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第1話 水着回

 それはある西日本、日本海側の誰もいない真夏の海。

 私達はそこに来たのです。

 

 何しに来たかって?

 そう…私達は遊びに来た…

 

 ただ…遊びに来た…


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇっぇぇぇぇいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい」


 浜辺を全裸で走り回る私の友達裕子。

 彼女は狂っていた。

 今日だけじゃない、多分生まれつき。

 

 私達と言っても今日海に来たのは私と裕子だけ。


「水着回だああああああああああああああああ!最初から水着回だあああああああああああああああ!」


 縦横無尽に私達しかいない浜辺を走り回り海に飛び込む裕子。

 なんで私達しかいないかというと、裕子が暴れまわって追い払ったから。

 警察も来やしない。

 私達が何かしても大体見逃される。

 

「おいっ!裕子!水着回じゃねえし!お前、水着着てないから水着回じゃねえし!」


 私が渾身の裕子の振りを渾身の突っ込みで返すと、裕子は病んだような笑みを浮かべながら近づいてきた。

 

「鈴子…何言ってるんだよう…海に来たら水着回に決まってるだろ?ん?!」


 当たり前のように全裸で私の前に裕子は立ちはだかった。

 こいつはまあキレイだけど、どこか頭のねじがぶっ飛んでいる。

 そもそも西日本のどこかに東京から来たのも裕子の思いつきだ。

 しかもさっき決めて今着いた。


「裕子!よく見ろ!私は私服だぞ!水着持ってないし!水着ないのに泳ごうとするお前と一緒にするな!」


「鈴子は真面目だなあ。いいか?結局は自分のことを好きになってくれそうな抵抗しない妄想上の娘達が際どい格好で少年達をやんわりと挑発するから儲かるんだ。ほおら私の胸に挟まれたい少年達が続々と群がってくるのが見えるぞ」


「いねえし!そんなのいねえし!全裸で走り回ってる異常者に誰も欲情しねえし!」


「そうか?ここで私が100円でやらせてあげるって看板出したら私の下に何万、何十万の少年達が集まり収拾がつかないことになるぞ」


「何言ってるんだお前!バカなんじゃないのか!おい!何万人も相手できるわけないだろ?余った少年たちはどうするんだよ?」


「ああ?それは性欲にたけ狂って鈴子を襲うに決まってるんだろ?」


「何言ってるんだお前!巻き込むなよ!また私のことを巻き込むなよ!」


 そうなのだ…いつもそうなのだ…

 裕子の起こす騒動につい巻き込まれてしまう。

 今日もいつの間にかどこかわからない海に来てしまった。

 だが最初はスイーツ食べ放題のイベントやってるからと裕子に誘われて山手線に乗っていた。

 そうしたらこの有様だ。


 途中で電車代が足りなくって新幹線の改札を無理矢理突破したり、後払いのバスをやっぱり無理矢理金を払わず降車したり、とにかく私は疲れた。

 

「鈴子、元気出せよ。私達は今年で高校を卒業しなくてはならない。忘れられない思い出を作ろう。夏は海、夏は水着回…あれ?誰かこっちに来るな?あらかた追い払ったと思ったんだが…」


 裕子が何か気配でも感じたのか振り向きながらそう言った。

 裕子が見た方向から確かに誰かこちらに向かって歩いてきていた。 

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