シーン2 宿命の対決
シーン2 宿命の対決
プレーンを起動って、え、緊急事態?
これって、演習みたいなものじゃないよね。
アタシはあまりに唐突な指示に、ちょっと慌てた。
プレーン用ヘルメットを被ろうとしたら、肘が、思い切りどこかにぶつかった。
痛いっと、思う間もなく、機体をロックしているレバーが外れて、一瞬、プレーンの上半身がガクンと前のめりになった。
『おい新人っ、お前、まともにプレーンの起動も出来ないのか!』
またしても怒鳴り声が飛んできた。
くそ。
いつもならこんなミス、した事ないのに。
「失礼しました、機体ナンバー02、起動します!」
アタシがそう叫んだ時、軽い振動が船全体を襲った。
『撃ってきやがった、いきなりかよ・・・』
オペレーションリーダーの声が焦りを伝えてきた。
ここからだと、外の様子が見えないからなあ。
早くハッチを開けてもらわないと。
「何が起こってるんです?」
『亜空間転移と同時に撃ってきやがった、待ち構えていたな』
「敵ですか? 相手は? 数は?」
『まだわからん。だが、この感じは海賊だ』
海賊?
アタシの頭に疑問符が浮かんだ。
宇宙海賊か。
だとしても、こんな普通の船を、・・・しかも機体の横には大学の名前まで入った調査船を狙う海賊なんて、今まで聞いた事も無い。
それとも。
アタシが最近の事情に、無知なだけなのだろうか。
『敵機確認。意外に小型船だな。プレーン隊、出撃して迎撃態勢』
ようやく指示が飛んできた。
待ってました。
相手が何者か知らないけど、アタシの実力を見せてあげるわ。
ナンバー01が先に出た。
アタシが出ようとすると。
『新人は後だ』
ナンバー03にいきなり割り込まれた。
ったく。
出撃ハッチの順番も守れないなんて、プレーンパイロットのマナーってもんが無いの。
舌打ちをして、渋々後塵を拝した。
「ナンバー02、ラライ・フィオロン出ます!」
アタシはイライラを吐き出すように叫んで、シビア―ルの出力をいきなりマックスまで高めて飛び出した。
凍るほどに静かな宇宙の闇がアタシを待っていた。
そして、まばたきをした瞬間に溢れかえる、星の海。
久しぶりの宇宙ね。
さて、敵影は。
・・・?
視界の片隅を数本の光の槍が走り抜けた。
え。
アタシは一瞬思考が止まった。
出撃したばかりの僚機、ナンバー03が、沈黙した。
光の槍は、レイライフルが放つ銃弾の軌跡だった。
そして、その凶弾はナンバー03の頭部、脚部、両腕の全てを的確に破壊していた。
爆発すらさせず。一瞬で無力化。
この先制攻撃のやり方、まるでアタシじゃない。
って、キターっ。
敵は高速で移動しながら、再びレイライフルの雨を降らせた。
アタシは、天性の反応速度でそれを躱しきると、ジグザグにも見える軌道を描きながら、敵機の姿を追った。
敵は。
やっぱりプレーンか。
数は・・・一機だって?
アタシは相手の識別信号を解析して驚いた。
この機体信号は重量級の機体だ。
ベースはヘビーモスね。
そのくせ、やけに速い。
これは、かなりカスタムされているぞ。
アタシは自機の装備を確認した。
警備用プレーンは、基本的に破壊兵器を装備しない。
その代わり、敵を無力化するための特殊武装を持っている。
プレーンに良く用いられている重圧エンジンを鈍らせるためのGストッパーと呼ばれるピストル型の武器と、電磁パルスの網を張るフィールドネット。
それに、粘着して関節の動きを止めたり、モニターを無力化するトリモチミサイル。
『ナンバー01、02、そいつを止めろ!』
オペレーションリーダーの指示が飛んだ。
『こちらナンバー01、背後を取る。02、囮になれるか?』
出来るけど。
美味しいとこは持ってく気ね。
なんかムカつく―。
けど、仕事だし。仕方ないなあ。
アタシはヘビーモスの正面に回った。
思った通り、相手はアタシをロックオンした。
よし、このままギリギリまでひきつけて、離脱する瞬間にっと。
今よ、01。
それは最高のタイミング。
の。
・・・筈だった。
ヘビーモスは、信じられない動きを見せた。
真後ろからGストッパーの狙いをつけた01を、振り向きもせずに、撃った。
銃撃は、01の頭部を吹き飛ばした。
一瞬のうちに反転し、一気に01へとどめを刺しに行く。
レイソードが右のアームを切断し、返す刀でもう一撃を繰り出す。
「させるかーっ!!」
アタシは二機の間を引き裂くようにGストッパーを撃った。
だが、それを相手は読んでいた。
ヘビーモスは01のボディを盾にした。
やってしまった。
アタシの一撃で、01は完全に機能停止した。
まさか。
たった一機のプレーンなのに、こいつ、ただ者じゃない。
焦るアタシをあざ笑うように、そいつは向かってきた。
レイソードが光っている。
これは、受けきれない。
その一撃は、回避するだけで精一杯だった。
このスピード。
それにパワー。
ちぇっ。
機体性能のせいにするなんて、アタシらしくないぞ。
こいつ。
本当に強いんだ。
アタシはヘビーモスの接近をギリギリに躱して、フィールドネットを張った。
普通なら、押し込んでくる。
網に、かかれっ。
そんなアタシの思惑を、そいつは嘲笑った。
しっかりと踏みとどまって、レイライフルに切り替える。
再びアタシは逃げ回る立場に戻った。
こうなったら。
これでどう?
