表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/74

シーン38 鋼鉄の騎士VS時の紡ぎ手

 シーン38 鋼鉄の騎士VS時の紡ぎ手


 次元の隙間がアタシを守った。

 アタシは暖かい光の中で、目を見開いた。


 徐々に視界が戻って、周囲の状況が伝わってきた。

 まるで、悪夢を見ているような感覚だった。

 さっきまでアタシが乗っていた犯罪組織の船は、マシュマロが溶けるようにあっけなく、その痕跡の欠片すら残さずに分子レベルの塵となって消え失せた。


 残ったのは、ただ二機の鋼鉄の騎士。

 ドゥのチェリオットだけだった。


 そしてアタシは。

 ただ一人、宇宙空間に取り残されていた。

 正確には。

 再び実体化したアルラウネの中に。


 全周囲型のモニターは、アタシに宇宙遊泳をしているような錯覚を覚えさせた。

 感覚が同調し、全ての状況が理解できる。

 アルラウネ=シュミットは、漆黒の闇を切り裂く一筋の光のように、その威風堂々たる姿を、宇宙の深淵に浮かべていた。


 アタシは、自らの両手、両足を確認した。


 この間と、少し形が違っている。

 プロブデンスで初めて具現化した時は、まるで怪物のようだったのに、より金属めいた外装になって、まるでプレーンそのものを思わせる外見になった。


 意識を切り離してよく見れば、操縦席も違う。

 有機的な生命感は残っているものの、やはりプレーンのコクピットにそっくりだ。


 これは、アタシがシュミットっていうものを、兵器だと認識したから、アタシのイメージによって、形を変えたという事なのだろうか。


 アタシは再び視覚を外に向けた。

 悠長に考えている暇はなかった。


 視線の先で、チェリオットがアタシに気付いたのがわかった。


 火力型のチェリオットが、ライフルの射程を測り始めた。

 その、あまりにも冷静な動作を目の当たりにして、アタシの中で現実感が蘇り、感情の糸がぷつりと切れた。


 こいつ。

 今、どんだけの人間を殺したのか、分かってるのか。

 あの船には、何人もの人間が乗っていたんだぞ。

 そりゃ、犯罪組織の人間だし、殆どが、世の中じゃ悪人と言われる連中だし。

 アタシだって、ひどい目にあわされた。


 だけど。


 だからって、簡単に奪っていい命なんて、一つだってあるもんか。


「こんの野郎おーッ!!!」


 アタシは、武器を手にした。

 前回は形にならなかった光の盾が、今度はまさしく勇者の盾の如く実体化し左手にセットされた。

 右手にはロングソード。


「少しぐらい、後悔見せなさいよ!!」


 アタシのアルラウネは、そいつに向けて突っ込んだ。

 想像以上のスピードだった。

 相手のライフルは目測を失って、虚空を穿った。


 とりあえず、ぶった切ってやる!


 突進した剣が、激しい衝撃を生んで弾かれた。

 シールドが、アタシの剣をしっかりと受け止めていた。

 その影から、赤いモニターアイが光った。


 もう一台の方、近接型のチェリオットか。


 そいつは、アタシを強敵と認識した。

 プレーンに偽装した外装甲を吹き飛ばして、チェリオット本来の姿に戻って行く。


 それは、甲冑に身を包んだ騎士だった。

 黒騎士って呼びたくなるような、荘厳にして、凶悪な外観。

 そして、肩に入る師団名とナンバー。


『お前の相手は私だ!』

 声が、シュミットの内部に響いてきた。


 この声は!?


 チェリオットは剣を抜き、アタシに襲い掛かった。

 アタシはアルラウネの盾で、それを受けた。


 激しい衝撃が互いを襲った。


「エイダ、それに乗ってるのって、エイダさんでしょ!」

『お前、やはりライか!!』


 やっぱりだ。

 アタシは運命の皮肉さを呪った。


 このチェリオットに乗っているのは、エイダだ。

 だとすると、もう一機はザラか。


「今、やはりって言った? つまり、・・・知ってたのね」


 アタシは、彼女達とショッピングモール船で出会った事を思い出した。

 あれは、偶然なんかじゃなかったんだ。

 アタシ達がシュミットキーを手に入れた事を確認したくて、しばらく、探りを入れていたのに違いない。

 こいつらが、無意味な行動なんか、するわけがないんだ。


『大人しく、そのシュミットを渡せ。そうすれば、お前だけは助けてやる』

「お前だけはって・・・どういう事?」

『この件に関わった者は、生かしてはおけない。それだけ言えば、幾ら鈍いお前でもわかるだろう』

「それって・・・」

 アタシは言葉を失った。


 ドゥの目的がどこにあるのかはわからないが。

 それはつまり、デュラハンやフーバーにも、危険が及ぶって意味じゃないのか?


