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中二病オールスターズ  作者: 千葉シュウ
ある日の中二たち
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1-4「ケチャップはないわー」

 二年三組の教室では、タカハシによる休み中の課題回収が行われた所だった。

 未提出の生徒は一人としていない。そもそも課題の数自体大した量ではなく、人によっては一日も掛からないだろう。


「よーしオッケー。今日は解散だ。気を付けて帰るように」


 一切の問題なく今日のカリキュラムは終了した、というわけではないが、とにかくやるべきことは完了していた。


「タカハシ、キラリちゃん大丈夫だった?」


「ああ、全然大丈夫じゃないぞ」


「いや、そんなはっきりと言われてもにゃぁ……」


 始業式終了後、キラリが「一人になりたい」と言い残して一時行方不明になっていることで教師陣は少々慌てることになったという一件が、あるにはある。それも、未解決事件のままだ。

 ただ、こうした状況では毎回同じところで発見されることが知られているから騒ぎになるほどではないゆえ見過ごされていた。後にキラリは叱責しっせきを受けることになるだろうが。


 ともかく、本日の全日程は終了。

 生徒たちは悲しい気分を入れ替え、久々の友人との時間を各々が楽しんでいた。


 ハルカたちは今日、久々に創作活動部の部室で遊ぶ予定だが、その前に昼食を取ることにしたようだ。


 早速メロディは学内ネットワークに接続し、献立を検索した。


「おい見ろよこれ!」


 ハルカは端末を覗きこんだ。

 日替わり定食のBセットはラタトゥイユ定食と表示されている。


 メロディが見ているのは学生食堂の献立だ。

 西中には公立の中学校としては珍しく、専用の食堂が併設されていた。

 実はこの公立における学食システムは保護者からの評価がかなり高い。

 というのも、必ずしも全生徒が一般的な給食システムのように同じ食事を取る必要がなく、何を食べてもいいからである。


 お弁当を作る家庭は作れば良し。

 買い食いをするも良し。

 各家庭のスタイルに合わせたシステムは生徒からも気に入られていた。公立校では学園都市内でしか実施されていないレアなケースである。


 その背景には、より自由度の高い学校を目指そうという西東京市の先進的な取り組みがある。

 未来型の都市として今もなお進歩を続け、大学も多数キャンパスを置く西東京市ならではのことだ。かなり先進的な取り組みだが、現状ではかなり受け入れられている方の継続案件である。