アタシはフルバーストで飛んだ。
一見無軌道なジグザグ飛行から、相手の背後を取って急接近する。
かつて、サンダーライ戦法、って、呼ばれた必殺ムーブ。
その改訂版!。
思った通り、相手は背後への迎撃態勢を取った。
そこを、もう一度下に回り込んで、そこからのショット。
こいつは、躱せるもんか。
アタシは勝利を確信して、ヘルメットの中でニッと笑った。
衝撃が、機体を揺らした。
え・・・。
何が起きたの。
アタシは、機体の緊急信号が鳴り響き始めた事に気付いた。
アタシのシビア―ルは、右腕を失っていた。
渾身の一撃を、難なく回避したヘビーモスが、アタシを撃ち抜いたのだ。
あ。
アタシは見た。
あのヘビーモス、腕が4つある。
奥の手を隠してたって、コトか。
・・・それにしたって。
アタシは心臓がバクバクと鳴り始めた。
なんだ。
これ。
変な感覚。だ。
プレーン戦で、一度も感じたことの無い、この胸を押しつぶされそうな感覚。
これって・・・なんだ。
ヘビーモスは追撃を止めなかった。
アタシは、逃げた。
それも、必死に。
残る装備はトリモチミサイルのみ。
だけど、この相手に、あんなお遊びみたいなモノが、普通に通用するとは思えない。
そうしている間にも、息がハアハアと苦しくなってきて。
汗が止まらなくなってくる。
これって、もしかして。
アタシはその事に気付き、そして、それを否定しようとした。
だけど。
出来なかった。
アタシ、今、怯えてる!?
それは、アタシがこれまで生きてきて、プレーンでの戦いを、幾度も繰り返してきた中で、たった一度も感じたことの無い感情だった。
嘘だ。
このアタシが。
「蒼翼のライ」って呼ばれて。
宇宙一のプレーンパイロットの名を欲しいままにしてきたこのアタシが・・・。
だけど。
それはまぎれもない事実だった。
これは、怯えだ。
生まれて初めて、プレーンでの戦いに負けるかもしれないという。
いや。
負けてしまっている事を、認めてしまう事への、怯えだった。
だけど。
そんなの。
そんなの。
「嫌だーっ!!!!」
アタシの中で、何かが切れた。
負けるくらいなら。
負けたと知ってしまうくらいなら。
機体を反転させ、突進してくるヘビーモスに立ち向かった。
その時速は、半端ではない。
瞬間、アタシ達のプレーンは衝突した。
激しい衝撃とともに、敵機のサブアームがへし折れた。
接触している状況から、トリモチミサイルを撃てば、どんなに破壊力の無い装備でも、相手にダメージを与えられる。
もし、コクピットに直撃させれば、相手のパイロットを殺すことだって、出来る。
「アンタなんかにーっ!!」
アタシはもう、いつもの自分ではなかった。
負けさえしなければ、どうなってもいい。
相手をどうしたっていい。
そんな風に、思ってしまっていた。
あと一瞬。
接触通信から届くその声が一瞬でも遅かったら。
アタシは全てを失うところだった。
『そ、その声っ、まさか、ラライさんでやんすかっ!?』
ヘビーモスのパイロットが発した声。
アタシは、頭が真っ白になった。
・・・。
・・・・・。
・・・そんな、まさか。
そんな事って!?
アタシは渾身の力で、シビア―ルを離脱させた。
ヘビーモスは、その場に留まったまま、明らかな動揺をその挙動に表していた。
嘘でしょ。
なんで・・・。
言葉を失ったアタシに追い打ちをかけるように。
再び聞き覚えのある女の声が、通信機のスピーカーから流れた。
『抵抗はやめろー。こちらは宇宙海賊デュラハン。大人しく積み荷を渡せば殺しはしない。これ以上の抵抗をするなら、こちらには重子砲の準備も出来ている。繰り返す、抵抗をやめて、大人しく積み荷をよこせー』
それはまぎれもない。
宇宙海賊デュラハンの『姐さん』こと、シャーリィの声だった。
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