シーン14 ヤバい、バレた?アタシの正体
シーン14 ヤバい、バレた?アタシの正体
話は、決まった。
キャプテンの言葉の何かが、彼らの琴線に触れた。
おそらく海賊を名乗るものにしか伝わらない何かを、彼らは感じ取ったようだった。
そして、何よりも大きな理由が、もう一つ。
やはり彼らも宇宙生活者なのだ。
できる事なら、宇宙の海に出て、星々の光に包まれて生きるのが、彼らにとっての日常であり、かけがえのない誇りなのだ。
だから、この船の翼に、もう一度命を吹き込むことが出来たなら、その為にはアタシたちと手を組んだってかまわない。最終的には、その考えに行きついたのだろう。
そうと決まれば、色々と決めることがあった。
まあ、最初に肝心なのは、序列だ。
いくらフリーの宇宙海賊と言っても、船で生きるためには序列っていうものが必要だ。
当然一番のトップはキャプテンだとして、二番目は・・・。
互いの顔を立てればソニーと言いたいところだが、彼女が遠慮した。
ま、結局シャーリィがナンバー2で、次がソニーという事になった。
でもって、四番手にバロン。
これも妥当という事にしておこう。
続いて、トゥーレ、デニス、イアンの順。
つまり、一番下がイアンか。
と思っていると。
「一番下っ端はあんたに決まってるじゃない」
シャーリィが冷たく言った。
「どーしてですか、アタシは確かにチームメンバーじゃありませんけど、付き合いだって長いし、言ってみればお客様ですよ。特別待遇で良いじゃないですか」
「うるさいよ。乗せてやるだけ有難く思いな」
うう、なんて上から目線。
「まだ、警備員になったの根に持ってるんだ、執念深いんだから」
こっそり呟いたつもりが、聞かれた。
「ラライ、あんた自分の立場が良く分かってないみたいだね」
彼女の眼が冷ややかに光った。
とと、これはまずい。
彼女を怒らせたら、なにされるか分からない。
口でも勝てないが、力でも勝てないぞ。
勝てるのは若さと愛らしさだけだ。
「ラライ、あたしは誰だっけ・・・」
「しゃ・・・ご、ご主人様です。・・・わん」
「あたしに逆らうと、どうなるか分かってるね。みんなの前でアレさせるからね」
ぐう。
またイヌのしつけみたいな、情けない格好をさせられてはたまらない。
アタシは強制的に納得させられた。
ちぇ。
このカチューシャさえなければなー。
いつか下克上してやる。
だけど、この序列が重要な理由は、単なる指示系統だけの問題ではない。
この、ほぼ軍用船ともいえる船で生活をするには、とても大切な事なのである。
アタシが「お客様待遇」を求めたのは、実はその為だ。
それは、部屋割りだ。
基本的に、アタシ達は生活の殆どの時間を、この船の中で過ごすことになる。
前の船はその点では良かった。
もともとが旅客船だけに、部屋は客室を利用していたし、アメニティも充実していた。
だけど、この船は違う。
一人部屋は全部で三つ。船長室一つと、副船長用が二つだ。
それに、二人部屋で、基本ゲスト用に使われる客室が二つ。
それ以外は、上下二段ベッド状になった、簡易なプライベートスペースだけになる。
確かに、限られた居住区に4~50人を乗せるためには、こういう方法しかないのだろうが、こんなの部屋って言えないじゃない。
当然一人部屋にはキャプテンと、ソニーとシャーリィが入るだろうし。
二人部屋は・・・お客様用だから、使うかどうかはわからない。
けど、使うとなれば、バロンと残り三人で埋まる。
ってことは。
どう考えてもアタシに残るのは二段ベットのせいぜい上の部分。
自分の部屋なんて貰えない事になる。
これだったら、前の船の方がましだー。
「でもご主人様、それじゃあ、アタシに部屋はないって事ですか。アタシだけ、TVもクローゼットも銃のコレクション展示スペースも、積みプラ置き場もないって事ですか!」
アタシは食い下がった。
「ったく、そうは言ってもねえ」
シャーリィは頭を掻いた。
「まあ、何かしら考えといてやるよ、それより遊んでる時間も無いんだ。向こうの船から色々と運んでこなきゃならない。ほら、アンタのプレーンとかもな」
確かに・・・。
それはそうなんだけど。
「ラライさ~ん、向こうの船に戻るでやんしょ。一緒に行くでやんす~」
通路の奥からバロンに呼ばれた。
アタシは仕方なく。
「ちゃんと考えててくださいね」
彼女に言って、バロンの元へ走った。
驚いたことに、ソニーがついてきた。
「ソニーちゃん、プレーンの操縦が出来るらしいでやんすよ」
バロンが言った。
「自慢できる程じゃありませんが」
彼女は恥ずかしそうに言った。
なんだか、清楚な感じで、今までアタシの周りには居なかったタイプだ。
10代後半くらいなんだろうか。まだ20歳前、だとは思う。
「いや~、女の子でプレーンの操縦が出来るなんて、すごいでやんすね~」
言いながら、バロンの頬が緩んだ。
んんん?
