表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/74

シーン3 アタシが悪いわけじゃない

 シーン3 アタシが悪いわけじゃない


 なんで。

 デュラハンが・・・。


 アタシは言葉を失って、半ばパニックに陥った。


 宇宙海賊デュラハン。

 それは、アタシにとって、欠かせない友人であり、仲間だった。

 行き場を失ったアタシを居候させてくれて、就職に失敗するたびに励ましてくれて。

 命を助けてもらった事も、一度や二度じゃない。


 確かに彼らは海賊だけど。

 どっちかっていえば義賊みたいな正義感があって。

 こんな、罪もない一般船を襲うような仕事をしているなんて、とても信じられなかった。


 『聞こえたら、貨物室のハッチを開けろー。無駄な抵抗はするな―。そこのプレーンも、大人しくしてれば命だけは助けてやるぞー』


 再びシャーリィの声がした。


 通信機が鳴った。

 『02、どうした。戦闘を継続できるか。02、応答しろ!』


 オペレーションリーダーが青ざめているのが、声だけでわかる。

 アタシはその通信を・・・、切った。


 モニターに、紛れもないデュラハンの船が浮かび上がってきた。

 そして、その船に搭載された重子砲は、まさしく調査船を射程に入れている。

 それは。

 駄目だ。


 アタシは機体を再び動かした。

 衝撃のショックで、推進力が目に見えて落ちていた。

 それでも、なんとかデュラハンの船の前まで辿り着くと、かつて知ったるデュラハンの内部通信に、機体の通信モードを合わせた。


「シャーリィさん。止めてください!、どうしてこんな事するんですか!?」

 アタシの声に、シャーリィは明らかに動揺したようだった。


 『なんだ今の声。え、ラライか・・・何処にいるんだ?』

「ここです。目の前です」

 『目の前って・・・。まさか、アンタ?』


 そのまさか。


 ってーかさ。

 アタシにしたって、まさかな事態なんですけど。


 『なんでアンタがそこに居るんだよ!?』

 彼女の声が微かに荒くなった。


「なんでって言われても、仕事ですから」

 『仕事~? 何の?』

「警備会社です! ASOってところ。採用されたんです」

 『はあ、聞いてないよ』

「言いましたよ。ASO、あっそ、って、シャーリイさん言ってたじゃないですか」

 『・・・』


 シャーリィは黙った。

 これは、微かに思い出したな。


 『いや。それにしたって、本当に警備会社に入るなんて、そりゃないんじゃない? もしかして、あたし達を裏切るつもりか!?』

「裏切りって、そんなつもりじゃないけど・・・」


 アタシはごにょごにょと口ごもった。

 内心。

 ちょっとは、なんかどうなのかなって、思ってたりもしたのは事実だ。


 『あー、そうかい。あんた、これまでの恩を仇で返す気ってわけだね、そっちがその気なら、こっちにも考えがあるよ。バロン、やっちまいな!』

 『姐さん。それはちょっと、でやんす~』


 バロンのヘビーモスがアタシの機体の背後に接近していた。

 彼はアタシに遠慮するように、隣に並んだ。


 『何が、それはちょっと、だい。時間が無いんだよ。その辺、分かってんだろ』

 『それはそうでやんすが~』


 バロンは〈ちょっと〉ためらった後。

 アタシの機体を背後から、ぎゅっと抑え込んだ。


 相手は重量級プレーン。

 こうなると、このシビア―ルでは手も足も出ない。


「バロンさん。どうして、この船は大学の調査船よ。襲うような相手じゃないわ」

 『これにはワケがあるでやんす~。ラライさんのお仕事の邪魔をするのは心苦しいでやんすが、ここは少しだけ、我慢しておくんなせえでやんす』

「ああ~っ、もう」


 アタシは足をバタバタさせたが。

 無駄だった。

 バロンはアタシの機体をそのままデュラハンの格納庫へと運んで、中に降ろした。


 『ここで、じっとしてるでやんす。仕事が終わったら戻るでやんすよ』

 まるで子供に言い聞かせるみたいに、バロンは言った。


 何だよ。

 こんな再会の仕方。

 これまでで最低じゃない。

 もう、最悪だわ。


「まってよバロンさん。そんな事言われたって!」

 アタシはもう一度彼を止めようとした。

 そこで、急にバランスを崩して、アタシの機体は倒れた。

 アタシは自分が操作をミスしたのかと思った。


 だが、違った。


『くっそー、来やがった。時間がかかり過ぎたーっ』


 これは。

 何が起きた?。


 バロンのヘビーモスが、再び出撃した。

 アタシはほんの少しの間迷った挙句、プレーンを降りた。

 よく見知った船内を駆け抜け、コクピットに入り込む。


 そこにはシャーリィが一人で座っていた。

 モニターに、さっきまでアタシが乗っていた調査船が映って。

 その向こうに、巨大な船がもう一隻出現していた。


「ラライ、来たのかい」

「はい。あれって何です?」

「敵に決まってんだろう」

「敵?」


 アタシは言いながらサブシートに座った。


「なに勝手に座ってんのさ、この裏切り者」

「そういうの、後にしませんか」

「ったく、アンタのせいでこっちの計画が台無しだよ。この償いはきっちりとしてもらうからね。覚悟しときな」


 シャーリィは苦虫をかみつぶしたような顔になった。


 新たに現れた船は、明らかに普通ではなかった。

 巡洋艦クラス。


「やばいね」

 と、シャーリィが漏らした。


 巡洋艦からも、プレーンが発信した。

 その数、ゆうに10機はいる。

「バロンさん、気を付けて!」

 『わかってるでやんすよ』


 バロンが迎撃に向かおうとする。

 それを、シャーリィは制した。


 『バロン、離脱だ、一斉射撃が来る!』


 そんな!

