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中二病オールスターズ  作者: 千葉シュウ
ある日の中二たち
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1-5「関西弁?」

 食事を終えた創作活動部の面々は、学食から外へと繋がる通路を歩いていた。


 ぷんすかと怒りながら先頭を歩いているのはハルカだ。彼女はメロディの方を見向きもせず無言を貫いている。


 アスナとトーコはいつもの調子でお喋り中。


 一人どうしていいのか分からなくなったメロディ。本当は自分の力だけで謝りたいが、ハルカを最も知っている頼みの綱であるトーコに聞くことにした。

 こそこそとハルカに気付かれないようトーコに耳打ちをする。


「……なぁトーコ、どうすりゃいい?」


 すぐさま返事が返ってくる。トーコによるアドバイスは「こういう時は時間を置けば問題ないよ」ということだった。

 メロディはそれをかなりマジな感じで言われたので、一旦保留にして明日改めて謝罪をすることにしていた。これから遊ぶというのに、何とも気が重いことだ。


 そのまま我関せずと二人のお喋りは続く。


「見たことない子沢山いたね。新入生かぁ」


「んにゃ、誰か入って来てくれるとありがたいねー!」


 二人の興味は西中にやって来た新顔たちに向けられていた。去年まで在籍していた三年生の先輩が卒業してからというもの、年の離れた部員が欲しいのだ。


 創作活動部は別に部員を募集していないわけではない。

 ただその条件が厳しかった。彼女たちの中に入っていくには、中二の嵐に巻き込まれる覚悟が必要だった。マジモノの人間しか生き残ることが出来ない過酷な世界。


 その総本山である彼女達の部室がある部室棟は、運動部からその他の雑多なサークルまでもが押し込められていた。


 四人は校舎の外に出る。


 部活動に精を出す生徒たちの元気な声が、晴れやかな空と調和して青春そのものといった情緒がある。昔から残る風景だ。

 四人はなんとなくグラウンドを眺めながら歩いていると、あっという間に目的地に辿り着く。三階建てで、要所要所にカーボンパネルや新式炭素鋼をふんだんに使用した頑丈な建築物だ。エントランスに入ると、所持している端末が入室を許可してくれる。

 玄関口横の簡易エレベーターを使って三階まで上がると、彼女達が良く知る部室の入り口が見えて来た。


 入り口のドア、その上部に付いている小さなスクリーンには『創作活動部』というシンプルな表示がされている。隣には全員で書いた部活オリジナルのキャラクターも張られていた。

 メンバーそれぞれの特徴を取り入れたカオスちゃんは、イラストを投稿するサイトでは少しだけ人気がある。

 イラスト横の吹き出しには『メンバー募集中!』と書かれているのだが、今までこれを見て入って来た猛者は存在しなかった。


 先頭のハルカが無言で入室用カードキーを使う。横にドアがスライドして部室の全貌が顕になった。


 やたらと広い部室は、空きがここしかなかったから決まった偶然の産物である。カオスちゃんはまるでこの部室を表しているかのようだ。


 そこら中に張られた何らかのアニメポスターが本来の壁色を覆いまくっている。一部任侠映画のが混じっているが、誰の趣味かは容易に想像がつく。

 

 中央に置いてあるテーブルこそ綺麗だし、ゴミが落ちているというわけではないので清潔さは保たれている。

 それでも、所々に自作イラストを印刷した用紙が落ちていたり、スクリーン下に幾つかのレトロゲーム機が置いてあるなど雑多な光景であった。現代日本では非常に珍しくもある。


 しかし、最も目立つのはコクーン型のVR筐体きょうたいだろう。

 四台も並ぶと流石に壮観だ。いかに広い部屋とは言え大半のスペースを陣取っている。


「ただいまー……むっ!?」


 最初にその存在に気付いたのはトーコである。


「……! みんな気を付けて。闇の力を感じる……!」


 トーコは眼帯を触り、深刻そうな表情を作った。


「何を……うわ、確かになんか暗いかも」


 闇の力がどうとかは理解されなかったが、部室にどんよりとした空気が漂っているのは確かだった。


 メロディとアスナは慎重に部屋の中を探る。すると、どうやらその発信源がテーブルの下から出ていることを確信する。


 部室内のテーブルにはクロスが掛けられており、その下が見えない状態だ。


 皆がやたらとシリアスな空気を作っているがハルカは気付いている。行方不明の某キラリが潜んでいることを。

 なんなら他の三人も気付いている。ただ、今のハルカは遊びに付き合ってあげる気はさらさらなかったようで――


「えい」


「は、ハルちゃん!」


 ハルカが冷静にクロスを引きはがすと、キラリが姿を現した!


「ハルカちゃーん! ……ううー……」


「はいはい、泣かないで下さい」


 ハルカは幾度目になるか分からない役割を果たしていた。

 大人の女性が失敗して泣き、中学生の胸の中で慰められているというのは凄い画だ。全国津々浦々を探し回っても中々見られることはないだろう。その身長差は二十近センチメートル近い。


 それを凝視していたのはやはりというか、アスナであった。彼女は何でもいいのだろうか。


「ふぅ……堪能たんのう中。僕はとてもいい気分だよ」


「オレが言うのも何だけど、お前おかしいぞ」


§


「おーい、やってるか?」


 実は創作活動部の顧問を務めているのは、二年三組担任のタカハシであることはそれ程知られていなかった。

 というより、彼本人が隠している。


「ういっす! 今日遅れちゃってごめんね!」


「ええんやで。いやぁ、ほんま敵わんなー。キラリせんせもゆっくりしていきやー」


 関西弁?


 いや、聞く人が聞けば分かるが、タカハシのこれはエセである。


 大阪弁を話すと言いつつも、実は三重や兵庫出身な勢力にも似た出身地詐欺。

 とはいえ、基本的に人前では使わないのがモラルを感じられる。受け入れてくれる人は少ないだろう。

 方言が資料としてしか残っていない地域もある現代においては、ある意味重要な存在と言えるかもしれないが。


 そんなタカハシの過去。

 かつてはお笑いタレントになろうとしていたタカハシの学生時代。関西弁が有利だと思いついて、必死に真似をする毎日。

 様々な事務所のオーディションを受けるも、あっという間にエセだとバレて「標準語の方がいい」と至極真っ当なアドバイスを受けた彼は、いつしかその道を諦めていた。


 それでも染みついた喋り方は消えないし使いたいので、プライベートな空間ではこうなるのがタカハシであった。 


「ではそろそろ私は戻りますねー」


 キラリはハルカに慰められて落ち着いたのか、非常にリラックスしていた。ただ、一応は部外者だし仕事が残っているの二重苦状態なので、賢明な判断だと言える。


 みんなの挨拶に送られながら部室を出ようとしたキラリだが、タカハシに呼び止められる。


「主任、結構怒ってたで。気いつけてな」


「あはは、でもやってしまったのは間違いなく私なので。素直に怒られてきます」


 さて、それでは活動を開始しようかとタカハシが立ち上がると、スーツの懐から小さなリモコンのような物体を取り出した。


「ほな付けるでぇ」


 タカハシがスイッチを押した。


 すると、コクーン型VR筐体の『VRSA9-3』が起動し始めた。内部に使用された超臨界状態の流体を元に、金属製の円環が生み出す回転エネルギーを発生させる。

 メンバー全員、久々のことに心を躍らせながら準備を始めていた。

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