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冒険者と光の人型の人

 サラスバティアに起きっぱなしになってしまった荷物を取りに行かせてから、戻ってきたスピネルはまたすぐに抱き付いて押し倒してきた。


 ───これはもう、怒って良いよね?





 夕方頃に昨日と同じ山の麓まで来たら、空間移動で来た瞬間妖精さんたちが沢山集まってくれた。

「わあ!また来てくれたんだ?」

「皆アーシャの事が大好きなんだよ」

「そうなの?それなら嬉しい!」

 昨日一緒に踊ったら、妖精さんたちは打ち解けてくれたらしい。ダンスが好きって本当なんだ。

 私たちの周りをくるくる回っている妖精さんは、どうやら一緒に踊ろうと誘ってくれているらしい。でも此処で踊るのかどうかと思ってスピネルを見上げると、さっきビンタした頬にはハッキリと私の手形が残ってる。…ちょっとやり過ぎた、かな?




「いい加減にしてこのエロ精霊───!!」

 出会った頃はあんなにかっこ良かったのに、今はかっこ良くもあるけれど大型犬みたいになってしまった。

 別に嫌いとかじゃないし、そういう意味で好きなんだと意識した時に比べたらずっとずっと好きなんだけど…。でも、こんな美形の大型犬にまとわりつかれてたら、私の身体と心臓が持たない!!

「…だ、だってアサ…アーシャがあんまりにも可愛くて…」

 しょんぼりと項垂れる様に、ない筈の垂れた犬耳と尻尾が見えた気がした。


 …ちょっと、可愛いかも。


 いやいや。でもここは自分の貞操の為にも譲れない、心を鬼にしないと。

 このままだと本当に、本当に色んな意味でいただきますされてしまう。今でさえキスを拒めなくなってきているのに、これ以上は本当に大惨事だ。私まだ14才なんだから!

「これ以上何かしてきたら、一緒のベッドで寝るの止めるよ?」

「それはダメだ!」

 ダメって、そんなこと言われても…

「アーシャは、ボクのことキライ?」

「ううっ…!」

 だ、だからダメだって。ここはしっかり断らないと。キライじゃないけど、こういうのは良くないってちゃんと言わないと!!

 でも悲しそうなスピネルを見ると、つい甘やかしたくなる。顔が綺麗な人って狡い!!

「…アーシャ…」

「わ、わかった!わかったから!!」


 

 ────回想おしまい。勝者、スピネル。


 吐息混じりの掠れた悲しげな声で名前呼ばれたら、誰だってこうなるよ!

 

 私が敗北を悟り観念した瞬間、また嬉しそうに飛び付いてきたスピネルに露出が増えた肌にあちこちキスをされて、胸のところで縛っていた飾り緒を口でくわえて解こうとしていたところで強制終了させた。


 この変態精霊め。ビンタ1回で済ませた事に感謝して欲しい!


 そんなわけで、ウルスラ国に戻ってくるのが遅くなってしまった。辺りはもうすっかり黄昏時になっている。

 自作した踊り子の格好に、冷たい風が肌に吹き付ける。露出が増えたけどあまり寒くないのは、ちゃんと精霊の加護をもらっているんだろうな。そこは感謝しないと、

「またここで踊れば良いの?」

「ここじゃなくて、もう少し先に進もう。昨日の道から少し逸れたところに、彼を祀った祠がある」

 ──祠?


 薄暗くなり岩肌の露出した山道を、妖精さんたちが自ら光って案内してくれる。なので足元もちゃんと見えるし、先も明るいので迷う心配がない。ありがたい。

 多分妖精さんがいなくて、スピネルもいなくて一人だったら確実に遭難してた自信はある。


 光に導かれるまま進むと、草木に囲まれ隠れるように置かれた石板があった。石板なのか、それとも石碑っぽい気もするけれど、どちらなのかわからない。

 石とも岩とも言えない大きさで、大きさだけで言えば2リットルのペットボトル6本入りの段ボールくらい。

 上を向いている面にはこの世界の文字と、よくわからないけど魔方陣みたいなものが描かれていて、何となく御利益がありそう。折角充電も回復したのだし遠慮なくスマホで撮影した。女の子は大体こういうものに弱い。

「着いたよ。…それにしてもだいぶこの辺りも朽ちたな」

 そう言ったスピネルの声は、少しだけ寂しそうな悔しそうな感じがした。

「この石って何かあるの?」

「そうだね。でもそれはアーシャが頑張って踊ってくれることが必要なんだ」

 だから頑張ってね?と言われても、私は何をどう頑張れば良いのか。踊るにしても何かリクエストでも聞いた方が良いのかな。うーん…

「えっと、私がここで踊れば良いのはわかったんだけど…どんな曲で踊れば良い?」

「曲?…そうだね、じゃあ昨日よりもう少し明るい曲でお願い」

「わかった」

 じゃあ昨日とは違う、精霊たちが降臨する時の曲にしてみよう。オーケストラみたいな盛大な感じのやつ!

