シーン17 新生デュラハン初陣です
シーン17 新生デュラハン初陣です
航海は平穏無事に、とはいかなかった。
〈鳥の巣〉を離れて数時間もしないうちに、異変は起きた。
「前方から船が接近してくる。真っ直ぐこっちを目指してくるぞ」
空間レーダーの信号を読み取りながら、トゥーレが言った。
「このままだと航路上、ニアミスするな」
「シャーリィさん、避けれますか?」
ソニーが聞いた。
「避けるっていうか、これ、あたし達を目標にして近づいてるな、イアン、何か信号は出てないかい?」
「これといっちゃ何にも」
「ってコトは、良くない感じだね」
シャーリィは振り向きもせずに。
「ソニー、敵さんかもしれない。何か心当たりは?」
「もしかしたら、ブラッティリップスの追手かもしれません。私達、裏切り者扱いですから」
「鳥の巣を出るのを、待ち構えてたって、事かね」
「多分・・・」
不安げに、ソニーは頷いた。
「こういう時、迎撃態勢をとれ・・・って、言えばいいですか?」
「それで良いよ。自信もっていきな」
シャーリイとトゥーレはアイコンタクトした。
へえ、けっこういい感じに息があってるじゃない。
トゥーレが、船を戦闘態勢に切り替えた。
折り鶴のような形をしたヘッドレスホース号は、僅かに形を変形させ、優美だった外観に、凶悪そのものの、もう一つの顔をあらわした。
無数の対空機銃と、3門の巨大な主砲、そして、重子砲も一門備えている。
主砲は、炸裂式高エネルギー圧縮弾だ。
とてつもなく、危険な火器だ。
「機体信号をとらえたよ、プレーンが出てる! えーと、全部で6機はいる」
イアンが焦ったような声をあげた。
「イアン、そこはもう良い、機銃の方に回って、迎撃を頼む。デニーもそっちに回って!」
シャーリィが指示を飛ばした。
「バロン、ラライ、プレーンが来る。迎撃頼む!」
「任せて合点、でやんす。」
「了解だワン!」
いつもはバロンの返答に突っ込みを入れる所だけど、アタシも十分におかしな返事になってしまっている。
なんてしまりのないプレーン部隊だ。
だけど。
良いじゃない、やってみせるわよ。
そういえば。
けっこう長い事一緒に居たのに、彼とこうして二人で出撃するのって、初めてかもしれない。
なんだか、不思議な気分だ。
アタシはジュピトリス・・・ではなく、シビア―ルを選んだ。
この子にも、そのうち名前を付けてあげよう。
ディアブロスに騎乗した彼と、通信がつながった。
『その機体で出るんでやんすね』
「うん、こっちの武器の方が、相手を殺さずに済むから」
『ラライさん、らしいでやんす』
彼の機体が出撃用のカタパルトに乗った。
ヘビーモスがベースだけに、ずんぐりとした巨体は、痺れる程にかっこよく見えた。
「そう言えばさ、バロン様って、昔は異名とか無かったの、ほら、蒼翼みたいに」
アタシは何気なしに聞いた。
彼は少し黙って。
『ベタでやんすが、赤い悪魔って、呼ばれたことはあるでやんす』
「へえー、強そうでいいじゃない」
『そうでもないでやんす』
「なんで・・・」
『デビルフィッシュ・・・からきた異名でやんす』
ああ。
なるほど。
デビルフィッシュ・・・つまり、タコの事ね。
まあでも。気にしなければカッコいいい。
お互い、機体カラーは変わっちゃってるけど。
今日は、赤い悪魔と蒼い翼の揃い踏みってことね。
通信が入った。
『バロン、ラライ、機影が視界内に入った、やっぱり敵だ、出撃してくれ』
『了解でやんす、バロン、ディアブロス出るでやんすー!』
「ラライ・フィオロン、シビア―ル出ます」
アタシ達は出撃した。
プレーンで舞う宇宙は、やっぱりなんて気持ちの良さだ。
戦闘じゃ無ければ、もっと良かったのに、フルスロットルでどこまでも飛ばしたい気分になってくる。
そんな事も、言ってられないか。
モニター内に敵影を捉えた。
警備用の中型船を違法改造した、まさに三流海賊船と、プレーンはカザキ社製エステリアのカスタム機か。
おっと、撃ってきた。
何にも言わずに攻撃してくるなんて、やっぱり、そういうつもりなんだね。
だけど、早すぎだよ。
そんなに遠くからじゃ、馬鹿でも躱せるって。
海賊のくせに、素人みたいな腕ね。
こっちの射程からも、まだ少し遠い。
もう少し、引きつけないと。
「バロン様、アタシは左の三機を止める」
『あっしは右の三機でやんすね』
彼が答えた。
「ねえ、勝負しない?」
アタシは思い付きで持ち掛けた。
『勝負でやんすか?』
「そう、どっちが早く、三機を仕留めるか・・・ただし相手を殺さずに」
『ずるいでやんすよ、そっちの武器は、それ用でやんしょ』
「バロン様こそ、愛機なんでしょ」
『じゃあ・・・何か、賭けるでやんすか?』
そうね・・・。
「アタシが勝ったら、フルーツパフェ大盛!」
『あっしが勝ったら?』
「何が良いかな・・・、キスでもしてあげよっか」
『・・・!!!』
バロンが言葉を無くした。
これは、俄然やる気になったな。
『良いでやんしょ。武士に二言はないでやんす。その言葉忘れては駄目でやんすよ』
バロンがスピードを上げた。
っと、ヘビータイプのくせに、相変わらず速いわね。
「そっちこそ、その辺のじゃ駄目だからね、ロイヤルホテルクラスのパフェだからね」
『了解でやんす、じゃあ、キスは唇にお願いするでやんす!』
「えっ、それは!?」
『いくでやんす~!!!』
彼が突撃した。
もう、変な事言わないでよ。
顔が熱くなっちゃうじゃない。
それに。
抜け駆けはずるいぞー!
