表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/74

シーン15 首なし騎士と首なし馬

 シーン15 首なし騎士と首なし馬


 アタシは、血の気が引いた。

 バロンはアタシの事をじっと見つめて、それからジュピトリスを見上げた。


 彼は、この名前をどう思っただろう。

 ただ、アタシがライのファンだから、その名前を付けた、と流してくれるだろうか。

 それとも。


 アタシは彼に疑いの目を向けられるのを、覚悟した。


 ところがだ。


「そうなんでやんすよ」

 と、こともなげにバロンは言った。


 驚いた様子も、慌てた様子も、何もなく。

 平然と、彼はそのことを認めた。

「こいつは、あの蒼翼のライのジュピトリスでやんす!」


 え?

 アタシは彼が追及してこない事に、それどころか、この機体が既にジュピトリスだと気付いていた事に、心臓が止まるほどに驚いた。


「それじゃあ、まさかこのラライさんって!?」

 ソニーの声が大きくなった。

 そりゃあ、そうなるよね。


 それにしてもバロン、あなた、それじゃあアタシがライだってこと、もう気づいて・・・。


 と、思ったら。

 彼は、にへらっと笑った。


「それがでやんすよ~。以前ラライさんの親友の方が、ラライさんにぴったりのイメージで、宇宙でも最強クラスのプレーンを探してきてくれって、とある探し屋に依頼をしたでやんす。そしたら、その探し屋は、事もあろうに蒼翼のライから、この機体を盗んできちゃったでやんすよ~!!」

「まあ~」


 ソニーが目を丸くした。

 アタシもした。


 なぬ。

 そう言う話になっているのか。

 アタシそんな打ち合わせ、してなかったぞ・・・。


「いやー、痛快でやんすね~。ライの野郎、今ごろ地団駄踏んで悔しがってるでやんすよ。顔を見れないのが本当に残念でやんす。もうあっしは愉快でたまらないでやんす。いっそ、上からあっし達の色にマーキングをした画像を撮って、本人に送りつけてやりたいくらいでやんす!」


 バロンは腹?を抱えて笑った。

 アタシはほっとする反面。

 ちょっと彼の態度にイラっときた。


「言っとくけど、これアタシの機体だかんね。勝手にカスタムとか、しちゃだめだから」


「大丈夫でやんす。操縦席以外は、いじってないでやんす」

「そこ、結構大事なんだけど」


 まあ、駐機させてもらうのを条件に、無期限貸し出ししてたのは事実だし。

 カース人の彼が乗るにはカスタムするしかないんだけど。

 そういえば、どんな風に変えられちゃったんだろう。


「ちょっと見てみるー」

 アタシはコクピットに向かった。

 バロンが後ろからついて来た。


 ソニーは遠慮したみたいだった。


 アタシはハッチを開いて、そして絶句した。

 これは、まるで・・・トイレだ。


 カース人の軟体ボディを抑えるには、確かに輪っかみたいな椅子が必要になるけど、アタシが乗れるように座面を工夫してくれた結果、見事に西洋便器になってる!


 前は、便器みたい・・・だったけど。

 これはもう、便器そのものだ。


 ・・・お世辞にもカッコ良くない。

 アタシが泣きそうになっているのを、彼は喜んでいると勘違いした。


「ラライさん、乗ってみるでやんす。新機能満載でやんす!」

「新機能って! やっぱり色々変えたんじゃない」

「コクピット廻りだから一まとめで良いでやんす」


 彼は訳の分からない論理を言って、アタシを無理やりに座らせた。

 まあ、なんて心安らかになる形

 これは、あえてトイレだと思いこめば、普通のトイレよりも安心できるかもしれない。


「長時間乗ると、やっぱり穴が無い方が良いでやんしょ、そこで、可動式のお尻用クッションを考案したでやんす。そこのボタンをぽちっと押すでやんす」

「これね、はいぽちっと」


 アタシは何の気なしにそのボタンを押した。

 すると、通常はバロンの足が収納される穴、つまり便器の穴の奥がせりあがってきて、アタシのお尻にジャストフィット!


 ・・・するはずが、アタシのお尻に突き刺さった。


 アタシは悶絶した。


 これは、・・・何かの罠?