 踊れる足場を広げるために、足元の小石を蹴って退ける。適当な広さを確保してから、荷物を置いてリュックからスマホを取り出すと…あれ?

「もう充電が減ってる。昨日回復したのに今63%だ」

 祝福って切れるの早いのかな。それとも昨日大音量で曲流したからかな?

 まさか昨夜通話で消費されているとは夢にも思わないので、そのまま曲を選択して一曲リピートにしてからスタート。


 わ!昨日より凄く踊りやすい!!


 昨日は着ていたチャイナドレスの裾が邪魔で足を上げたりとかが出来なかったけど、今日はもっと動ける!

 身体の近くで回していても取りやすいし、キャッチする時の邪魔にならない。この衣装にした私天才かも!

 昨日よりも踊るのが楽しくて、首やうなじでバトンを回していたらまた妖精さんたちが集まってきた。

「妖精さん、こんばんは!」

 踊りながら挨拶をすると、妖精さんたちはくるりと一回転してお辞儀をくれた。カワイイ!!


 筋肉痛なんてなんのその。もう嬉しくて楽しくて全力で踊った。


 流石に疲れてきて五回目のリピートが終わる頃、投げたバトン…もとい棍をゴトリと落としてしまった。

「あちゃー…」

 やっぱり体力ないなぁ…。8回通しで踊っただけで、もうバテちゃった。一曲3分54秒だから、30分以上ぶっ通しだよ。そう考えるとこれは体力の問題じゃないな、普通に。今私レベル41だもん…疲れた。

 まだ踊った方が良いのかと思ってスピネルを見たら、笑顔で手を降ってくれた。つられて手を降り返すけど、どうやらまだ頑張らなくてはいけないらしい。

「はー…」

 深く息を吐いて深呼吸。よし、もう一回!

「アーシャ待って!もう大丈夫。やっと彼が来てくれた」

「彼?」

「ほら、あれを見て?」

 スマホを切ったスピネルが指を指した方を見ると、石板の文字と魔方陣が光っていた。それを見た妖精さんたちは驚いたように散り散りになってしまったけれど、何故か私やスピネルの後ろに隠れている。


 え!?もしかして何か怖いものでも出るの!?


 どうしよう、逃げたい。でも私の後ろに隠れてる妖精さんたちを見捨てられない。棍を構えて石板に向き直ると、魔方陣が一際眩しく光って、輝く円の中から光の人型が出たきた。

 本当に光の人型。顔もわからなければ性別もわからないけれど、長い髪が揺れているのはわかる。

“久しいな、地の精霊。それとそこの娘、良き舞いであった”

 なんだろう。声として聞こえるというより、頭の中に直接響くような不思議な感じ。

 人型の人が誰かわかったらしい妖精さんたちは、ゆっくりとその人型の人の周りで飛んでいる。…人型の人ってなんだろうと自分でも思うけど、私にはそうとしか言えない。本当に光の人型の人なのだ。

「久しぶりです、精霊王」

「精霊王!?」

 うわどうしよう!人型の人とか失礼なこと思っちゃった!!…声に出してないからセーフ、だよね?

“人型の人、か。面白い娘だな”



 メッチャバレてる────!!



「あ、あの。失礼な表現でスミマセン…」

“構わぬ、異界の娘よ”

「ありがとうございます…」

 …うう、何だか居たたまれない…。でも今私のこと異界の娘って言った?

「精霊王、こうして舞を捧げることでしか貴方を呼べなかった事は、この大陸を守護する者としてお詫び致します」

“…人間たちは、世代が進み文明が発展するにつれて自然への畏怖や敬意を忘れていく。それも仕方がない”

「っ…」

 今胸にグサッときた。人型の人…精霊王さまの言葉は、私たち人間への警告にも思えた。

「それでも貴方は世界を見ている。違いますか?」

“如何にも。我はただ、見守るだけ”

「ではお聞きしたい。今この大陸では、何が起きているのでしょう。地の精霊たるボクは、今は彼女を守護している為大陸の全てを見ることが出来ないのです」

“────…”

 な、なんだろう。光ってる人型で、顔はわからないのに見られてるのがわかる。

“…この娘が、世界を混沌の時代へ還すとしてもか?”

 えっ!?

「いいえ、この世界の混沌は彼女のせいではありません。それよりもっと以前から既にもたらされているのです」

 ええっ!?