アタシのシビア―ルも敵機に猛進した。
直線で迫ると見せて、鋭角に機体をずらし、敵機を中心に螺旋を描くように飛びながら、まずは一台。
Gストッパーの直撃を受けて、敵機のエンジンが沈黙した。
直後。
「!」
これは、背後についてるわね。
アタシはそれを直感した。
振り向きざまに、フィールドネットを張り、離脱。
突っ込んできた敵機は見事に罠にはまって、あっという間に無力化した。
これで、二機目。
アタシの勝ちかな。
って、思ったら、バロンもあっという間に二機目を沈黙させていた。
見事に爆発もさせず、まったく、なんて腕よ。
やるわね、と思ったら、危ない。彼の死角からもう一台迫っているのが見えた。
って、気付くのが遅れてる?
ステルス機ね、それに武器はヒートブレードか。
もう。世話が焼けるんだから!
アタシは咄嗟に彼の機体の背後を守った。
彼目がけて振り下ろすヒートブレードを、その手首ごと押さえて受け止める。
モニスターから移植したパワーのあるアームが生きた。
「バロン様、油断しちゃダメだって」
『ラライさん!?』
バロンは反転し、アタシの前が押さえつけた敵機の首を撃ち抜いた。
メインモニターを失って動揺した機体を蹴り飛ばす。
今度は、横っ!
もう一機がこちらに照準をあわせていた。
アタシがGストッパーの銃口を向けるより早く、バロンのレイライフルが、正確にその機体の四肢を撃ち抜いた。
ちぇ。
やっぱりレイライフルはいいなあ。
敵は動揺した。
そりゃ、そうだ。
多分相手はクレンの残党って思ってただろうし、楽勝だと踏んでいたんだろう。
プレーンで迎撃を受けるとも、・・・まさかたった2機の相手に、6機ものプレーンを全滅させられるとは、思ってもいなかっただろうから。
更に、ヘッドレスホース号の主砲が追い打ちをかけた。
良い角度で敵船にダメージを与えていくのが、視界の隅に見える。
敵は離脱を開始した。
どうやら、勝負はついたらしい。
アタシ達は意気揚々と船に戻った。
『二人とも、お見事でした!!』
着艦するなり、嬉しそうなソニーの声が飛び込んできた。
『すごかったです、本当に、驚いてしまいました』
『かっこよかったでやんしょ』
『格好良かったです!』
『やんしょ~』
これは。
バロンの奴め、また鼻の下を伸ばしたな。
アタシは声だけでそれを感じた。
またまたムッとした。
ともかく。
アタシがプレーンから降りると、彼は馴れ馴れしく声をかけてきた。
「ラライさ~ん、さっきはありがとでやんした」
「別に、当然でしょ」
「あれ、なんか怒ってるでやんす?」
「別にー」
彼は首を傾げた。
まあ。
別にアタシは彼と付き合ってるわけじゃないんだしー。
嫉妬される筋合いなんて、無いのかもしれないけどね。
そう考えたら、全面的にアタシの一方的な感情だ。
でも。
それでもなんか嫌なのよ。
アタシがむっとした理由を、彼は勘違いしたようだった。
そしてにやっと笑って、あろう事かアタシの手を握った。
「まあ、ここでは何でやんすから。一旦部屋に戻るでやんす」
声が、どこかウキウキしていた。
部屋に戻って、プレーンスーツから、また元のメイド服に着替えると、彼はなぜか部屋の照明を少しムーディにして、テーブルにはジュースをお洒落なグラスに注いで待っていた。
「なに、どうかしたの。映画でも見るの?」
アタシが聞くと。
「やだなー、約束したでやんしょ。だから、ちょっとだけ雰囲気を出してみたでやんす?」
「約束?なんだっけ?」
「賭けでやんすよー。やだなー、とぼける気でやんすか。ラライさん、さっきあっしに負けたのを悔しくて怒ってたんでやんしょ」
あ、もしかして。
バロンめ、自分が賭けに勝ったとでも思っているな。
「さっきは無効でしょ。アタシバロン様を助けるために・・・」
「でも勝ちは勝ちでやんす!」
バロンはアタシの抗議を遮った。
まあ、結果だけでいえばそうだけど。
いやいや、それはちょっと違うんじゃない!!
