プロローグ・運命の分岐
異世界に転生したら○○だった
××の異世界ライフ。元なんとかはうんちゃらかんちゃら
ある日突然異世界に転生し□□として生きることにしました
異世界異世界異世界。そんなにこの世が、現実が嫌いなのか。
本当に昨今の異世界ブームに私は正直うんざりしている。クラスの友達も好きな作品の話だから、みんな楽しそうに盛り上がっているけど、私はあまり馴染めそうにない。本当は私もマンガとかアニメの話とかしたいけど…
タイトルが長ったらしくて覚えにくいのもあるけれど、それより何より異世界転生というものが嫌いで仕方がない。
異世界転移とか召喚とかならまだ良い。でも異世界転生はイヤ。
理由は簡単。転生とは生まれ変わる事。つまりそれまでの自分の生を捨ててるということ。
勿論作品の中では不慮の事故だったり病気だったりと、亡くなる理由自体に主人公に咎があるものではないのが圧倒的に多いけど。
それでも結局は『思い通りにならない自分の人生をとっとと終わらせて理想の人生を生きたい』という、書き手や読み手の身勝手な欲望が詰め込まれたそれらは、今は異世界転生ものとして、娯楽の一つのジャンルとして確立されている。
異世界転移、なら良いんだけど…
どっちも似たようなものだと思われがちだけど、価値観の違いなのかな。でも異世界に救世主として召喚という話なら昔からよくあるし、何よりそれまで生きていた人生を終了させて別の世界で気楽に生きるという話でもないので、それは私も楽しく読んでいる。昔は憧れたし。
でもこんな風に考えるようになったのは、きっと師匠の影響が大きい。
「自分で自分に負けることだけは何がなんでも絶対イヤ」
そんな風に言っていた尊敬する…先輩?いや、通っている習い事の3つ年上の友達、なのかな。
明るくて優しくて面白くて。それでいて年下の私たちにも仲良くしてくれるし、時には先生の代わりに練習も見てくれる、私にとっては憧れのお姉さん。小学生の子なんかは、先生よりもなついている子も多いと思う。
私が来年高校生になる頃には入れ違いで卒業するから、同じ学校に通うことも出来ないけれど。でもその憧れが私の進路を決めた。
そんな憧れのお姉さんは、世界中の誰に負けても、自分にだけは負けることが何より許せないという結構苛烈な人だった。私には自分に負ける、ということがどういう事かよくわからないけれど。
でもきっと、自分の人生を手放すことに後悔も葛藤もさほど描かれる事がない、異世界転生という作品は、結局楽な人生を気楽に生きたいという、現代の人たちの欲望と願望の共感を呼んで、昨今の人気になっているんだろうとは思う。
「何でかな…」
「おいあそこ見てみろ誰かいる!!」
突然聞こえてきた男子の声に振り返り、彼が身を乗り出して指を指している方を見るとコの字型の向かいの校舎の屋上に女子生徒が立っている。なんで!?どうやって屋上に!?
いつも鍵が掛かってて入れない筈の屋上に、どうやって…
急に騒がしくなった教室にがさらに騒がしくなる。
「ちょっと!あの子フェンス上ってる!!」
「だ、誰か先生呼んでこい!!」
その言葉が終わる前に誰かが教室を飛び出して行った。
「キャアアア!!」
「危な!!」
「ちょっ、今の危なかったよ!!」
「ヤベえ、これマジ!?」
フェンスを跨ぎ、乗り越えるときにぐらついた身体に、教室内は一気に騒がしくなった。中にはスマホで撮影しようとする男子と、それを非常識だと非難する女子の言い争いも始まったけど、それどころじゃない。
────私はすぐに教室を飛び出し、そのまま屋上へと廊下を走った。