 ど、どういうこと?私にもわかるように説明してほしい!!

“───良いだろう。このままでは近い内にウルスラとアストライアは戦争を起こすだろう。ウルスラの王女がアストライアの神官に唆され、災厄をもたらそうとしている”

「王女さまが!?」

 王都で出会った王女さまを思い返すと、確かに南の神官と密会していた。でも唆されてるってどうして?

“その災厄を引き金とし、大陸全土を巻き込む戦争へと発展する。王女を止めぬ限りは”

 そんな、あの綺麗で優しそうな王女さまが、戦争の引き金になっているなんて…!

「精霊王、教えて欲しいのはその先です。糸を引いているのは誰なのですか?」


“────アストライアの”


 精霊王さまがそこまで言い掛けたとき、突然大きな刃が降り下ろされ、光の人型が縦に真っ二つになり石板が砕かれた。

「精霊王さま!!」

「悪いな、お嬢ちゃん。うっかり手が滑っちまった」

 そう言って降り下ろした大刀(薙刀の刃の部分がもっとでっかく大きくなったもの)を構え直すのは、青緑の髪に明るい茶色の瞳の男。東の神官グリンド!

「貴様!!」

「そう怒るなよ地の精霊。アンタは傷付けるなって言われてんだ。無傷で姫の元に連れてくるよう言われてる。…にしても、強い魔力を感じて来てみりゃ大当たりだな」

 そうか、巫女姫はスピネルのこと諦めてないんだ!

「あの、一つ教えて下さい!ディズィーヴさんはどうなったんですか?」

 結果的に私たちを見逃してくれたけど、何か罰を受けたりとかしてないかな。大丈夫だったかな…

「ああ?何でテメェがアイツの心配なんかすんだよ」

「いえあの、お元気かな…と」

「はあ?」

「アーシャ、もう少し言葉を考えようか」

 確かに他に言いようがあったかも。

「さあな。あいつは…ああ、言われてみると確かに変わった気もするな。けど俺らは巫女姫の命が最優先なんだ、神官といえども他の奴の事なんか知ったこっちゃねえ!」

 そういって構えた大刀を、今度は横薙ぎに振るう。

「うわ!」

 い、今の私の首を狙った!?

「へえ、今のを避けられんならもっと楽しめそうだなお嬢ちゃん!!」

 この人、狙いは私だ!!

「アーシャに出だしはさせない!」

 スピネルが炎の魔法を放ってくれたけど、その炎を突っ切って私に刃を降り下ろしてきた。

「甘えよ!!」


 ガキィン!!


「ぐっ…くうッ」

「このくらいは受け止めるか。まあそうだよな」

 な、何言ってんのこの人。咄嗟に棍で受け止めたけど、衝撃で手が痺れるし何より重い。頑張って踏ん張ってるけどむこうはまだまだ余裕そうだ。

「お、教えて下さい…。どうして私が指名手配されてるんですか?」

 棍を斜めに傾け力の方向をずらすと、刃をかわして後ろに飛び退く。突然指名手配されるようになるなんて、やっぱり訳がわからないし納得がいかない。

「簡単なハナシ。姫は地の精霊をご所望だ。その為にはお嬢ちゃんが邪魔っつーワケ」

「え?それだけ?」


 なんということでしょう!まさか巫女姫がスピネルに一目惚れしていたなんて!!


 そうか、でもそれで私を生きて捕らえろってことなのか。私の意思がないと契約が解けたとしても、スピネルが巫女姫を嫌がったら一緒になんて無理だろうし。

「じゃああの、もう一つだけ!」

「何だよ質問多いなテメェ!!」

「ご、ごめんなさい!」

 怒られてしまった。でもダメ元でも聞いてみたい。

「あの、橘紗綾さんて知っ──」

 全てを言いきる前に、グリンドは大刀を振りかぶって襲い掛かってきた。

「きゃ!」

「させない!」

 スピネルがすぐに魔力で出来た壁を張ってくれたけれど、すぐに砕けて光の欠片となって散っていった。どうやらこの人は物理で押し切るタイプらしい。

 魔法や魔力で戦う、スピネルたち精霊や妖精とは相性が悪そうだ。だって高火力の魔法を突っ切って突破したくらいだから。多分この人は、巫女姫か誰かから封護の首飾りを借りている気がする。

「何故テメェみてえなガキが、あの方の名前を知っている…」

 先程までとは比べ物にならないくらい人相が悪くなったグリンドに、多分橘紗綾という名前が切っ掛けなのはすぐにわかった。




 間違いない。橘さんはこの世界に居るんだ!

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