シーン0 プロローグ 時を喰らうもの
「蒼翼のライ」シリーズ エピソード4です
ぜひ最後まで、よろしくお願いします
シーン0 プロローグ 時を喰らうもの
〈・・・20年前・・・〉
砂漠の惑星ネル。
荒廃した大地には、かつて栄えたであろう文明が無音の彫像として並び、吹き荒れる風の中で、その長き眠りを続けていた。
小さな光が幾つか灯って、トラックの形をしたGランナー(重力走行車)が数台、砂地に特有の走行痕を残して走った。
時折、砂は嵐のように舞い上がって、行く先の視界を奪い去ってゆく。
かつては街であったろうエリアを抜けたところに、巨大なクレーターが残っていた。
1台が急ブレーキをかけてクレーターの端にとまった。
残りのGランナーは、スピードを緩めた。
安全を確認するように、少しその場でホバリングを続けてから、一台ずつ、クレーターの側面から中央に向かって作られた、僅かな作道を通って降り始める。
停止したGランナーから、二人の人影が姿を見せた。
ヘルメットを着けていて、どちらも、顔が見えない。
この辺の大気には、人間にとって有毒な成分が、多く含まれている。
エレス宇宙同盟圏の管轄惑星になってから、移住用の大気浄化装置を稼働させているとは聞いているが、人が普通に生活できるまで回復させるには、あと10年以上はかかるとの見通しになっていた。
『このクレーターは、何年くらい前に出来たものなんですか?』
通信機から、声がした。
まだ若い男のものだった。
『詳しい分析はまだだが、4億年程経過している』
答えた声は、やはり男だが、さっきよりも年上だった。
『まさか』
若い方が笑った。
『その、まさかだ』
二人は振り返った。
廃墟と化した町の痕跡が、まるで幽鬼のように。沈まない太陽の光に浮かび上がっていた。
『この都市が繁栄していたのは、記録によれば2000年前ですよ』
若い男は首を振った。
『だけどこのクレーターは、都市を破壊している。少なくとも2000年以内に出来たものと考えなければ、計算が合わない。それに、この星の大気が汚染されたのも外的な理由なんでしょう。その隕石群が原因だって・・・』
『事実は目の前にある。計算ではなく、目の前の事象を理解しろ、だ』
『それは・・・父さんの言葉ですね』
ディーンは、クレーターの中央に視線を戻した。
巨大な、黒い立方体が見えた。
その周囲に、さっき後ろを走ってきたトラックが並んで、物資の積み下ろしを始めている。
どうやら、そのあたりに調査隊のベースがあるらしかった。
『で、あれがその、世紀の大発見って、奴ですか』
『さあてな、しっかりと調べてみない事には、結論はそれからだ』
二人はクレーターの中に降りて行った。
近くで見ると、桁違いの大きさだった。
遠くからでは黒いだけに見えた表面には、幾つもの筋が入り、中から、紫がかった光が漏れていた。
機械か?
それにしては、どこか、有機物のような印象がある。
『来たのか、ディーン』
声がして、彼は振り向いた。
比較的小柄な人物が、手をあげて近づいてきた。
『久しぶりです。父さん!!』
顔は見えなかったが、ディーンはすぐにそれが父の声だと判った。
『お元気そうですね、プロフェッサー』
ディーンと共に来た男が頭を下げた。
『おお、フーバー君も来たのか。今回の発見には、さすがに中央の連中も驚いたと見えるな』
教授と呼ばれた男は、少し得意げな様子で言った。
『それにしても、良く許可が下りたな』
『古代語の試験に合格できたんです。これで僕も、晴れて正式な調査隊の一員ですよ』
ディーンは嬉しそうに言った。
『それにしても、これって何なんですか?』
『安易には答えられんよ。ただ、エレスの超古代文明に繋がる発見だと、儂は確信しているがね』
『似たような痕跡だけは過去にも発見されてますね。これは、まるで生きているみたいだ』
フーバーの声が割って入った。
『ああ、生きとるよ』
『え、生きてるって…?』
ディーンが驚いた声をあげた。
『機能が生きてるって意味さ』
教授が見上げた。
調査員と思われる数名の人影が、立方体の上面に立っていた。
突然、一人が手をあげた。
『何か、見つけたようだな』
『僕、行ってみて、いいですか?』
『ああ、あっちにフライングボードがある、気を付けろよ』