「エイダさん。止めてください。皆を放っておいてくれるなら、こんなシュミットなんてアタシは要らないけど、もし皆を危険に晒すというなら、これは、渡せません」

 『なら、お前ごと破壊する。それで良いんだな』

「そう簡単には、やられませんよ」


 チェリオットは、化物だ。

 だが、剣を合わせてみてわかった。

 このシュミットも、化物って意味じゃあ負けてはいない。


 『ライ、お前ッ!!』


 エイダのチェリオットが、怒りに染まった。

 激しい剣激が、アタシを防戦一方にしていく。

 さすがは、戦い慣れている。

 この戦い方だと、アタシは不利だ。


 そうだ。


 アタシはあえて盾を伸ばして、相手の一撃を受けた。

 僅かに間合いが離れた時を狙って、背負った花びら型のユニットに隠された蔦・・・今は金属のムチのように変化したそれを伸ばした。


 エイダも、このムチの存在は知っていた。

 咄嗟に回避行動に出る。その隙をついて、アタシは距離をとった。

 そこから高速に旋回し、一見無軌道なジグザグ飛行からの急接近。


「てやああっ」

 アタシの一閃は、チェリオットの背を微かに掠めた。


 くそ。

 完璧な筈なのに、ここまで綺麗に躱すのか。

 さすがはチェリオット。

 さすがはエイダか。


 そこからしばらく、アタシ達の攻防は膠着状態に入った。

 お互いに、決定的な決め手がない。


 どうやって、この場を凌ぎきる?


 アタシは、焦りを覚えた。

 このままだと、100時間くらい戦ったって、決着がつかないんじゃないか。

 そんな事まで思ってしまった。


 だが。

 アタシは、ザラの存在を忘れてしまっていた。


 チェリオットはもう一機いたのだ。


 再び、アタシとエイダのチェリオットが剣をぶつけ合い、力比べになった時だった。

 背後に、ザラが迫るのを、アタシは気付かなかった。

 気付いたのは、エイダだった。


 『ザラ、お前、何をしている!?』

 エイダが叫んだ。


 アタシは、ようやく彼に気付いた。

 そして、目を疑った。


 ザラのチェリオットはアタシにエクスバスターの銃口を向けていた。

 こんな近距離で、そんな一撃を受けたら、いくらシュミットだって・・・。

 だけど。

 それじゃあ、エイダも巻き込んじゃうじゃないか。


 『エイダ、そのままだ。今終わらせる』

 ザラの無情な声が届いた。


 駄目だ。こんなの。

 何か方法は・・・?


「アルラウネっ!! 何とかして、逃げないとッ!!」

 アタシはマシンに向かって叫んだ。


 それで何かが起こるとは思わなかったけど、それでも、シュミットの潜在能力に賭ける事くらいしか、今のアタシには出来ない。


 突然、機体が急振動を起こした。  

「うわあああああ」

 アタシは悲鳴を上げた。


 背中の花形ユニットが、その花弁を全て開いて、七色に光った。

 ドゥの破壊兵器エクスバスターが、二度目となる地獄の光を放った。


 アタシの視界が真っ白になって。

 なに一つ見えなくなった。


 アタシは、死んだ?


 いや。


 それにしちゃ、変だ。

 痛みも何も無かったし、それよりも、意識があまりにもはっきりしすぎている。

 そして、手足にはしっかりと触覚が残ってて、ここがシュミットの操縦席だってのが、見えなくても分かる。


 衝撃が、足元から伝わった。

 え、これって何?

 着地、した?


 でも、どこに?