 多分アタシのお尻の形に合わせて、座面にカーブをつけたんでしょうけど、真ん中の部分が三角にせりあがってて、ちょっと、鋭角すぎる。

 それに、クッションのくせに、なんでこんなに固いの。


 アタシはお尻を抑えながら、情けなく前のめりに崩れた。


「ラライさん、大丈夫でやんすか~!? どこを打ったでやんす!」

 彼が慌てて、アタシを助け起こそうとした。


 待って。どこを打ったのかは聞かないで。

 仮にもアタシは美貌のヒロインよ。


「おかしいでやんすね~、座面に着けたはずの低反発ウレタンが、座面上昇の勢いで二つに裂けたでやんす。設計ミスでやんすかね・・・」


 いやこれ、普通にただの拷問道具になってるから。

 アタシはよろよろと、再びシートに戻った。


「その機能、いらない・・・。こんなんなら、便器のままで良いわ」

 呟くと、彼は、

「じゃあ、これはどうでやんす。疲れた体にぴったりの、全身リラックスマッサージコースでやんす」

 新たなるボタンを押した。


 すると、便座部分と、背もたれ部分が軽い振動を始めた。

 おお、これは、なかなか気持ち良いではないですか。


「ああ、これなら良いわね。強すぎもしないし」


 まあ、プレーンにマッサージ機能ってのは微妙な感じだけど、実際、工事現場の重機型プレーンとかでは、オッサンたちが休憩中にこーゆーオプションパーツを座面に装着して使ってたりする。

 少なくとも、さっきの変な拷問道具よりはよっぽどましだ。


「シートベルトとも連動するでやんすよ」


 アタシはシートベルトを引いた、

 ジュピトリスのシートベルトは、両肩から逆Aの字になって、足の付け根、つまり股の間にロックする。


 彼はスイッチを入れた。


 想像以上に強い振動が来た。

 と、思ったら。


 アタシは悲鳴を上げた。


 振動が発生した瞬間、シートベルトはそれを異常衝撃と誤判断した。

 アタシの体を守るべく、物凄い力でシートへと押さえつける。

 ヘルメットとプレーンスーツを着ていればそれでも堪え切れたが、今のアタシは生身だ。

 内臓が飛び出るかと思った。

 そして、容赦なく全身を揺さぶるバイブレーション。

 さっきまで心地よかった振動が、急に悪魔の指にでも変わったかのようにアタシを粉砕しかけた。


「ひゃあああううううう」

「わー、ラライさん、大丈夫でやんすか~!!!!」


 バロンが慌ててスイッチを停めた。

 大丈夫な、わけないでしょ。


 アタシはふらふらと、操作盤に手を着いた。

 良い位置に、さっきのボタンがあった。

 ぽちって音がした。


 気付いた時には手遅れだった。


 ぎゃああああああ。


 アタシは本日二度目の尻チョップを喰らった。

 しかも、今回は、シートベルト付きで、衝撃の逃げ場も無かった。


 三途の川が見えた。



 結局。

 アタシは、医務室送りとなった。


 おのれバロン。

 もはや許すまじ。


 アタシを守るどころか、アタシをどこまで貶める気だ。

 それも、清純派ヒロインであるこのアタシに、あんな屈辱的な方法で・・・。


 ホントはアタシの事「ライ」だって気付いてて、こんな陰湿な罠をしかけたんじゃないでしょうね。

 だとしたら絶交だ。

 二度と口なんかきいてやるもんか。


 とはいえ。


 面倒くさい引っ越し作業の期間中、寝て過ごせたのは良かった。

 実を言うと、ちょっとした打ち身で済んだのだが、都合が良かったので、歩けないふりをしてサボった。

 最近ひどい目にばっかり合ってるから、この位は許されるのだ。



 おおよその準備が終わると、アタシ達はミーティングルームに集められた。

 結構広い部屋で、必要以上にたくさんの椅子が並んでいた。


 アタシはバロンの隣・・・をあえて避けて、イアンの横に座った。

 遠くからバロンは不思議そうにアタシをちらっと見た。


 知るか。

 あんな奴。

 ソニーにはデレデレして。

 アタシのプレーンには変な装備ばっかりつけて。

 もう。

 付き合ってなんかやるもんか。


「えー、それじゃあ、部屋割りと、ついでに船での役職を発表するぞ」

 シャーリィが声をあげた。


 役職の方がついでなんだ。

 まあ、良いけど。


「まず、船長室を使うのはソニー。役職も、この船での船長をお願いする!」


 え、ええー!?