『はい』
ディーンは駆け出していった。
『まったく、浮かれておるな・・・』
『仕方ありませんよ。初めての現場ですからね』
フーバーが横に立った。
ディーンは立方体の上に辿り着いた。
そこでは、3人の調査員が何かを覗き込んでいた。
『君は?』
一人が顔を上げた。
『ディーン・スペンサーです。先程到着しました』
『スペンサー? じゃあ、君が先生の・・・』
ディーンが頷くのを見て、調査員は少し体をずらして、彼にスペースを開けた。
ディーンはそこに体を滑り込ませて、彼らが見つめるものを見た。
そして、息を飲んだ。
『これは・・・エール文字?』
それは、四角い石板に見えた。
表面は白い大理石のように輝き、文字のような物が浮かんでいる。
かなり古い、古代の文字だ。
『君、もしかして読めるかね』
問われて、彼は頷いた。
『ええと・・・はい、少しなら』
ディーンは、一つ一つ確かめるように、そのスペルを読み上げた。
『時の紡ぎ手・・・ティアミュート?なんだか名前みたいですね』
『紡ぎ手か・・・まさか、シュミットか?』
『シュミット、それって何なんです?』
『いいから、続きを・・・』
促されて、彼は読み進めた。
『剣を持って、鍵と成し。人を持って、肉体と成す』
そして最後に。
『我が永劫の眠りを妨げるものに・・・死を?』
ディーンは目を見開いた。
突然、立方体が振動を始めた。
それは、大地をも揺るがし、大気を引き裂いた。
『う、うわああああああっつ』
ディーンが悲鳴を上げる先で、石板が動いた。
石板を天面とした立方体がせりあがって、一面が左右にスライドする。中から眩しい程の光が溢れ出した。
それは、箱状になっていた。
中に、何かがある。
引き寄せられるように、彼は手を伸ばした。
彼の周囲では、猛烈な風が吹いて、3人の調査員の体を吹き飛ばした。
足元では、更に振動は激しかった。
大地がひび割れ、情け容赦なくそこに居るすべての者を飲み込み始めた。
『プロフェッサー!、危ない』
大地に吸い込まれる寸前、フーバーは教授の腕を引いた。
地面が砕け始め、周囲に弾けた岩の欠片が飛び散って、その一つが教授のヘルメットを強打した。
教授の体がぐらりと揺れて、急に重くなった。
フーバーは必死にその体を支えた。
このまま、ここに居てはまずい。
彼は咄嗟にそう思った。
トラックがまだ側にあった。
意識を失った教授の体を荷台に乗せ、エンジンを回した。
周囲にはまだ人が居た。
だが、助けるほどの余裕はないと、彼は判断した。
急発進でクレーターの上を目指した。
気を抜けば舌を噛みそうなほど、体が上下に揺れた。
ディーンは、光の中で何かに触れた。
ゆっくりと、取り出し。
再び、息を飲んだ。
それは・・・。
咆哮が聞こえた。
これは、抜いてはならない。
ディーンは本能でそれを感じた。
だが、もう遅かった。
彼はそれを戻そうとした。
そして、弾かれた。
手を離してしまった。
それは、絶対に手放してはならない物だったのに。
彼の体が、光に囚われた。
一瞬、あたたかな温もりを感じ、そして、次に恐怖に変わった。
それは、未知という名の恐怖だった。
『ディーン!!』
クレーターの上まで辿り着いて、フーバーは叫んだ。
立方体が、姿を変えるのを、彼は見た。
あれは、悪魔か。
光が再び立方体の内部から溢れ、凄まじいまでのエネルギーの奔流を生んだ。
大地と空の全てが鳴動し、激しい衝撃が襲った。
そして、それは破裂すると見えた瞬間。
収縮した。
フーバーは見た。
全てが無に帰する瞬間を。
調査隊のトラックも、基地も、人々も。
そして、謎の立方体も。
全てが、消え失せた。
『まさか・・・』
フーバーは目の前に広がる空間。
もはや、虚無としか言いようのない空間を見つめた。
いや。
正しくは「無」ではなかった。
風が止んだ。
大地には砂塵が広がり、クレーターの中央に、何かが光った。
あの瞬間。
ディーンが掴みかけたもの。
そこには、一本の短剣が、まるで伝説の王の証の如く、大地に突き立っていた。
いよいよスタートいたしました。
感想・コメントお待ちしています。
ブックマークしていただけると、本当に嬉しいです。
やる気に直結します!
ぜひ、よろしくお願いします。