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冒険者とチュートリアルパート

 お風呂がとても気持ちの良かった。

 やっと泣けたことで気分も少しだけ軽くなったし、今やるべき事も決まった。

 妖精さんに魔法で風を起こしてもらい、身体を乾かすと着ようとしていた制服がなくなっていて、代わりにスケスケのネグリジェみたいなものが置かれてた。


 ちょっと!私まだ中学生なんだけど!!


 14才だよ14才!早い。早すぎる!!

 中学生にピンクのスケスケは流石に早い。なに考えてるのあの人!!バカじゃないの!?

 せめてパジャマにして欲しいと思ったけど、流石に全裸のままここを出るわけにもいかないのはわかってる。このまま出たら、多分精霊さまにいただきますされるような気がしてならない。自意識過剰かも知れなくても、万が一を考えるとそれは絶対にイヤだ。

 仕方なく渋々ネグリジェに袖を通して、妖精さんが洗ってくれたらしい下着だけ履いていざ出ようかとも思ったけれど。でもやっぱり頼み込んで、スポブラも返してもらってて身に付けてから部屋を出た。

 スポブラとネグリジェって、酷いってレベルで本当に合わないな…

「ああ。やっと、出……」

 精霊さまの声が止まる。それはそうだろう、何といってもスケスケのネグリジェとスポブラと下着だ。色気もへったくれもないし、ダサいのは百も承知。でもそもそもこんなものを用意する方が悪いと思う。

 私はいつも寝るときはスウェット派です。だって楽なんだもん。

「…何か?」

「別に」

 少しだけ不満そうに精霊さまが私を見る。頭の先から爪先までじっくりと。

 そう、ならば見るが良い。今のこのダサい私の姿を!

 年頃の女子中学生としての矜持を、今だけ捨てた私。だが次の言葉に愕然とする。

「…まあ、脱がせれば中身は同じだよね」

「絶対に止めて!!」



 ああもう本当にどうしてこうなった。



 こんなキャラクターを作った開発者やスタッフを、ちょっと本気で殴りたい。

 現実では一番人気だといっても、超人気声優をあてたこんなエロボイスのセクハラキャラは、2次元だからこそ許されるのであって実際に存在したら流石に困る。歩く猥褻物陳列罪だよ…。

 そんな猥褻…いや、精霊さまにこの世界の事について聞いてみた。私の持ってる知識と、この世界の現実がちゃんと合っているかとか。


 結論からいうと“合っている”


 ただ私の知らない事も、当然いくつかあった。

 先ずは沈黙の夜。話を聞く限り、どうやら多分だけどこれはメンテナンスタイムの事じゃないかと思って、思い付く限りの可能性について聞いてみた。

「言われてみると確かに沈黙の夜が明けた後は、現れる魔獣や魔物の系統も変わってるね。…でもよく気がついたねそんな事。今まで気にしたことなかったのに」


 やっぱり…。そんな気がした。


 理由は三つ。

 1つは巫女姫という特別な女性だけが、いつ沈黙の夜が訪れるかを把握できる。これは多分メンテナンスを告知するキャラアイコンが、確か巫女姫だったからだと思う。

 2つ目の理由は、建物の中に居れば安全だということ。きっと新たに増えたり減ったり追加で出てくるモンスターが変わったりとか、期間限定イベントなんかでフィールド上やダンジョンみたいに設定を変更する必要がないから。

 3つ目。2の理由の続きとして、メンテナンスタイムにフィールド上やダンジョンに居ると…きっとその間にマップ上の設定が変わってしまうから、そこにいるキャラクターそのまま消えてしまう可能性が高い。


 キャラクターも世界も動けないし動かない。だから沈黙の夜、なんだ。


 でも…これをどうやって説明したら良いんだろう。説明してもわかってもらえないかもしれない。

 自分たちがゲームの…作り物の世界の存在だなんて言ったところで、誰が信じるんだろう。街の人たちも、精霊さまも…こうしてちゃんと生きているのに。

 というかこの精霊さまは、明らかにゲームのシナリオからは外れている気がするんだけど。発言がいちいちエロくさい。確かこのゲームは12才以上推奨だった気がするのに。

「キミは本当に違う世界から来たんだな。というか、この世界を作った存在と同じ世界から来たんだっけ?月の階段から現れただけでなく、こうしてオレが思いもしなかった角度からこの世界を見てるなんて」

「そういえば月の階段て…」

 確かこのゲームを始める時に、物凄く運の良い冒険者だけが通れるゲートの事だったはず。月の階段からこのゲームに参加したプレイヤーは、無条件で精霊が味方をしてくれるという初心者にはとんでもなくラッキーでありがたい仕様。

 一番凄いと思ったのは、なんと精霊に好かれるとよっぽどの事がない限り殆ど死ぬことがないという。寿命はあるらしいけど、怪我や病気を患ってもそれが原因で死ぬ事がなくなるらしい。怪我でも毒でも病気でも、その場で直してくれるんだそうだ。