 って、思う間もなく。

 本当に一斉射撃が行われた。


 巡洋艦から放たれたエネルギー弾の雨は、目の前の調査船すらも容赦なく撃ちぬいた。

 そして、このデュラハンの海賊船もまた、被弾した。


「やばっ、今ので重子砲がやられた、こりゃ、無理だ!」

 シャーリィが唇を噛んだ。


 バロンは無事だった。

 エネルギー弾の雨をギリギリで回避して、再び迎撃に向かおうとする。


 それを見て、シャーリィが叫んだ。

「一旦退却する。バロン、戻れるか!?」


 バロンの機体は微かにためらいを見せたが、姐さんの指示は絶対だった。


 彼が船の格納庫に辿り着くまで、二度目の一斉射撃が行われた。

 アタシは恐怖に目を瞑った。


 何度も振動が襲って、船内の照明がブラックアウトした。

 非常モードで何とか再起動させると、シャーリィは必死に舵をきった。


「流圧エンジンは、何とか片方生きてます。けど、これじゃあ亜空間航行はできない」

 アタシは次々に止まっていく計器類に焦った。


「射程外に出るまでの辛抱だ。少し、揺れるぞ」

 彼女の声を、信じるしかなかった。


 それからの数十分、アタシは生きた心地がしなかった。


 サブシートにしがみつきながら、襲い来る恐怖に耐え、気付いた時には、周囲は嘘のように静まり返っていた。


 シートベルトを外して。

「なんとか、逃げ切ったみたいだねえ」

 シャーリィは呟いて、アタシをじろりと睨んだ。


「今の、いったい何者だったんですか?」

「ご同輩さ」

「じゃ、宇宙海賊?」

「ああ、それも有名どころだ」


 彼女は銀色の髪をかきあげて、鋭い美貌をアタシに向けた。


「宇宙海賊、白骨のパルカ。名前ぐらいは聞いた事あんだろ」

 宇宙海賊パルカか。

 確かに、その名前になら覚えがある。

 エレスの宇宙圏内では有名な賞金首で、やり口の残忍さから、同じ宇宙犯罪者の中でも恐れられている。


「アイツらの先を行くつもりだったのに、ちくしょう。アンタのせいで」

「アタシのせいですか~!?」

「バロンを足止めしやがって、アンタに時間を取られなければ、せめて積み荷の半分くらいはこっちのモノに出来たのに」


 シャーリィは腕を伸ばして、アタシの柔らかいほっぺをつねった。


「い、痛いでふよっ」

「もう、本当にこの疫病神ったら~」

「痛い~」


 ドアが開く音がした。

「姐さん。ラライさんっ」

 息を切らせて、バロンが立っていた。


 バロン。

 たった一ヶ月しか離れてないのに。

 なんだよ、会いたかったよ。


 アタシは彼に飛びつこうとして立ち上がって。

 やめた。


 バロンがアタシを見て、一瞬嬉しそうな顔をして、それから、何かを訝しがるような表情に変わった。


 きっと。

 アタシが睨んだからだ。


 アタシは彼に会って嬉しかった筈なのに。

 会いたくて、ずっと会いたくていた筈なのに。

 彼を見た瞬間、なぜか、彼の事を睨みつけてしまった。


 理由は。

 単純だ。


 アタシは、さっきのプレーンでの戦いを、思い出してしまったのだ。


「ラライさん・・・どうかしたでやんすか」

 ようやく、彼は、聞いた。


 アタシは、何も答えなかった。

 答えられなかった。

 自分でも最低な感じって、思うけど。

 どうしようもなかった。


「ラライさん?」

 バロンがもう一度アタシの名前を呼んだ。


 アタシは顔をそむけた。

 彼が戸惑っているのがわかった。


「ち」

 と、シャーリィが舌打ちをしたのが聞こえた、


 突然。

 アタシは背中をどんと押されて、前のめりによろめいた。

 転びそうになったのを、バロンが受け止めてくれた。


「おいバロン」


 シャーリィが言った。


「その女をふんじばりな。あたし達を裏切った女だ。あとで色々と話をしないとな。それまで、アンタの部屋で監禁しとけ」

「え、・・・姐さん」

 バロンが戸惑った声を出した。


「いいから、とっとと連行しな。あたしゃあ疲れた。ちょっとだけ休ませてもらうよ」

 シャーリィはアタシの横を通り過ぎざまに、アタシの髪を、ぐしゃぐしゃって撫でていった。


「ラライさん。姐さんの命令でやんす、あっしも不本意でやんすが、一緒に来てもらうでやんす・・・が、いいでやんすか?」

 彼はそう言って、アタシの体を触手で優しくくるっと巻いた。


 アタシは、ぽおっと、顔が熱くなった。

 なんだか、憎たらしい気持ちを無理やり溶かされてしまって、恥ずかしさだけが残った。


「あっしの部屋に、来るでやんしょ?」


 アタシはそっと、彼の顔を見つめて。

 こくり、と頷いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