バロンったら。気のせいか鼻の下が伸びてない。
アタシは彼の顔を見た。
やっぱりだ。
何だかしまりが無くなって、微妙に興奮してるみたいに見える。
何よその顔。
ちょっと可愛い子を見ると、すぐにデレッとしちゃってさ。
信じられない。
アタシはなんだか、思い切り不機嫌になった。
シャーリィもシャーリィだけど。
バロンもバロンだ。
新しい仲間が出来たからって。
アタシの事なんてどーでもいいのか。
「でも、ラライさんもプレーンに乗るんですよね」
ソニーが話題をアタシに振り替えた。
「まあ、ね」
彼女はちっとも悪くないのに、つっけんどんな答えになってしまった。
「じゃあ、プレーンをお持ちなんですか?」
「持ってるよ」
「うわあ。楽しみです、後で見せていただけますね」
彼女は思った以上に楽しげに言った。
ちょっと、自分の大人げない態度が恥ずかしくなった。
「ソニーちゃんは持ってるの?」
一応チームのナンバー3なのに、ついちゃん付で呼んでしまった。
まあ、でもそれが許される雰囲気を彼女は持っていた。
「個人ではなくて、チームにはありました。でも、船を降りた人達が持って行ってしまって、残っているのは、スクラップ同然で動かないものが一台だけです」
「へえー、機種は?」
「ディカテイ製の、モニスターです」
「珍しいね。ハイパワーモデルじゃない」
「だけど駄目です。そもそもエンジンがもう死んでいますから」
アタシはぼんやりと考えた。
まあ、それでも部品は取れるだろうし。
もしかしたら、バロンに腕を破壊されたシビア―ルと組み合わせれば、何とか動かせるかもしれない。
そうこうしているうちに、船についた。
キャプテンとデニスが先に居住室の荷物の運び出しをしていた。
さすが、男の力って大したものね。
すごく、はかどってる。
二人は黙々と、荷物をまとめ、積み込み、掃除までしていた。
あれ、よく見たら。
あの二人、一言も会話してない。
交わしているのは、アイコンタクトだけだ。
なのに。
まるでテレパシーで繋がってるみたいに、息がぴったりだ。
これは、コミュ症同士、奇蹟のコラボレーションって、奴かしら。
「あっし達はプレーンや大型武装兵器の輸送でやんすよ。ささ、ソニーちゃんこっちでやんす」
バロンが嬉々として、彼女を案内した。
おのれ。
バロンめ。
アタシ以外と、あんなに楽しそうな顔しやがって。
格納庫に入ってすぐ、ソニーは感嘆の声を洩らした。
3台のプレーンが整然と並んでいた。
黄色い外装のせいで、まるで翼の生えた金色の騎士にも見えるアタシのジュピトリスmarkⅡ。
塗装こそまだベーシックだが、四本腕に改造されたバロンのヘビーモス。
もう一台は腕を破壊されたシビア―ル。
どの機体からも、実戦を潜り抜けた独特の雰囲気が溢れていて。
それだけで圧巻の存在感を出していた。
「こっちのが、あっしの愛機、その名もディアブロスでやんすよ」
バロンが無意味にかっこつけた。
なんだよ。ソニーの前だからって。
ふんだ。
かっこよくなんかないけどね。
「綺麗な黄色ですね。メタリックで。これって、金なのかな」
ソニーはバロンの自慢を、おそらく素でスルーした。
彼女はアタシの機体に目を奪われた様だった。
バロンががーんって顔になった。
けけけ。
ざまーみろ。
「かっこいいでしょ」
アタシが得意げに言うと、ソニーは頷いた。
「見た事ない機体です。お名前はあるんですか?」
「うん。この子の名前はね、ジュピトリス・・・」
「ジュピトリス? それって」
「え・・・」
はっ!
やってしまった。
思わず。
そのまんま名前を言っちゃったよ。
やばー。
ジュピトリスって言ったら、「蒼翼のライ」の愛機だもん。
プレーン好きならだいたい知ってるし、それに、バロンの前で言ってしまった。
アタシの正体・・・バレちゃう。
「ジュピトリスって、その名前は確か・・・」
バロンの眼が、にわかに真剣みを帯びた。
「蒼翼のライの、愛機の名前でやんすよね」
そうだ。
バロンはかつて三度「蒼翼のライ」と戦った。
そして、彼女・・・つまりアタシに苦杯を飲まされた、忘れられない過去がある。
だから、彼は今でも「ライ」がどこかで息をひそめていると信じていて。
いつの日か、彼女を倒すことを目的に、プレーンの腕を磨き続けているのだ。
もちろん。
アタシがその「ライ」だとは気付かずに。
アタシが彼に自分の正体を打ち明けられない最大の理由。
それこそが、彼のその執念だ。
それなのに。
アタシときたら、思わず。
彼の前で機体の名前を言ってしまうなんて。
これじゃあ自分から、アタシがライでーす。と、言っちゃったみたいなもんじゃない。
アタシは、彼が問い詰めてくるのを覚悟した。