそらく今はそれが限界だ。来るぞ!」
問答している暇はなかった。
怪物は再びアタシに向かってきた。
再び突進してくる怪物の気を逸らしたのは、今度はコンラッドだった。
彼の放った矢が、ライオンの上にある人間のような部分を貫いた。
痛みは共有しているらしく、怪物は苦し気な叫び声をあげて、コンラッドのいる櫓の方を振り向いた。
今だ!
アタシの精神に感応して、シュミットが先に動いた。
肩の花形アーマーから二本のムチが伸びて、怪物の四肢から自由を奪った。
予想以上のパワーに、怪物は荒れ狂ったが、それでもシュミットのムチは一層相手を締め上げた。
なかなか良い武器じゃないか、これは、後で名前でもつけてあげようか。
「とどめを刺せ、ライ!」
「言われ無くたって!!」
アタシは夢中でシュミットの短剣を突き出した。
短剣の刃が激しく光った。
一閃は、あり得ないほどの結果をもたらした。
怪物は、文字通り一瞬で真っ二つになった。
最後の咆哮を、力なく残して、怪物の肉体がその場に崩れた。
二本のムチが戦いの終わりを感じ取った。
自然に肩アーマーへと収納され、それから、またいつものようにぼおっと光って、時空の狭間へと消えていく。
アタシを我に返らせたのは、うおおおお、という、男たちの叫びだった。
呆気に取られて戦いを見守っていた自警団の兵士たちや、駆けつけてきたブリアン、そして櫓の上からはコンラッドが、歓喜の雄たけびをあげ、アタシを讃えていた。
「やったじゃないか。それでこそあたしの弟子だ」
エイダがポンと、アタシの肩を叩いた。
すごい。
久しぶりに、彼女に認められた。
アタシは彼女に答えようとしたが、その前に駆け寄ってきた自警団の人達にもみくちゃにされ、それどころじゃなくなった。
それにしても。
まさかアタシが。
この白兵戦最弱と言われたアタシが、こんな、勇者みたいな戦い方が出来るなんて。
周りがあんまり興奮するので、何だかアタシまで興奮した気分になってきた。
歓喜の声は、しばらくの間続いた。
不意に、誰かの声がそこに水を差した。
「おい。これって、行方不明になった、使節隊のロッドじゃないか・・・」
ざわめきが広がった。
男達は、二つになってこと切れた怪物を見下ろして、ライオンの首の上に結合した人間の姿に視線を落としていた。
「確かに、こいつはロッドだ。ロッドがなんで、怪物なんかに!!??」
男の声と、それから、誰のものとも分からない悲鳴。
怪物を倒し、歓喜ムードに包まれていた村人の間に、これまで以上の恐怖と絶望にも似た衝撃が、一気に充満していった。