 宗教上の都合にも対応するなど、臨機応変な点も評価が高い一因だ。


 そんな西中の学食は、教室棟から徒歩で数分程度の場所に位置している。五番棟という名称は基本的に使われておらず、ただ学食と言われる場合が多い。


 建物内はコンビニエンスストアとカフェテリアが併設されている。各種生活用品も揃えられ、お茶も楽しめる生徒たちの憩いの場だ。


 ハルカたちが連絡通路を通って学食にたどり着く頃には、既に満席近い状況であった。ホームルームの終了時間がクラスによってまちまちだったのが影響していたのだろう。


「うへー、混んでるねぇ!」


「これも世界が与えし試練なんだよ……! さあ、皆も人混みをかき分ける冒険の旅へ――」


「行かねぇよ」


「まず席取ろっか」


 彼女達は空席を探し回り、窓際の席を確保した。


 椅子に座り荷物を置くと全員が携帯用の電子端末を取り出した。

 西中の学食は食券システムではない。ここでもやはり、学園都市らしく最新技術が惜しみなく導入されている。

 使い方は簡単。

 あらかじめ学内用の端末に食べたいメニューを設定しておく。

 そのまま学食の入り口で専用の端末にかざすことで注文が完了し、端末が注文者の座席情報を検知。最後はロボットによって自動的に配膳される。

 これだけだ。


「メロちゃんはBセット? 確かメロディのお家で一回食べたやつだよにぃ」


「うん、あの日はとっても楽しかったよメロディ……!」


「おう、あの日はママもパパも気合入ってたな。娘に出来た初めての友達だとか言ってよ。失礼なこった」


 ハルカは友達の件は実際にそうだと知っているので少し引っ掛かったが抑えた。

 ママおよびパパという部分にも引っ掛かっていたが、流石に野暮なのでツッコまなかった。


「ねー、楽しかったよね! またしようね!」


 コンビニで買った惣菜パンを食べているアスナは、楽しいことが大好きアピールを欠かさない。それが彼女のアイデンティティに繋がるのだ。


 メロディは故郷の味を噛みしめていた。机上のラタトゥイユは昔ながらのフランスの家庭の味に酷似している。メロディとしては、ママの作る味には及ばないとのことらしいが。

 なぜ日本ではメジャーでないラタトゥイユがメニューに並んでいるかというと、簡単に作れるからだ。

 一定の味を生み出すことが出来る水溶性の調味料は、開発されてから急速に広まった。主に西東京市内で。

 こうした大衆向けの大きな食堂で採用されることが多く、味のクオリティは最高とは言えないが、一定の水準を保つことを可能としている。


「今度は誰の家がいいか決めようよ。もう一人の私が言うには私の家はダメらしいんだけどね……!」


「それ、自分が嫌なだけだろ。正直に言ってみな」


「ち、違うよ! もう一人の私、いや私が言いたいのはね――」


「じゃあトーコのお家で決定だね。詳細はまた今度考えるけど、もう一人の私とやらにも伝えておいて」


「もう、バカにしないでよう!」


 頬を膨らませなふがら不満げにしているトーコは、オムライスへとスプーンを入れて口に運ぶ。ラタトゥイユと同様に、格別の味わいという程でもないのだが安心感のある味付けである。


「トーコ、それ一口くれ」


「はい、どうぞ」


 空いた小皿にトーコがオムライスを取り分けた。メロディはそれを口に運ぶと美味しそうに食べる。トーコはもうニコニコだ。

 それもあってか、もうトーコの不満は解消されたようでかなり満足げである。単純なことだ。


 卵に包まれたチキンライスに使用された調味料の商品名とキャッチコピーは、このようになっている。


『昔ながらの家庭の味を完全再現! オムライス向け汎用チキンライス作成用合成調味料!』


 とても美味しくなさそうである。外部の都市ではまず売れないだろう。特に汎用とか合成とかいう部分がいけない。かなり人工的な匂いがプンプン漂っている。

 広告やマーケティングに金を使わないのも西東京市ならではだ。あくまで試験的な販売という側面を考慮しても酷い。


 こういった商品が当たり前のように普及しているのは、まさに西東京市ならではと言える。開発・販売は西東京市に本社を置く研究機関によるもので、いずれは改善された商品を全国に売り込む予定だろう。


 そんな細かい裏の事情など知らずに食べている生徒の方が多いのだが。

 持参した弁当を食べているハルカにメロディが頼む。


「おいハルカ、その卵焼き美味そうだな。くれよ」


 ハルカが持参した弁当の中でも、本人が最高傑作と判断した結果、中央に鎮座しているのが卵焼きである。いくらでも拘ることが出来るレイアウトを無視して配置された綺麗な形のソレ。

 そこから読み取れるのは、いかに本日のおかずの中で卵焼きの重要性が高いかという点だろう。


「ダメといったら?」


「うおぇっ、いやそれは……その無理にくれる必要はないっつーか……」


 メロディはからかわれていた。ハルカの狙い通りに変な声を出してしまい、ほのかに赤らむ頬が彼女のやさしさを表していた。


「冗談だよ。ほら、あげる」


 ハルカは感想を聞きたくてうずうずしている。

 気付けばらしくもなく、やたらと饒舌じょうぜつになっていた。


「どう? 今日の最高傑作で、いつもより醤油を少なめ、油多めにしてみたの。それがビックリするほどうまくいったから、自分で言うのもなんだけどお母さんのよりおいしいと思うの。焼き加減も――」


 ひょいとスプーンで卵焼きをすくうと、メロディはトーコから貰ったオムライスが乗っていた小皿に一度卵焼きを置いた。残っていたケチャップに付けたのだ。

 口に運ぶメロディを見てハルカは唖然あぜんとした。


「い、今何をしたの……!」


「どうしたよトーコみたいな喋り方して。美味かったぜ」


「違うでしょ……今あなた、トーコから貰ったオムライスのケチャップに付けたでしょう……!」


「そ、そうだけど?」


 困り顔のメロディ。

 ハルカはもうガッカリだった。


「バカ! 卵焼きにケチャップ付けるなんてもうバカ! ふーんだ! もう頼まれてもあげない!」


「わ、悪かったよ! だからそんなこと言わないでくれ! 美味しい、本当に美味しかったから!」

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