 あー、それでギルドのおじさんはあんなこと…

「精霊さまは、地の精霊…なんですよね?」

「そうだね」

 私からすると、地の精霊じゃなくて痴の精霊のような気もするけど。

「私…昨日ギルドに登録して認識票をもらいましたけど、精霊さまが私の身元保証人なんですか?」

「そういうことになるね」

 だろうね。だって死ななくなるんだし。

「登録した職業が…この赤い石だと魔法使い、になると思うんですが」

 私は魔法なんて使えないし使ったこともないのに何故この職業に…

「ボクがキミの代わりに戦うからだよ。だから、精霊使いで良いんじゃないかな」

「は!?」

 え。私が精霊さまを代わりに戦わせるの?それは凄く便利というかありがたい。一応冒険者とはいえ、当たり前だが私は戦ったことがない。私の今までの戦いらしい戦いと言えば、ほとんど動かない芋虫相手に何とか引き分けたくらいだ。

「大丈夫、ボク強いから」

 別にあなたの強さを心配してません。

 というか精霊なんだから普通に強そうだし…。





「ご、ゴメン…あとは、頼…む…」

「えええええ─────ッ!?」


 ちょっと精霊さま!!貴方強いんじゃなかったの!?


 街で武器や防具といった装備を買って整えるのは、まあ普通のゲームと変わらない。

 私の職業は精霊使いということなので、魔力を上げる効果があるという天然石の付いた大きめのナイフ(ダガーというらしい)を買った。

 買ったというか、物々交換?

 お店の人との交渉で、精霊さまの魔力を武器や防具、アクセサリーといった装備品に込める代わりに、ナイフと薄い金属で作られた胸当てとポーチを譲ってもらった。

 ギルドから支給された200イェン(多分日本円で2万円位だと思う)とポーションを支給されたけど、お金は大事という事で使ってない。


 だけど…


「せ、精霊さま…きゃあっ!!」

 構えてはいたけど突進してきたスライムに突き飛ばされて尻餅を付いた。

「あいたたた…」

 痛むおしりをさすりながら立ち上がる。

 意外と重いなこいつ。取り合えず目の前の敵はスライムに3匹か…


 ん?スライム3匹?


 あっ!もしかしてこれ、ゲームの戦闘パートののチュートリアルかも。出てくるモンスターも数も同じたし!

 そっか、だから精霊さまは戦えなくてやられたとか。…うん、ありえる。

「えっと、それじゃあポーションを…」

 腰に付けたポーチから小さな瓶を取り出して一口…飲もうとしたけど止めた。隣で倒れてる精霊さまに飲んでもらおう。

「精霊さま、これ飲んでください」

 瓶の蓋を開け、仰向けで倒れてる精霊さまに緑の液体を飲んでもらうと空っぽの瓶をポーチにしまって再びスライムと向き合った。

「うう…プルプルしてる」

 こんな半透明のゼリーみたいな生き物は現実にはいないから、どうやって倒せば良いんだろう。取り合えずダガーで攻撃してみようかな…

「…やあっ!!」

 一番近い真ん中のスライム目掛けて刺してみた。蒟蒻みたいな感触だけど、でもブルブルと激しく震え表面が波打つように揺れているので、取り合えずダメージは与えられたらしい。

 ダガーを引き抜いて今度は斬りつけようとすると、スライムたちは跳び跳ねるように逃げてしまった。

「え?嘘?」

 倒してないのに行っちゃった…

「何とか撃退できたね」

「精霊さま」

 この役立たずと言いたかったけど、これがチュートリアルだったなら仕方ない。本来冒険者はこの最初の戦闘パートでは、例え妖精や精霊のパートナーが居たとしても一人で戦わなくてはならないのだから。

 でもそうなると本来自分が使うべきアイテムを、他の人に使ってしまったというのはゲーム的に大丈夫なのかな。

「……まあいっか」

「何が?」

「いえ、何でもないです。それより精霊さま、大丈夫ですか?」

「何が?」

「スライムに突き飛ばされて…」

「ああなんだ、そんな事?別に平気だよ。ダメージは受けてない」

 ええっ!?

「地の精霊であるボクが、あんな雑魚から体当たりされたくらいでダメージなんて受けるわけないと思わない?」

「それは…」

 確かにそうだけど!!

「じゃあさっきのポーション…」

「うん。全くの無題だったね」

 やっぱり!!酷い、ポーション返して!!

「…フフ、そんな顔しないで。折角の可愛い顔が台無しじゃないか」

 それは貴方が私にそういう顔をさせてるの!!

 ああもう本当、声に出して言えない自分が情けない。文句を言いたいけど、でも言えない。

「ゴメンゴメン。でもさっきのポーションは、キミの優しさとして受け取っから…怒らないで、子猫ちゃん」

「……」

 頭を撫でられながら笑顔て言われると、怒りたくても怒れなくなる。美形は狡いと思った。特にこの人は、顔と声が反則過ぎる。

「……ズルい」

 そんな風に言われて、これ以上怒ったままでいられる女の子なんていないよ…

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