 アタシは驚いて、キャプテンを見た。

 彼は、無表情だった。


「これはな、キャプテンの指示だ。確認をするぞ、あくまで、海賊デュラハンのトップはラガーだ。だが、この船に関しては、船長はソニーだ。この意味は解るな」


 彼女はそう言ったが、少なくともアタシとイアンは「?」って顔になった。


「言っておくが、あたし達は宇宙一の海賊を目指してる。つまり、この船一台だけで終わるつもりは毛頭ないという事だ。これから先、もしかしたら、デュラハンは2隻目、3隻目の船を持つ・・・かもしれない。その時は、ここに居る誰もが船を任される可能性がある。それを、心しておくように」


 ああ、なるほど。

 アタシはようやく納得がいった。


 ラガーはいわば組織のリーダー。

 そして、ソニーは、組織の中にある、この船というユニットのリーダー、そういう事か。

 うまい具合に、ソニー達メンバーの顔を立てた、ってことだ。

 考えたじゃない。


「次、一等船室にキャプテンと、このあたしだ。文句はないな。キャプテンは白兵戦のリーダーを、アタシはメインパイロットをやる」


 ま、ここは妥当な所だ。


「次、バロン。プレーン部隊。部屋は、特別に客間を使え。」

「かしこまったでやんす」


 シャーリィは続けた。

「あとはすまないが部屋無しだ。各自好きなプライベートスペースを選んでくれ。ちなみにトゥーレはサブパイロット。デニス、イアンは戦闘要員。ただし、イアン、あんたはオペレーターの補助も頼む。それ以外のメンバーも、人手が少ないから、都度、持ち回りで色々やってもらうぞ。以上!」


 あれ。

 以上って・・・アタシは?

 アタシの部屋と、役目・・・は、別にどうでも良いけど、とにかくアタシは何処にいればいいんだ。


「あのー、ご主人様、大事な事忘れてません?」

 アタシは遠慮がちに聞いてみた。

 彼女はわざとらしく、何だっけ、って顔をしてから。


「そうそう、大事な事を言い忘れてた」

 改めて、口を開いた。


 そうよ、アタシの部屋もちゃんと決めてもらわないと。


「この船の名前だ!」


 っと、なんだそりゃー。

 船の名前って、そんなの前の船だって、ぜんぜんつけようともしなかったのに。

 毎回、デュラハンの船、ってだけ言い続けるのが、なんか面倒くさかったのは事実だけど。

 今さらかーい。


「ヘッドレスホース! 今日この日から、この船の名前はヘッドレスホース号とする」

 シャーリィは高らかに言った。


 ちょっと、ざわついた。

 ヘッドレスホース、つまり、首なし馬か。


 なるほど。

 デュラハンは伝説の首なし騎士。その愛馬・・・つまり船は首なし馬ね。

 それに、ソニー達4人はまさしく頭を失って、これまで辛い思いをしてきた。

 シャーリィ達にしては、なかなかのネーミングだ。


「じゃあ俺達は、ヘッドレスホーセズだな。悪くない」

 トゥーレが言って、イアンとデニスも頷いた。


「よし、解散!」

「じゃ、なくってですねー。アタシの部屋は、まさかアタシも部屋無しなんですか」

 アタシはシャーリィに泣きついた。


「あー、それね。いやさ、あたしもいろいろ考えたんだけどさ。やっぱり、この先何があるか分からないし、客間は最低一つは開けておかないといけないしね」

 彼女は仕方なさそうに頭を掻いた。


「本当は、他の連中に聞かれないように、と気を利かせたつもりなんだけど・・・」

「え?」


「客室、一個やるよ」

「ホントに!」

「本当だ。ただし・・・」

「ただし?」

「ラライ、あんた、バロンと同部屋な」

「へ・・・・・」


 皆が、一瞬固まった。


 え・・・。


「ええーっ!!」


 アタシと同じように、部屋の奥でバロンが大声で叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