 アタシは今、宇宙空間に居た筈なんだけど。


 視界が、ぼんやりと回復してくる。

 そして、目の前に広がった光景に、アタシは沈黙した。


 一言でいえば。


 なんじゃ、こりゃ。


 アタシの目の前には、エイダのチェリオットが倒れていた。

 そして、その周囲には、見渡す限り広がる、森林?


 ここは、どこ?

 どこかの、星の上?


 今の今まで宇宙空間で戦闘していた筈なのに。

 こんな僅かな一瞬で、どこの星に移動したって言うの?


 空を見上げた。

 またしても、度肝を抜かれた

 何だこの空、真っ赤だ。

 そして、黒い雲が、まるで渦のように天を貫いている。

 こんな光景、見たことが無い。


 と、足元に何かが見えた。


 あれ? 人が居る?

 しかも、何あの格好・・・、まるでファンタジーゲームの世界から飛び出してきたみたい。

 一人は剣を持って、もう一人は弓をつがえている。

 それに、槍を持った男もいる。


 何が起きたっていうの。

 その人達は、何かを指さして、悲鳴のような大声をあげた。

 アタシではなかった。

 勿論アタシの事も驚いているみたいではあるけれど、それ以上に鬼気迫った表情だ。

 異常に気付いて視線を上げたアタシが見たものは。


「ど、ドラゴンッ!?」


 まさしくゲームの中でしか見たことの無い幻獣。いわゆるドラゴンそのものの形をした巨大なものが、アタシに向かってくるところだった。


 赤いウロコに、コウモリを思わせる羽根。

 開いた口から、炎が吐き出される様は、冗談を通り越して悪夢そのものだった。


「アルラウネっ、防御よっ」

 アタシは咄嗟に炎を盾でふさいだ。


 ドラゴンの大きさは、プレーンにも匹敵するサイズだった。

 もしかしてさっきの人たちは、このドラゴンと戦おうとしていた?

 だとしたら、無謀を通り越して馬鹿だ。


 凶悪な爪が、伸びてくるのを、金属のムチで受け止める。

 ドラゴンは憎しみを込めて咆哮し、牙をむいた。


 あんなのに噛みつかれたら、ちょっとヤバいかもしれない。


「こんのおっ」

 アタシは自由になっている右手で、ロングソードを一閃した。


 剣は、ドラゴンの肌を切り裂いた。

 これは、想像以上の切れ味だ。

 ドラゴンは思わぬ反撃を、おそらくはこれまで経験したことの無い痛みを受けて、悲鳴を上げた。


 これって、勝てるぞ。


 こうなれば、一気呵成って奴だ。

 アタシは勢いに任せて、剣を繰り出した。

 ドラゴンは猛り狂ったが、シュミットの剣にとって、生身の肉体に過ぎないドラゴンの猛攻など、相手にはならなかった。


 しばらくして、アタシの一撃がドラゴンの胸を刺し貫いた。

 おそらく、この世界では、最強の名を欲しいままにしていたであろう凶悪な獣は、力なくその場に崩れて、動かなくなった。


 とりあえずは、危機は脱した。

 の・・・かな。


 それにしても。

 この状況って・・・何なの。


 アタシは、アルラウネのコクピットが、僅かな振動を生み始めた事に気付いた。


 多分。

 いわゆるエネルギーが低下してきたのだろうか。


 あ、このままじゃ、この間の二の舞だ。

 アタシは慌ててアルラウネの膝をつかせ、ハッチを開いた。


 よし、アタシも少しは成長したぞ。安全に機体を降りる事が出来たじゃないか。

 アタシが振り返る先で、アルラウネは以前と同様に光に包まれ、その姿を夢幻のように消していった。

 そして。

 アタシの手には、短剣だけが戻った。


 がさりと、音がした。


 そういえば、この辺りに人が居たんだっけ。

 と、思って、警戒して振り向いた先に居たのは。

 ファンタジーゲームから飛び出した戦士たち・・・ではなく。

 エイダだった。


「エイダさん、良かった、貴女も無事で・・・」

 言いかけたアタシの眼が、銃口を捉えた。


「ライ・・・お前」

 アタシを憎しみのこもる眼で睨みつけながら、エイダは声を振り絞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