アタシは吼えかかろうとして、身を乗り出した。
が。
「でも。あっしも命拾いしたでやんすから、ここは引き分けで良いでやんす」
彼があっさりとそう言ったので、アタシは肩透かしを食らったようになった。
「そ、そうよねー」
なんだ、わかってんじゃない。
なら、最初からそう言えばいいのに・・・。
「これは、二人の勝利でやんす。だから、あっしは約束通り、星に着いたら最高のパフェをおごるでやんす」
きらんと、彼の眼の奥が光った。
ん。
この流れは・・・。
まさか。
「だから、ラライさんも・・・」
彼の頬がぽっと赤くなった。
だっ、だからってなんだー。
結局、キスしろってことなのか。
そうなのかー。
彼はもじもじして、それ以上言い出してこなかった。
参ったな―。
こんな事になるなんて思わなかったし。
久しぶりのプレーン戦闘で、テンションが上がりすぎちゃった。
でも、そもそも言い出しっぺはアタシなんだよね。
しかも。
そうしたら、堂々とキスできるかもって、ほんのちょっと思っちゃったし。
ほっぺに軽く、くらいのつもりだったんだけど。
「じゃあ・・・仕方ないなあ・・・」
アタシは言った。
「でっ、でも、アタシからってのは嫌だから、ば、・・・バロン様からしてよね。あ・・・アタシその・・なんだ・・・」
唇と唇のキスは、はじめてなんだ。
けど、それすらも恥ずかしくて言い出せない。
なんだか、震えてきた。
「ラライさん・・・」
彼は、アタシの肩を抱いた。
ああ、これって、ついにアタシ。
彼に奪われちゃう。
奪われちゃうんだ・・・。
アタシは目を閉じて・・・待った。
彼の吐息が近い。
けど・・・。
・・・あれ。
・・・おい、どうした?
いっこうに彼が迫ってくる気配がない。
何よ、ここまで来て、今さらためらってるの?
アタシは目を開けた。
で・・・固まった。
いつの間にか扉が開いて、鬼の形相をしたシャーリィが仁王立ちしていた。
「あ・・・ご主人様ぁ?」
「ご主人様・・・じゃないー! 戦闘後は全員コクピット集合って言ってんのに、あんた達は何をやってんだー!」
「え、集合!?」
「あったり前だろうが、帰還報告もしないでイチャイチャしやがって、ふざけんな、みんな待ってたんだぞー」
あー。
そりゃ、そうだよねー。
「だってバロン様がー」
「バロンお前―――っ!」
「あ、姐さん、これにはワケが、ワケがあるでやんすっ!」
「どうせ下らん理由だろ!」
ご名答。
文字通り首根っこを捕まえられて、アタシとバロンはコクピットルームに引き立てられた。
ソニーがクスクス笑って待っていた。
イアンもトゥーレも、呆れたような顔でアタシ達を見たが、その顔には馬鹿にするというよりも、どこかしら尊敬にも近い感情が浮かんでいた。
「ま、最高の初陣になったから良しとする。全員無事を確認! では改めて、これからプロブデンスへ向けて再出発するぞ! ソニーそれで良いな」
「はい」
ソニーは呼び捨てられたのも気付かないように頷いた。
アタシと、目があった。
彼女は、船長の椅子を降りて、駆け寄ってきた。
で、突然。
「それで、もうキスはなさったんですか?」
言われて、アタシ達は「は?」って顔になった。
「だって、全部通信で聞こえてくるんですもの。・・・共有通信で話してるから」
ソニーはうっすらと顔を赤らめた。
アタシとバロンは言葉を失って。
二人して、それ以上に真っ赤になった。
お読みいただいて、ありがとうございます
エピソード4、導入部はそろそろ終わりです。
次回以降、少しずつ事件が動き出していきます
ぜひ、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
ブックマーク、コメントなど、心からお待ちしています。
感想の声などを楽しみに続けていきますので、
今後とも、よろしくお願いします